サッカーの試合中、男性あおむけに 脈弱く、口から泡…通報から救急車到着まで緊迫の9分間 加古川

人命救助に対する感謝状を受ける(右から)池田佑人さん、嶋田邦男さん、福田幸夫さん=加古川市平岡町一色、同市東消防署

 サッカーの試合中に意識を失った40代男性に心肺蘇生措置を行い、人命を救ったとして、兵庫県加古川市東消防署は、同市の少年サッカークラブ「平岡北サッカークラブ」に感謝状を贈った。コーチら近くにいた関係者が、119番通報や胸骨圧迫による心臓マッサージ、自動体外式除細動器(AED)の使用など、素早く役割分担して行動。同署が「お手本のような応急手当て」とたたえるほど、連携の取れた救命劇だった。

 救助事案があったのは、3月4日夜だった。

 その日は午前に練習し、午後6時に同市の平岡北小学校に再び集合。小学生ら15人と、保護者やコーチ、同クラブOBら約40人が、楽しみながら試合するイベントを催していた。

 同クラブ代表の嶋田邦男さん(69)は、ゴールキーパーをしていた。同7時半ごろ、コーチの男性が右サイドをドリブルで駆け上がっていくのが見えた。その後、男性は自陣に戻ってきて、嶋田さんの前を横切ってから、ゆっくりとあおむけに倒れた。

 嶋田さんは「しんどいから休憩しているのかな」と顔をのぞき込んで名前を呼んだ。しかし反応がない。顔に触れても動かない。異変を察知した他の参加者が集まってきた。男性の脈拍は弱くなっていた。

 そこからの対応が、速かった。

 20代の男性コーチが「救急車呼んで! AED持ってきて!」と叫ぶと、一人が同校の体育館へAEDを取りに走った。ジムでインストラクターをしている女性は、心臓マッサージを始めた。

 コート外で試合を見ていた池田佑人さん(26)は、男性が倒れた場所に集まろうとしていた子どもたちに、「みんなこっちに来て」と声をかけ、離れた場所に誘導した。そして心肺蘇生が行われている場所まで走り、心臓マッサージを交代した。池田さんで3人目だった。計5人が交代しながら胸骨圧迫を繰り返した。

 AEDが届いた時、男性は口から泡を吹いていた。

 男性に付属のパッドを装着し、ボタンを押すまでの間には、心臓マッサージを再開する担当の人を決めていた。

 AEDを作動させたが、拍動は戻らない。すぐに心臓マッサージを始め、AEDの指示に従ってもう一度ボタンを押すと、男性が呼吸し始めた。

 そこに救急車が到着。119番から9分がたっていた。救急車に同乗した同クラブ関係者は、搬送先の病院で、医師に「応急措置がよかったから、脳も心臓も問題がなかった」と言われたという。

 男性は現在、後遺症なく生活している。

 人命救助に直接関わったのはコーチら関係者9人。嶋田さんは「その場にいたみんながやれることをして、助け合ったからこそ救命できた」と強調する。救命講習を受講したことのある人が何人もいたといい、「講習を受けることの大切さを改めて感じた」と話す。

 消防庁が公表する「救急・救助の現況」によると、2021年に一般市民が目撃した心肺機能停止の傷病者数は2万6500人。そのうち、1万5225人に心肺蘇生が施され、1カ月後に社会復帰できた人は1477人(9.7%)だが、AEDを使用した1096人に限れば、440人(40.1%)に上る。

 市東消防署の奥村昌宣署長は「倒れてから何もしなければ、救命率は1分間に10%低下するとされている。大変勇気のある行動で、見事に連携の取れた『チームプレー』だった」と賛辞を惜しまなかった。(斉藤正志)

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