【森七菜×奥平大兼】「ふたりにとって心安らぐ場所とは?」『君は放課後インソムニア』インタビュー

撮影:川野 結李歌

青春漫画の旗手・オジロマコトの同名傑作コミックを、『東南角部屋二階の女』(08)や大ヒットドラマ「大豆田とわ子と三人の元夫」(21)などの池田千尋監督が、原作の舞台でもある石川県七尾市を中心としたロケで映画化した『君は放課後インソムニア』。

高校一年生の中見丸太(なかみがんた)は、不眠症(インソムニア)のことを誰にも相談できず、ひとり憂鬱で孤独な日々を送っていた。

そんなある日、丸太はいまは使われていない学校の天文台で、偶然にも同じ悩みを持つクラスメートの曲伊咲(まがりいさき)と出会い、その秘密を共有。

不眠症に悩むふたりにとって、天文台は心の平穏を保てる大切な場所になっていったが、ひょんなことから天文台を勝手に使っていたことがバレてしまう。

だが、諦めきれない丸太と伊咲は天文台を正式に使用するために、休部になっていた天文部の復活を決意する……。

『君は放課後インソムニア』©オジロマコト・小学館/映画「君ソム」製作委員会

そんな本作で、ヒロインの伊咲と主人公の丸太に扮してW主演を果たした森七菜と奥平大兼を直撃!

石川県七尾市での撮影秘話やお互いの印象からふたりにとっての心が安らぐ場所までド~ンと語ってもらいました。

『君は放課後インソムニア』は運命的な作品

――まず最初に、『君は放課後インソムニア』の原作コミックを最初に読んだときの感想から教えていただけますか?

当時はあまり漫画を読む習慣がなくて。それこそ漫画を読み始めた最初のころに出会って、面白いと思って読み始めたのが『君は放課後インソムニア』で、すごいスピードで好きになっていったから最初の印象を覚えていないぐらい。それぐらい運命的な作品だったような気がします。

奥平 僕は今回の実写映画のお話をいただいたタイミングで、台本を読んだ後、この作品の良さを理解しておきたいなと思って原作のコミックを読みました。

そのころは確か9巻か8巻ぐらいまで出ていて、実写版の先の話もちょっと混ざっていたんですけど、丸太と伊咲の空気感がすごくいいなと思って。

普通の学園ものの漫画にはないゆったり流れる時間が自分の感覚と同じような気がして素晴らしかったので、お芝居をするときにその空気感が反映できたらいいなと思いました。

実際に寝ないで1日行動してみた

――ともに不眠症の伊咲と丸太は天文台を正式に使用するために天文部の復活に乗り出しますが、撮影に入る前にはどんな準備をしましたか?

奥平 丸太は僕がいままでやった役の中でもトップクラスで自分とかけ離れていて。

でも、例えば不眠症について調べて、不眠症の人ってこういう感じなんだ?って分かったつもりになるのも嫌だったので、実際に寝ないで1日行動してみたんです。

そしたら、確かに丸太みたいになってしまうんですよね(笑)。

だからと言って、寝ないまま現場に行ったわけではないですけど、その感覚だけは知っておきたかったんです。

あとは、先ほどお話しした原作のよさや雰囲気を池田千尋監督と相談しながら反映していけたらいいなと思っていました。

私はもともと自分と伊咲が似ているなと思っていたので、逆に自分に…森七菜になり過ぎないよう、見た瞬間に“曲伊咲だ!”って分かってもらえるといいなということを考えました。

なので、容姿に関してはメイクさんやスタイリストさんにお任せしましたけど、私自身も原作ファンのひとりですから、いつでも見られるような漫画の好きなコマを台本に貼って、そこを意識していましたね。

――演じるキャラクターと自分の似てる、似ていないの擦り合わせやそのバランスはどのようにとっていくんですか?

『君は放課後インソムニア』©オジロマコト・小学館/映画「君ソム」製作委員会

最初のうちは分からなかった自分と似ているところが演じているうちに分かってくる。やっていると、自分がだんだん分かっていくのが分かってくるんです。

奥平 へ~、面白い!

そうなったときにやっと、自分との距離ができ始めて、発想や考え方もその人になっているときがあるんですよね。

それこそ、この撮影中も伊咲に染まっていたから、ロケをしていた石川県で、劇中の彼女とまったく同じ靴を知らないうちに買っていて。あれには自分でもビックリしました(笑)。

奥平 スゴ~!

自由に考えたことがいつの間にか伊咲の考えになっていたので、そこを大きくしていく。そんな感じでしたね。

奥平 確かに役に対しての理解度は増したような気がします。

撮影の最初のうちは役がつかめなかったり、共演者のみんなの空気感が分からないところも多少あって、そこは監督と擦り合わせていったけれど、振り返ると、僕もあの期間は丸太として生きていた感覚があります。

でも、悔しいんですよね。撮影が終わるころに役のことが分かる状態になっているというのは。

――お互いの役について、おふたりで話し合うようなことは?

『君は放課後インソムニア』©オジロマコト・小学館/映画「君ソム」製作委員会

奥平 まったくないよね。

本当になかった。

奥平 現場でやってみないと、お互い分からなかったですから。

伊咲がどう出てくるかによって、自分の芝居も変わるし、その逆もあったと思うので、話し合うというよりは、やりながら、こういう感じか、こういう感じかっていうのを、僕らもそうだし、監督もつかんでいかれたんじゃないでしょうか。

もう芝居をしているって感じじゃなかった

――そういうやり方をしたとは思えないぐらい、伊咲と丸太の距離感も絶妙で、とても自然でしたけど、おふたりは今回が初共演ですか?

いえ、2回目です。

奥平 でも、前の作品ではそんなに話さなかったから、今回が初共演みたいな感じです。

前は「世にも奇妙な物語 ’21 秋の特別編」(21)の中の1編「優等生」で共演したんですけど、そのときは壁越しのお芝居だったんです。

奥平 ああ、そうだったね。

でも、けっこうドラマチックな話で抑揚のある展開だったから、声だけでもインパクトがあって、スゴいな~って思ったんですよね。

そのときと比べると、お互いの表情を見ながら、リアルな生活の中で会話をする今回は、いい意味で手応えがなくて(笑)。

もう芝居をしているって感じじゃなく、「よ~い、スタート!」ってかかる前の、待ち時間の雑談の続きみたいな雰囲気で喋っていたんです。

そういう、いつも通りのお芝居もできるのが奥平くんのスゴいところだし、自分もやりやすかったので、ありがたかったですね。

奥平 僕も同じかな。前のドラマの森さんは明るい役だったじゃん。

そうだね。

奥平 僕は逆に暗かったんだけど、引きこもりの役だったから、そのときの森さんの印象は正直あまりなくて。

ただ、出演作はけっこう観ていて、すごいお芝居をするなって思っていたし、丸太も伊咲に引っ張っていってもらうようなキャラだったから、お芝居に関しては監督とも「森さんに引っ張ってもらおう」という話をしていて。

それこそ、森さんはナチュラルのお芝居をするから、撮影中に本当に笑っているのか、お芝居で笑っているのか分からないときがあって。

笑い方ひとつでもニュアンスが違ってくると思うんですけど、それが自然にできるのはその瞬間をちゃんと生きて、感じているからなんですよね。

そういうところがスゴいなと思うし、何をしてくるのか分からないから、すごく楽しくて。

僕も頑張ろうって気持ちに自然になりました。

森さんはやっぱりスゴい

――現場では、実際に森さんが奥平さんを引っ張っていく感じだったんですか?

『君は放課後インソムニア』©オジロマコト・小学館/映画「君ソム」製作委員会

奥平 撮影に入る前は、現場は主演俳優が引っ張っていくものなんだろうなっていう勝手なイメージがあったんですけど、今回は(ソフトボール部に所属している伊咲の幼いころからの友人・穴水かなみに扮した)安斉星来さんがすごく明るかったし、みんな本当に同じぐらいのテンションで。

高いときもあるけれど、高くないときもナチュラルにいるから、別に無理に引っ張らなくてもよかったんです。

ただ、森さんは引っ張らなければいけないときは、主演としてちゃんと引っ張ってくれたから、やっぱりスゴい。

僕もそれができたらカッコよかったんだろうけど、それが今回の現場ではできなかったので、先輩を見習いたいなと思いましたね。

演じながらときめいたシーンは?

――劇中には原作コミックそのままの素敵なシーンがいっぱいありましたが、おふたりが演じながらときめいたシーンはどこですか?

花火!

奥平 ああ!

花火はすごくよかったですね。花火を最近ずっと見てなくて、久しぶりに見たんですけど、あれはロケをした石川県七尾市の本物のお祭りの花火で。

コロナ禍でお休みしていたから、お祭り自体3年ぶりの開催だったんです。その花火っていうのも嬉しかったし、あの時間はすごくよかったなと思います。

奥平 僕は伊咲の写真を撮るシーンですね。

夜に川の近くをふたりで散歩しているときに伊咲を撮るところがあって。

それが後の、ときめきでシャッターを押す“ときめきシャッター”の一連に繋がっているんですけど、あそこは丸太としても自分としてもけっこうときめいていたかもしれない(笑)。

――伊咲がカメラを向ける丸太の前で足を高く上げるシーンも鮮烈でしたね。

あれは漫画の中の伊咲を象徴するポーズだったので、どこかで入れたかったんですけど、あのシーンを撮るってなったときに“ここだ!”と思って(笑)。

奥平 そうだったんだ?

宿泊していたホテルで柔軟体操をしてから、ちょっとやってみたんですけど、やることを監督にも話してなかったかな(笑)。

奥平 え~、スゴいね。僕はもう夢中で写真を撮っていたから気づかなかった。

もうちょっと、ときめいて欲しかったな(笑)。

――伊咲が“ある秘密”を丸太に話す雨のバス停のシーンの撮影はいかがでした?

あそこはめっちゃ夜遅くに撮影をしたんです。

スタッフさんも差し入れを食べながら頑張ってくれていたんですけど、原作の中でも重要なシーンだし、自分自身も思い入れがあり過ぎたから、私は自分が目標にしていたお芝居がなかなかできなくて。

そんな伸び悩んでいたときに、奥平くんがズブ濡れになりながら、熱量を上げるアクションを起こしてくれたから、本当にありがたかったです。

奥平 僕は森さんほど昔からこの作品のことを知っていたわけではないけど、撮影に入る前にはちゃんと好きになっていました。

それだけに、原作に寄せ過ぎるのもよくないなとも思って。

最初は漫画のそのシーンを意識していたけれど、漫画で見て知っている動きを最初から決めてやるのは僕がいちばん嫌いなお芝居だし、そこは自分たちの会話や空気からちゃんと気持ちを作って、リアルなものにしていきたかったんです。

そこに関しては、僕も森さんにすごく助けられました。最初にお話しした、やってみないと分からない、というのはそういうことなんです。

そう言ってもらえてよかったです。なんか私、“(湧き上がった感情を共演者にぶつけて行く)当たり屋”みたいなところがあるので、嫌われてないかなって心配していたんですよ(笑)。

ふたりにとって心が安らぐ場所とは?

――ところで、伊咲と丸太にとっての天文台のような、おふたりの心が安らぐ場所はどこですか?

地元の大分ですかね。大分は最近3年ぶりぐらいに帰って、それから頻繁に帰っているんですけど、生まれ育った場所はやっぱり居心地がいいですね。

両親も東京に引っ越したので、もう家もないんですけど、昔よく遊んでいた友だちの家に行ったり、友だちが運転する車に乗るとすごく気持ちが安らぎます。

奥平 僕は家ですね。家から出るのがあまり好きじゃないし、自分の部屋に僕が好きなものが揃っているので、外に出る必要がなくて。

だから、友だちと遊ぶときも『ミッドサマー』(19/監督:アリ・アスター)のような大好きな宗教系のホラー映画を一緒に観たりします。逆に、外に出てやることってある?

いや、私はけっこう外に出ないからな~。

奥平 でしょ。ないよね? ごはん食べに行こうとも思わないし、買い物に行こうって気持ちにもならないから、そうなると…。

ごはんも食べに行かないの?

奥平 行かない、行かない。家でごはんを作る。

自分で?

奥平 自分で作る。まあ、人がくればね。でも、そんな感じだから、友だちを作れないんだよね。

なので結局、昔から仲のいい友だちしか呼べないんですよ。

『君は放課後インソムニア』©オジロマコト・小学館/映画「君ソム」製作委員会

今後絶対にやってみたいなと思っていること

――最後に劇中のシーンと絡めて、今までに経験していないことで、今後絶対にやってみたいなと思っていることを教えてください。

奥平 水族館とかじゃなくて、海でクジラに会いたいです。クジラってどこか神秘的じゃないですか? 僕、クジラの鳴き声がめちゃくちゃ好きで。

なぜか気持ちが落ち着くから、クジラの声を聞きながら寝たりするのにハマったこともあるんですけど、それを生で聞きたいですね。

――そのためには、外に出なきゃダメですね(笑)。

奥平 確かにそうですね。家にクジラは来てくれないですものね。

クジラに「遊んでもいいけれど、家に来て」って言えば(笑)。

奥平 で、友だちを呼ぶときに、「クジラがいるけど、大丈夫?」って聞いたりして(笑)。でも、野生のクジラに会えるなら家を出てもいいですね。

私は“君ソム”のみんなとお花見をしたいですね。今年はなかなか勇気が出なくてメールを打てなかったんですけど、いつか行けたらいいですね。

懐かしそうに1年前の撮影を振り返ってくれたふたりは、劇中のやりとりを自然に思い出してしまうぐらい息がピッタリ!

映画はそんな彼らが命を吹き込んだ伊咲と丸太が、七つ橋(七尾市)や見附島(別名「軍艦島」/珠洲市)、真脇遺跡(能登町)など漫画と同じ石川県の実在のスポットで数々の名シーンをリアルに視覚化しているから、原作ファンはきっと自然に心を揺らすはず。

原作を知らない人も、本作を観た後に漫画を手に取り、伊咲と丸太が生きた石川を訪ねてみたくなるに違いない。

『君は放課後インソムニア』絶賛公開中。

(ウレぴあ総研/ イソガイ マサト)

© ぴあ朝日ネクストスコープ株式会社