京都市天然記念物の樹齢800年巨大カエデ、なぜ伐採 お寺が苦渋の決断

伐採されたカエデは根元部のみが残っている(京都市左京区大原)

 樹齢約800年といわれ、京都市の天然記念物にも指定されている古知谷阿弥陀寺(左京区大原)のカエデの木が6月中旬、姿を消した。寺のシンボルとして長年親しまれた巨木だったが、年々弱り、倒木の危険があったため伐採された。

 寺の参道脇にあったカエデは、高さ約20メートルで幹回りは最大3.7メートル。寺の伝承によると、慶長14(1609)年の寺の創建時には既に古木だったとされ、樹齢は約800年と伝わる。境内の約400本以上あるカエデの中でもひときわ大きく、紅葉の時期には参拝者を楽しませていた。

 しかし、2013年ごろに4本あった大きな枝のうち1本が折れて以降、幹の亀裂や腐食が目立ち始めた。キノコの一種で、木の栄養を奪うナラタケも生えるようになった。寺はワイヤと2本の支柱で枝を支えていたが、昨年秋には残りの枝1本が枯れ、幹の亀裂やねじれはさらに広がっていった。

 寺は樹木医や市などとも相談、倒木の危険があり樹勢の回復も見込めないことから、伐採を決めた。6月13~15日にあった伐採作業でワイヤを外すと、木は自然に根元から倒れたという。

 「生活の中に存在していた木だった。秋の淡い朱色の葉はきれいで色気があった」。幼少期から木を眺めてきた、住職の林哲照さん(41)はそう振り返った。悩んだ末の苦しい決断だったといい、残った株を前に「自重を支える力はなくても、一生懸命生きていた。今はさびしい気持ちでいっぱい」としみじみと話した。

 市文化財保護課によると、市天然記念物の樹木が伐採された例はない、という。今後は市文化財保護審議会に指定の継続か解除を諮問する予定。過去には枯れた樹木から新たな芽が出たことで指定を継続した例があるが、同課の担当者は「今回のケースは結果がどうなるか分からない」と話す。

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