飼料高騰「補助金だけでは全く足りない」畜産業者の嘆き、餌代1億円超えも

「餌の海外依存が過ぎたのかもしれない。農家も自立していかなければいけない」と話す谷代表(南丹市八木町・谷牧場)

 飼料価格がロシアによるウクライナ侵攻などの影響で跳ね上がり、1年以上が過ぎた。配合飼料価格は3年前の倍近くで高止まりし、京都府丹波地域の畜産業の現場では、餌の配合割合を改めたり、飼料米生産に力を入れたりするなど難局を乗り切る手だてを模索。支援を急ぐ3市町は、それぞれ同様の補助金支給の政策を打ち出している。

 「今回の決算では餌代が1億円を超えるだろう」。約140頭の乳牛を飼う谷牧場(南丹市八木町)の谷学代表(46)は表情を曇らせる。餌代が売り上げに占める割合は2021年7月末決算では5割を切っていたのが、23年7月末決算では65%を超える見込みだ。

 経費削減のため餌の質を落とすにしても、牛の健康維持のため限界がある。円安傾向で輸入飼料価格が上がる中、今後、餌用トウモロコシの地元生産も視野に入れるという。

 経費の多くが飼料費に充てられる畜産業を救うため、丹波3市町は乳牛1頭につき2万2千円~7千円など、飼育頭羽数に応じた補助金支給策を6月議会に示した。谷さんは「行政支援に住民理解が得られるよう、食を守る責任を果たしたい」と気を引き締める。

 一方、ブランド豚「京丹波ぽーく」を生産する岸本畜産(京丹波町蒲生)の岸本大地さん(40)は「補助はありがたいが、全く足りない」と、現状を打ち明ける。甘く柔らかな脂身を生むため、配合飼料のほか仕上げ前にパン粉を与えるなどこだわってきた。肉質を守りながら経費を抑えようと飼料を自らメーカーまで取りに行ったり、種類を変えたりと工夫するが、光熱費や人件費も上昇。たまらず昨年8月には、販売価格を100グラム当たり約30円値上げした。ただ「物価高に苦しむ消費者を思えば、高騰分をそのまま販売価格には転嫁できない」ジレンマもあり、ブランド維持へ、試行錯誤している。

 約2万羽の食用鶏を平飼いする栄光食鳥(南丹市園部町)は、飼料米の地産地消に力を入れる。米は高騰する輸入トウモロコシと同等の栄養価がある上、もみごと与えると食べ物をすりつぶす役割を果たし砂肝が大きくなるなど、鶏がより健康になるという。

 同社では、配合飼料に自社と近隣農家が育てた飼料米を3%程度混ぜて与え、鶏ふんを堆肥化し田に循環させている。飼料米買い取り価格と鶏ふん販売価格を相殺して餌代を抑える一方、農家側は飼料米生産に応じ10アール当たり最大10万5千円の国補助が収入となる。須知猛社長(55)は「利点は多く飼料米割合を増やしたい」のが本音だが「飼料米への補助がいつまで続くか分からず、農家に生産量を増やしてとはお願いできない」と二の足を踏む。

 丹波3市町の22年の飼料米作付面積は前年比1.5倍の52ヘクタール、牧草の代用となる飼料稲WCSは1.1倍の65ヘクタールに拡大している。高騰する輸入飼料を減らし農地の活用にもつながる取り組みだけに、耕畜農家のマッチングを進めるなど、背中を押す政策も求められる。

教育機関も直撃

 餌代高騰は、将来の担い手を育てる教育機関も直撃している。

 牛を飼って学び、全国の酪農現場に若者を送り出す南丹市園部町の農芸高でも22年度の餌代は前年度の1.5倍になった。一方、和牛子牛セリ市の6月平均価格は飼育コスト増の買い控えで、前年同期比20万円近く下落し54万円に。同高は和牛子牛を売って活動費に役立てており、ダブルパンチで経費節減は待ったなしの状況だ。

 乳牛は餌の充足率を100~110%にすると胃袋がしっかりし乳を良く出すが、餌の給与量を一時的に少し減らした。げっぷに含まれる温室効果ガスを減らす目的で牛に酵母を与えてきた環境面の取り組みも休止した。

 「理想的かつ最先端の手法を教える」同高理念の実現が揺らぐ。その中で、村西聡(あきら)実習教諭(52)は厳しいやりくりに頭を抱えつつ「レベルの高い教育のため、何ができるかを考えたい」と話す。

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