巨大タコの国内最大級を更新か 初挑戦で5.8キロ釣り上げ「うれしかったけど怖かった」水族園で展示?行き先は…

明石市沖で5.8キロもの巨大タコを釣り上げた井上翔さん(沼端雅敏さん提供)

 関西でタコを食べる風習がある「半夏生(はんげしょう)」の2日、兵庫県明石市沖で国内最大級とみられる5.8キロのマダコが釣り上げられた。

 釣ったのは井上翔さん(40)=京都府京田辺市。遊漁船「明石恵比寿丸」に知人と乗り込み、タコ釣りは初挑戦だった。

■喝采

 その瞬間、竿は弓なりになってぴくりとも動かなくなった。

 井上さんは、釣り針が海底で引っかかる「根がかり」を疑ったという。周囲から「タコかもしれん」と声がかかる。思い直し、勢いよく引くと「ベリッとはがれるような感触」が…。約1分かけて糸を巻き上げ、あまりの大きさに網を二つ使って船へと引き上げた。

 息をのむ大きさに、近くを行き交う船からも「おめでとう!」と祝福の声が浴びせられた。船内で、記念撮影タイムが始まる。しかし、井上さんの顔は、なぜかこわばっていた。

 「もちろんうれしかったけど、怖かったんです。大きくて重いから支えていられないし、吸盤で吸い付かれるし。はよ撮って、と。ほんと、怖かったんです」

■記録更新か

 その時、誰よりも胸躍らせていた人が、別にいた。

 船長の沼端雅敏さん(21)。魚好きが高じて昨夏に「明石恵比寿丸」の先代船長に弟子入りし、この6月に船を引き継いだ。新船長は「こんな大きなタコ、見たことないですよ」と顔をほころばせた。

 実は、巨大タコを巡っては、6月に同じ明石市沖で5.4キロのマダコが水揚げされ、専門家が「日本記録と言っても差し支えない」と太鼓判を押したばかり。そして、そのタコが姫路市立水族館に寄贈されて展示中という話題が、神戸新聞7月2日付朝刊に掲載され、Youtubeにも動画が公開された。

 沼端さんはこの日未明、その動画ニュースを見てから、船へと向かった。

 午前5時、出港。乗り合わせた約20人の客へ「『みなさんも大きいの釣りましょうね』と声をかけて盛り上げていた」と振り返る。

 連日、4キロオーバーのタコがあがっていたイチ押しのポイントへ船を向かわせると、狙いは当たった。

 予想を超えるビッグな釣果を前に、4文字が頭をよぎった。

 「記録更新」…なのか?

■展示はかなわず

 漁港へ戻って重さを量ると、目盛りが指したのは「5.8キロ」。見事、6月に水揚げされた「国内最大級」を0.4キロ上回っていた。

 早速、姫路市立水族館で展示してもらえるかもしれないという話題を井上さんに伝えると、快諾してくれた。

 「そういうことなら、ぜひ!」

 期待を膨らませて巨大タコを受け取った沼端船長。そして、念には念を入れて近所の釣具店にも計量を頼み、意を決して水族館に電話したのだが…。

 「(担当者は)相当困っていましたね。でも、分かります。新聞で話題になったその日ですし、タコは共食いしてしまいますから」

 そうこうしている間に国内最大級の巨大タコは弱りはじめた。結局、沼端船長は海へと戻すことを決めた。

 ちなみに関係者によると、沼端さんは明石浦の遊漁船船長の中で最年少という。記者が巨大タコを両手で持ってもらって写真に収めようとすると、沼端さんは「僕が持つと小さく見えてしまうんですよね」とぽつり。

 「リンゴ300個分」と自称する大きな体は、明石浦の遊漁船船長の中で最大級、だそうだ。(鈴木雅之)

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