高原山周辺、シカの食害深刻化 牧草食べ尽くされ放牧できず 土壌流出の危険も

八郎ケ原放牧場第3牧区の柵に設置したカメラがとらえたシカの群れ(フェンス設置前)。柵の外から中に難なく移動していることが分かる=2022年6月、那須塩原市湯本塩原(県提供)

 栃木県の日光、那須塩原、矢板の各市と塩谷町の4市町にまたがる高原山周辺で、シカの食害が深刻化している。山腹の牧場は牧草がシカによって食べ尽くされて放牧ができず、関係者は対策に苦慮する。同山一帯に群生するササは、場所によって葉が一面食べられて枯れ野の様相に。専門家は植生が変わり、土壌流出の危険もあると警鐘を鳴らす。

 高原山の主峰釈迦ケ岳(1795メートル)北面にある那須塩原市湯本塩原の市営八郎ケ原放牧場。2020年度から乳牛の放牧が行われず、やむなく市外の牧場に振り替えている農家もいる。

 約51ヘクタールある牧草地の中で特に被害が大きい第3牧区は、牛が好む新芽が食べ尽くされ、飼料に適さない硬い牧草が生い茂る状態。森との境に建てられた柵の下はシカが地面を掘って潜り抜けた形跡があちこちに残る。市農務畜産課主査の磯健太郎(いそけんたろう)さん(41)は「1カ所穴をふさいでも違う場所から入ってくる」と話す。

 同放牧場は11年の東京電力福島第1原発事故後、牧草の放射性物質濃度が暫定許容値を超えたため、市は2年休牧して除染作業を実施。この頃からシカの侵入が増えたとみられる。

 県は21、22年度、公共牧場パワーアップ推進事業として第3牧区の周囲約1キロの柵にシカの通り抜けを防ぐためのフェンスを取り付けたが、現在もシカの侵入を完全に防ぐことはできていない。今後の対策について、磯さんは「牧草地の植生を回復させるにはシカの侵入を防いだ上で草地改良することが望ましい。ただ、費用の問題もあり判断が難しい」と頭を抱える。

 「根にたまるはずの養分が年々少なくなっている。徐々にシカの採食圧(食べる強度)に押されている」

 6月中旬、高原山の一部、矢板市のミツモチ山(1248メートル)の遊歩道沿いに群生するササを見て、同市農林課副主幹で農学博士(森林土壌)の市川貴大(いちかわたかひろ)さん(46)は分析した。山頂まで約2.5キロの遊歩道沿いで、この時季伸びているはずの葉がほとんど付いていない一群もある。主に餌の乏しい冬に食べられているという。山周辺の積雪が近年少ないことも食害に影響しているとみられる。

 ササがなくなり雨滴が直接落ち葉に当たるようになると、表層土の流出につながる懸念が高まる。

 塩谷町側の登山道沿いはさらに深刻。ササがほとんど回復せず、広葉樹も食害に遭い枯れている場所がある。市川さんは「植生破壊になりつつある。表層土が流れてしまうと取り返しがつかない」と危惧する。

シカの食害に遭っているとみられるミツモチ山のササの群生。茎の先に伸びているはずの葉が少ない=6月、矢板市長井

© 株式会社下野新聞社