愛され続け80年近く…86歳の名物店主が営む総菜店が閉店 福井県永平寺町、惜しむ常連客と過ごす最後の1日

閉店に際しても元気いっぱいで常連客らに接する稲葉とし美さん(右)=6月30日、福井県永平寺町松岡神明1丁目の稲葉食料品店

 おから、コロッケ、焼き魚…と、数々の手作り総菜で数十年にわたり地域住民に愛された福井県永平寺町松岡神明1丁目の「稲葉食料品店」が6月30日、閉店した。最終日は総菜目当ての常連客や、気さくな名物店主の稲葉とし美さん(86)との触れ合いを楽しみにしていた人らが続々訪れた。閉店を惜しむ客を稲葉さんは「ありがとの」と愛嬌たっぷりの笑顔で送り出した。

 店は70~80年ほど前に稲葉さんの義父が開業。板前の腕を生かした総菜の味が評判を呼んだ。稲葉さんは62年前に嫁ぎ、仕事も辞めて店を手伝った。昔気質の義父は料理を教えてくれず「見て覚えた」。1979年に義父が亡くなってからは稲葉さんが店主となり、親族らと切り盛りした。開けっぴろげな人柄が人気で「(稲葉さんがいるから)通っている」と言う常連客もいる。

 昭和期は繊維産業が盛んで周囲に工場などがあり「本当にお客さんが多かった」と稲葉さん。間口が10メートルほどの店内は「(50代の)娘が小学生のころ絵日記に『ありさんとありさんが、ごっつんこする店』と書いたほどだった」とにぎわいぶりを懐かしむ。

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 その後、周囲に大きなスーパーマーケットが進出するなどして客足は鈍った。常連客らに支えられ店を続けてきたが、物価高騰などのあおりで「ここが年貢の納め時」と4月に閉店を決めた。

 30日のお昼時は常連客でいっぱいに。毎日通っていたという近くの保田早苗さん(66)は「閉店にはびっくりした。仕方ないけど寂しくなるわ」と話した。一方の稲葉さんは終始笑顔で名残惜しそうな常連客に「『今日でお別れねー』って歌わなあかんねぇ」と冗談交じりで返すなど笑い声が響いた。

 閉店に際し、知人らから手紙や花などが続々届いた。「(続けてきて)よかった。寂しいということはない」ときっぱり。「カラオケ教室や絵画教室に通うつもり。健康マージャンにも誘われてる。まだまだ忙しいんやって」

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