突然少年 - 結成から10年、新体制で再始動してから1年の現在、ライブアルバム『The Meeting Place 20230324』をリリースする突然少年に"苦闘と挑戦の5年間"を訊いた

契約満了までは突然少年という名前で活動できなくて、「初恋」に変えた(カニユウヤ)

──まず、一時期、メジャーのレーベルと契約して、リリースをしていましたよね。

とだげんいちろう(ベース / 以下、とだげん):はい。フジロックのレッドマーキーに出たとき(2019年7月26日)、そのレーベルの人が初めてライブを観て、突然少年をやりたいと思ってくれたみたいで。

大武茜一郎(ボーカル&ギター / 以下、茜一郎):その直後に、初代のドラマーが脱けて、「どうしよう?」っていうときだったんですけど。でも、とにかくこのバンドの活動を止めないっていうことに、すごく躍起になっていたので。じゃあCDをリリースしよう、と言っているときに、そのメジャーから話があって。

──で、契約したと思ったら、2020年から世の中がコロナ禍になって。その年の9月にシングル「ボール」、10月にアルバム『心の中の怪獣たちよ』を出しましたけど、その後、レーベルも事務所もやめたわけですよね。

とだげん:はい。契約してから、突然少年の活動をどうしていくのかとか、そういう話を、レーベルのスタッフとマネージャーが決めるようになって。そのミーティングに参加させてくれないというか、ふたりで話がどんどん進んでいくようになって、「決めるときに自分たちが入っていないのはまずい、このままだとやらされている感じになってしまう」と思って。だからいったん離れたい、という話をしました。レーベルもマネージメントも、どっちも離れないと意味ないなと。マネージャーとは長かったし、大きな決断ではあったけど。

カニユウヤ(ギター / 以下、カニ):で、契約満了までは、突然少年という名前で活動しちゃいけないというのがあったらしくて。それで名前を「初恋」に変えて、しのけんが入って、契約期間が終わって半年後にバンド名を戻した。

──しかし、しのけんさん、そんなときによく正式加入しましたね(笑)。

ピエール畳(ドラム / 以下、しのけん):(笑)

とだげん:「こんなタイミングなんだけど、ほんとに入って大丈夫?」って訊いた気がする。

ピエール畳(Dr.)

──最初はどう知り合ったんですか?

しのけん:2019年に初代のドラマーがやめて、サポートドラマーを募集してるのをツイッターで見て、俺が応募して──。

とだげん:応募してくれた中から、良さそうな何人かに、何本かずつ叩いてもらって、メンバーを決める、ということをやっていたんです。

しのけん:それで10日くらいのツアーに行って、そのあと(岩本)斗尉が入ったんですけど。で、2020年の冬に……それまでは埼玉に住んでたんですけど、東京に引っ越して、とだげんとまた交流を持つようになって。「斗尉がいなくなっちゃうから、もう一回サポートで叩いてほしい」と言われて。

──サポートをやって、一回落とされてるんですよね。斗尉くんが選ばれたんだから。

しのけん:そうですね。

──なんで落としたんですか?

とだげん:うますぎたんです、演奏が。

とだげんいちろう(Ba.)

──(笑)

とだげん:これは自分たちと釣り合いが取れてない、自分たちが負けると思って。でも、そこから1年経って、また音を合わせてみたら、いい感じで。だから、その1年の間に、自分たちが、ちょっとしのけんに追いつけたんじゃないか、と思うんですけど。

しのけん:僕は、突然少年までは、バンドとかやってなくて。音楽の大学に行って、ジャズドラムを学んで、卒業してから、いろんなジャズのライブハウスで叩いたりとか、人のサポートとか、レコーディングとか。だから、違うフィールドに飛び込んだ感じでした。

──じゃあドラムが仕事になってたんですね。なのに、なんでわざわざ?(笑)

しのけん:ロックバンドでドラムを叩いてみたい、というのは、ずっと思っていたので。

メンバーがのびのびやってると、お客さんも集まってくる(とだげんいちろう)

──で、そこから1年経ちましたが。この1年は、いかがでしたか。

カニ:ライブは減りました。やりすぎだと思って。なんか、おかしいじゃないですか?

──(笑)いや、僕もおかしいと思ってたんですけど、メンバーがそうしたいんだろうな、と。

カニ:いや、断ってたライブも何本もあったんですけど、厳選してもあのぐらいの本数になっちゃっていて。誘われまくってたんですよね、単純に。で、「ここに出るのに九州に行くなら、こっちにも出よう」とかやってるうちに、月に12本とか15本とかになって。けど、ずっとそういうスケジュールでライブをやりまくっていくと、精神がすり減っちゃう。自分の無意識の中で、1本のライブの価値がどんどん下がっちゃう。これは良くないな、と思って。今もいっぱい誘われるんで、とだげんが厳選してくれているんですけど。

とだげん:もう友達のイベントか、誘われたときにハッと心が動くイベント以外は断るようにして。それでやっていく中で、1本1本が密なイベントというか、心の距離が近いイベントが増えた。出演者とも、主催の人とも。だから、自然といいライブをやれることが多くて。

カニ:いっぱいやってた頃は、対バンとか、主催とか……音楽に対して全然誠実じゃない人もいっぱいいたんで。すごいむかつくこともあったんですけど。今はまったくないので。

とだげん:そういうふうに、メンバーがのびのびやってると、お客さんも集まってくる感じはしていて。今、ちょっとずつだけど、お客さん、増えているのがわかるので。だから、いいペースなのかな、という気はしています。

カニユウヤ(Gt.)

大武茜一郎(Gt.Vo)

──最新アルバム『ナチュラル・ボーン』は、突然少年に戻るタイミングで出そうと?

とだげん:いや、そこ、曖昧でした。初恋のファーストアルバムにするのか、突然少年に戻ってから出すのか。そもそも、突然少年に戻るかどうかも……そのまま初恋でもいいんじゃないか、という考えもあったので。

茜一郎:2022年の3月に、大阪でレコーディングを。ファーストアルバムを録ってくれた人にお願いして。どう出すかは、録っている段階ではまだ決まっていなかった。でも、それまで録ったどの作品よりも、自然体でレコーディングに臨めた感じはします。

──このアルバムのリリース・ツアーで、各地を11本回ってみての手応えは?

茜一郎:それまでライブが多くて、年中あちこちに行ってたから、わざわざ「ツアーです」って銘打ってやることが、意外となくて。結成10年目にして初めてそれができた。そうやった意味が、ちゃんとあった気がします。

とだげん:お客さんも一番来たんじゃないかな、今までの中で。ちょっとオーバーに盛って「初ワンマンツアー」ってコピーを付けて情報を出したので。厳密に言ったらワンマンじゃないんですけど、でも、それも効果があったのかな。昔来てた人たちがまた来てくれたり、新しいお客さんも来てくれたり。

茜一郎:僕は、「突然少年ってなんだろう?」っていうことを考えながら、回っていた気がします。10周年で、しのけんが入って、突然少年に戻って、広範囲でツアーを回って、そこに集まってくれるお客さんたちがいて、その人たちの前で、ライブをやりながら……考えましたね。突然少年ってどんなバンドなんだろう、なんなんだろう、自分にとってどういう存在なんだろう、とか。べつに答えが出た、とかでもないんですけど。

ラストチャンスだな、と思ったんですよ(とだげんいちろう)

とだげん:なんか、突然少年を作らなきゃ、っていうイメージは、すごいありました。今まで、ただ高校の軽音楽部の延長線上でやっている、で、まわりの大人の人たちが、突然少年を作ってる、みたいな感じだったけれど、それじゃあお客さんはつかないな、と思って。自分らが、突然少年ってなんなのかを理解しながらやれるのが、メンバーそれぞれも楽しいし、お客さんも「バンドを観てるな!」って気持ちになるだろうな、と思って。

茜一郎:高校でバンドを組んでから、ひとときも立ち止まることなくやってきたのが、コロナ禍になって一回ストップして。で、初恋って名義にして、なんとかバンドをやろう、っていうところから立ち上がって。一回立ち止まったことで、バンドのことを考えるきっかけにもなったし。

とだげん:あと、僕は、ラストチャンスだな、と思ったんですよ。しのけんが入って、4人で話し合ってバンドをやっていける態勢になった。だから、今突然少年を形にできなかったら、一生できなそうだな、突然少年っていうものを作りたい、作るなら今だ、っていう。

とだげんいちろう(Ba.)

大武茜一郎(Gt.Vo)

──で、そんな、いいツアーだったんだけど、後半でトラブルが。

とだげん:(笑)はい。

茜一郎:ツアーのセミファイナル、山形から茨城に移動するときに……ゲストで出てくれたPine Shopというバンドと一緒に、レンタカーで東京から山形まで行って。で、山形から茨城に移動するときに、朝の4時か5時くらいに、ドーンと衝撃があって。運転席のほうを見たら、窓がなくなっちゃっていて。

とだげん:保険に入ってたから、修理代はなんとかなったんですけど、そのクルマを東京までレッカーで運ぶおカネと、事故ったのが山奥だったので、仙台までタクシーで行って、そこからみんなで鈍行で行った交通費とかで、数十万円になっちゃって。事故ったときに「これは何かやんないとヤバい」と咄嗟に思って、ツイッターで「投げ銭フリーライブをやらせてくれる場所、ありませんか」と募って。そしたらありがたいことに、全国各地から連絡をくれて。でも、全部は行けないので……東京の新代田FEVERは、茜ちゃんが働いてたりして、いちばん身近なライブハウスなので。で、大阪は、最初に連絡をくれた梅田のハードレイン。あと、京都はちょっと特殊で。次の日に『COMING KOBE』に出ることになってたんで、関西どこかでやりたいな、と。で、メシアと人人っていう、全国各地でめちゃくちゃライブやってるバンドがいて、それこそ事故も経験している先輩なので。そういう人たちと締めくくるの、いいな、と思って相談したら、会場も用意してくれて。

──おカネは集まりました?

とだげん:はい。投げ銭とグッズの売上を合わせたら、かなり集まって。そこから出演してくれたバンドにちょっとずつ返したり、ライブハウスにも、さすがに申し訳ないので、出せるだけ出したりして。その上で……ツアーファイナルのときに、チャリティのTシャツも売ったので、そういうのを入れると、トントンぐらいかな。

──ツアーの内容としては?

しのけん:慈愛を、感じましたね。

カニユウヤ(Gt.)

──(笑)

しのけん:対バンからもそうだし、ライブハウスからもそうだし、お客さんからもそうだし。みんなすごく優しかったですね。

カニ:みんな優しいから、申し訳ない気持ちになりました。普段のライブとはまた違う感じで……「感謝をこめて」みたいな感じで。明確に「ありがとう」っていう気持ちを持つ相手が目の前にいる、っていうのは、久しぶりというか。

茜一郎:投げ銭企画をやります、って発表したとき、SNSとか見てると、つっこんでくる人がいるんですよ。「事故ったの、自分らの責任なのに、なんで人にカネを求めるんだ」みたいな。まあそういう声も、間違ってないっちゃ間違ってないし。でも、その投げ銭企画で、ネガティブな空気を発したいわけじゃないから。いい空気でやれればいいな、と思ってたんですけど、実際やってみたら、全会場、どの日も、いい空気の中でライブをやらしてもらえて。それはすごくよかったです。あと、折り紙でメダルを作って、投げ銭してくれた人にあげたんですけど。それも急に「作ろう」ってなって。本番ギリギリまで、ずっと楽屋で折り紙を折ってるという。

しのけん:ゾーンに入ってくるんですよね、ずっと折ってると(笑)。

茜一郎:手伝ってくれる助っ人も、何人かいて。投げ銭用の箱を作ってくれたりとか、記念メダルを一緒に作ったりとか。今思えば、あれはけっこういい時間だったな、って。

突然少年っていうバンドに出会うべき人が、まだまだいるんじゃないか(大武茜一郎)

──今後の活動は、どんなイメージを?

とだげん:なんとなく突然少年を好きで、ライブに来てくれる、というよりかは、突然少年がなきゃいけない、突然少年って必要だよね、って思ってもらえたらいいな、そういう存在になれたらな、という。そのための活動のありかたを考えていきたい、と思っています。

カニ:ちゃんと自分に自信を持てるぐらいになりたい、というのがあって。音楽をやる上で、実力っていうか、最低限の能力みたいなのが必要な気がしていて。お客さんが入るとか、CDがいっぱい売れたとか、いろんな人が聴いてくれてるとかは……バンドの場合、そういうのって、運の要素が強い気がしていて。その運の部分は、コントロールできないからいいとして、自分がやるべきことをやるしかないのかな、っていうのはすごい思っています。逆に「あのときは運が良かったから、ああいうことをできたんだな」と、振り返って思うこともあるので。その運の要素を排除した部分で、やっていけるようになりたいというか。人事を尽くして天命を待つ、という。

茜一郎:突然少年っていうバンドに出会うべき人が、まだまだいるんじゃないかな、と、ずっと思っていて。そういう人に出会えるように、がんばっていきたいと思います。

──ライブアルバムが出るんですよね。

とだげん:はい。さっき話したワンマンツアーのファイナル、3月24日の下北沢シェルターを全編録音していて。その24曲の中から11曲、メンバーで選んで、曲順も考えて、初めてのワンマンツアーを振り返る、ドキュメントアルバムを。カセットテープにして、6月30日からライブ会場の物販で売り始めて、その日からサブスクでも聴けます。

【突然少年 profile】 2012年、高校の軽音楽部でバンドを組めなかった余りもの達が奇跡的に集まる。その代わりの効かない運命的な絶妙なバランスのサウンド・パフォーマンス・楽曲が口コミで話題となってゆき、2014年には10代限定の某大会に優勝、2018・2019年には念願のFUJIROCKに連続出演。同時にメンバーとの別れや突然の失踪・借金・交通事故・躁鬱などを経験共にし乗り越え益々逞しい誰も追いつけないどこにもない/どこにもいないバランスが日々確立されてゆく。そんなリアルロンリーパンチドランカーネイキッド集団それが「突然少年」。昨年結成10年目にはより高度な自由を求めて混沌とした現代社会に生きる価値や希望を見出してゆくためにメンバー4人で活動を切り盛りすることを決意し、主宰レーベル「犬の涙」を作る。その後、以前から近所に住む友人だったピエール畳(本名:篠原 賢)を新たにドラマーとして迎え約2年ぶりの3rd ALBUM『ナチュラル・ボーン』を大完成させた。その後、バンド結成10周年と3rdアルバムの発売を記念した初の11カ所全国ワンマンライブツアー『ひとりぼっち』を完走。そのツアーは3月24日下北沢シェルターでファイナルを迎え、その音源を収録したライブドキュメントアルバム『The Meeting Place 20230324』を6月30日にカセットテープと配信でリリース。この夏には初日に現地でアルバム内容発表&その場で即販売開始&ツアースタート!という異例のリリース&シークレットツアーを試みる『突然少年 TOUR 秘宝 2023』が控えている……。 ▷メンバー:Gt.Vo 大武茜一郎 / Gt.カニユウヤ / Ba.とだげんいちろう / Dr.ピエール畳(本名:篠原 賢)

© 有限会社ルーフトップ