相次ぐ「撮り鉄」トラブル、名誉挽回に心がけるべきマナーは? 危険行為は絶対やめて、あいさつと思いやりで良い思い出に 「鉄道なにコレ!?」【第46回】

JR博多駅に停車中の客車12系を使った団体臨時列車を「駅撮り」する人たち=2019年9月29日、福岡市で筆者撮影

 鉄道写真を撮影する「撮り鉄」を巡るトラブルが相次いで報じられ、批判の声が出ている。マナーが悪い人はごく一部だが、撮り鉄というだけで十把一絡げに見なされることもあり、撮影を趣味とする鉄道ファンからは「肩身が狭い思いをしている」と嘆く声を耳にする。「紳士の趣味であるべき」(男性愛好家)との指摘もある鉄道撮影の名誉挽回には、どのようなマナーを心がけるべきなのか。(共同通信=大塚圭一郎)

 筆者が本稿ではお伝えしきれなかった内容も含めて音声で解説しています。共同通信Podcast「きくリポ」を各種ポッドキャストアプリで検索いただくか、以下のリンクからお聞きください。
 https://omny.fm/shows/news-2/28

 【撮り鉄(とりてつ)】鉄道の車両や駅舎などの撮影を趣味としている鉄道愛好家や、撮る行為を指す言葉。列車に乗るのが好きな「乗り鉄(のりてつ)」と共に鉄道ファンの主要カテゴリーとなっている。鉄道の沿線には山や河川、田園風景、特徴的な建物などをバックに走っている列車を撮影できる場所が点在しており、このようなスポットには複数の撮り鉄が集まってカメラを構えていることも多い。一方、プラットホームといった駅構内で列車を撮ることは「駅撮り(えきどり)」と呼ばれている。

北海道の駒ケ岳をバックに国鉄(現JR北海道)函館線を走るディーゼル車両「キハ40形」などの列車=1980年3月6日、北海道七飯町で吉村元志氏撮影

 ▽敷地内で撮影し緊急停車…過失往来危険罪などに問われる可能性も
 2023年6月3日、栃木県矢板市内のJR東日本東北線の蒲須坂―片岡間で撮られた撮り鉄による迷惑行為の動画は、瞬く間にネットで拡散され、テレビのニュース番組でも報じられた。動画では、日本国有鉄道(国鉄、現JRグループ)時代の1968年に登場した電気機関車「EF81」がけん引するオール2階建て寝台車両「カシオペア」からけたたましい警笛が鳴り響いた後、列車が緊急停止。線路脇の敷地内でカメラを構えていた3人の男性は一目散に逃走した。団体旅行客を乗せたカシオペアは安全確認などのために約14分遅れた。
 3人の行為は列車の往来に危険を生じさせたとして過失往来危険罪(第129条第2項、罰金30万円以下)に問われたり、鉄道敷地内に入ったことで鉄道営業法違反(科料1万円以下)に問われたりする可能性があるとの指摘も出ている。
 現場は線路沿いに柵がなく、遮る建物もない田園風景のため列車全体を撮りやすいため愛好家の間で有名なスポットとなっていた。当日は線路から離れた場所に約50人の愛好家がカメラを構えていたとされ、遅れてやってきた3人は撮影者たちがファインダーに入らない場所を求めて敷地内に立ち入ったとみられる。
 一方、静岡県沼津市のJR東海道線の6カ所の踏切で非常ボタンを押して運行を妨害したとして沼津署は6月12日、威力業務妨害の疑いで神奈川県横須賀市に住む男子高校生を静岡地検沼津支部に書類送検した。JR東海によると、非常ボタンが相次いで押された1月7日に上下計6本を全区間運休、上下計14本を部分運休し、上下計6本が最大58分遅れて約4970人に影響が出た。報道によると、高校生は「好きなアングルで撮るために電車を遅らせようとした」と話している。
 JR東海静岡支社広報室は「鉄道ファンに限らず、第三者による妨害行為で当社に損害が発生した場合はしかるべき対応を取ることとしている」とし、「安全な列車の運行を妨げる行為はお控えいただきたい」とコメントした。
 これらの列車の運行妨害は断じて許されない行為で、法令とマナーを順守した撮り鉄が強く求められている。
 

JR日田彦山線に乗車中の筆者=福岡県内

 ▽乗っていた電車が遅延、仕方なく〝駅撮り〟した結果は…
 前述のカシオペアは、2016年3月に上野(東京)―札幌間での定期運行を終え、現在はツアー客向けの団体臨時列車として活躍する、撮り鉄の人気ターゲットだ。筆者(50、撮り鉄歴約40年)も2017年2月27日、カシオペアを撮るために当時住んでいた東京都内から有名撮影地の通称「ヒガハス」へ向かっていた。埼玉県蓮田市のJR東北線沿いにあるヒガハスは東大宮駅(さいたま市)と蓮田駅(蓮田市)の間にあるのが呼び方の由来とされ、最寄り駅の蓮田から歩いて20分強かかる。
 しかし、乗っていた電車が遅れたため、カシオペアがヒガハスを通過する予定の時刻までにたどり着くのは絶望的になった。そこで蓮田駅の2駅手前にある土呂駅(さいたま市)で下車し、プラットホームの北側に立ってズームレンズを使い、通過するカシオペアを撮影した。 
 この写真は決して満足がいく構図に仕上がっていない。けん引するEF81の先頭にピントが合ったのは良かったものの、カシオペアの先頭1両の客車しか写っておらず、編成全体を捉えられていない。 
 また、写真の下部には、鉄道信号を作動させる継電器(リレー)が入った「リレーボックス」(継電器箱)の上部が写り込んでいる。背景に陸橋があるため、圧迫感がある構図だ。

電気機関車「EF81」がけん引する客車「カシオペア」=2017年2月27日、さいたま市で筆者撮影
「長崎きしゃ倶楽部」代表世話人の吉村元志さん

 ▽良い雰囲気で撮影する心がけは…まずはあいさつ 
 このように「駅撮り」では、満足のいく写真を撮ることができないこともあるため、走るのが珍しい列車、引退を控えた車両などをファインダーに収める際には列車全体を撮ることができたり、バックの風景が美しかったりするスポットに撮り鉄が集まりがちだ。マナーを守り、良い雰囲気で撮影できるための留意点を、撮り鉄の達人たちに聞いた内容を交えて紹介したい。 
 他の撮影者に合流する際には「あいさつをし、自分が他の人の邪魔になってしまわないかを確認するのは常識だ」と撮り鉄歴が56年になる鉄道愛好家団体「長崎きしゃ倶楽部」の吉村元志代表世話人(66)=長崎市=は力説する。複数の撮影者がいる地点では「先に着いた人たちが優先されるので、その人たちの邪魔をしないように気を付けることが大切だ」とくぎを刺す。

お召列車運行のために東京都内の東京機関区から大崎駅に到着した電気機関車「EF58」。ここから1号編成をけん引して原宿の皇室専用の宮廷ホームへ向かう=1980年10月11日、吉村元志氏撮影

 撮り鉄歴50年以上の大阪市在住の男性会社員(60)も「撮影場所に着いた時はまずあいさつをし、安全で適切な撮影ポジションを確認し、撮る場所を確保している」と打ち明ける。 
 筆者にはこんな経験がある。JR東日本烏山線でディーゼル車両「キハ40形」が運行最終日を迎えた2017年3月3日、栃木県那須烏山市の沿線を訪れて撮影に向きそうな踏切脇の場所を見つけた。そこに地元在住とおぼしき男性がいたためあいさつし、「ここで撮影してもいいですか?」と尋ねた。 
 すると、「うちの敷地まで入ってきていいよ」と隣接した私有地内での撮影を許可してくれた。他の撮影者も交えて列車が来るまで談笑し、楽しいひとときを過ごすことができた。 

 ▽運行情報は快くシェアする思いやりを 
 列車撮影のために集まった人たちはターゲットの列車が遅れているとか、どの駅を通過したとかいった情報は皆関心を持っているため「情報が分かった際には快くシェアする思いやりが重要だ」と筆者は心得ている。鉄道関連の掲示板や交流サイト(SNS)でのやりとりだけでなく、その場に集まった人同士での情報交換も生まれたり、会話をしたりするきっかけになる。 
 以前、撮影地に撮り鉄が大勢集まって激しいパニック状態になっていることを指す「激パ」という言葉が使われていることも、そのような場面で出会った若者に教えてもらった。 
 「カブらないといいですね」という会話がなされることも多い。「カブる」とはターゲットの列車が来たタイミングで、別の列車が手前の線路を走って遮られてしまうといった状況を指す。 

JR東日本烏山線を走る「キハ40形」=2017年3月3日、栃木県那須烏山市で筆者撮影

 ▽走る列車へのフラッシュ発光は厳禁 
 鉄道会社や鉄道警察隊の関係者は「特に鉄道ファンに人気がありそうな列車が走る時には、安全確保のため事前に警備態勢を決めるなどの準備をしている」と説明する。撮影者が迷惑をかけないように配慮すべき点について、JR四国はホームページに「撮影マナーに関わるご協力のお願いについて」として下記の点を列挙している。(表現を一部変更) 

 ・走行中の列車に向けてのスピードライト(カメラのフラッシュ)発光や、列車に接近するなどの行為は列車の安全運行を支障しますので、絶対におやめください 
 ・列車をご利用されるほかのお客様が写りこんでしまうと、トラブルのもとになりますので、ご遠慮ください。 
 ・アングルや構図を優先するあまり、私有地や危険な場所、線路内へ立ち入るなどの行為はおやめください。 
 ・ゴミがでることを想定してゴミ袋を用意するなど、公共の場所や私有地へのゴミのポイすてはおやめください。 
 ・ホームでの三脚や脚立のご使用は、倒れたり足を取られたりするなどケガや事故につながる恐れがありますので、おやめください。 
 ・撮影ポイントの場所取りや、過度な権利主張をするなどの行為はトラブルのもとになりますのでおやめください。

JR四国がホームページに掲載している「撮影マナーに関わるご協力のお願いについて」のポイント(同社ホームページから)

 駅のホームでの撮影では、危険回避のために黄色い線の内側に下がるのも当然だ。ある鉄道関連掲示板の運営者は「黄色い線を飛び越えていた撮影者がいたため、顔が分からないように後ろ姿を撮って掲示板で注意を呼びかけた。するとその後、執拗に嫌がらせの書き込みを受けた」と苦い体験を振り返る。 
 撮影場所で気持ちよくあいさつし、マナーを順守してシャッターを切り、帰路に就く時には周囲にごみがないかを確認する。そのような状況下で撮った写真を後日眺め、良い思い出が一緒によみがえってくれば一石二鳥ではないだろうか。 

 ※「鉄道なにコレ!?」とは:鉄道と旅行が好きで、鉄道コラム「汐留鉄道倶楽部」の執筆者でもある筆者が、鉄道に関して「なにコレ!?」と驚いた体験や、意外に思われそうな話題をご紹介する連載。2019年8月に始まり、ほぼ月に1回お届けしています。ぜひご愛読ください! 



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