WEC世界耐久選手権は、日本ラウンドの富士6時間レースを含む2023年シーズン後半3戦に適用されるハイパーカークラスのBoP(バランス・オブ・パフォーマンス=性能調整)を発表した。
今週末イタリアで開催されるモンツァ6時間レースを前に7月3日付で公開された新しいBoPテーブルには、第5戦モンツァ、9月に富士スピードウェイで行われるWEC富士、11月に開催される最終戦『バーレーン8時間レース』の各レースに向けたLMH(ル・マン・ハイパーカー)およびLMDhマシンのパフォーマンス・パラメータが表示されている。
■トヨタGR010ハイブリッドの重量は変化なし
7月7~9日に行われる次戦モンツァでは、先月のル・マン24時間レースで優勝したフェラーリ499Pの最高出力が12KW(約16ps)削減され、最低重量もル・マン前に課せられた24kgに加えてさらに5kg増加した。また1スティントで使用できるエネルギー量も8MJ減少している。
シーズン終盤戦の富士とバーレーンではパワー削減幅が4kW(約5.4ps)と、地元凱旋ラウンドに比べて緩和される一方、車両重量は日本で12kg、中東での8時間レースでは11kg重くなる。
LMDhカーのキャデラックVシリーズ.Rは、モンツァではル・マンより14kg軽くなるが、これは15kW(20ps)のパワーダウンと15MJのエネルギー削減で相殺される見込みだ。
トヨタGR010ハイブリッドは37kg増で挑んだ24時間レースで8号車が2位となった後、シーズン後半戦に向けて最低重量の変更はないが、モンツァでは5kW(約6.7ps)のパワーダウンを受ける。一方、富士とバーレーンではプラスに転じ2kW(約2.7ps)のパワーアップを受け取る予定だ。
WEC第5戦のその他の調整としては、プジョー9X8が若干の重量増とパワーアップ、ポルシェ963が10kW(約13PS)のパワーダウン、ヴァンウォール・バンダーベル680・ギブソンが8kW(約10ps)の出力増と12MJのエネルギー量の増加を受け取った。プジョーは第6戦と第7戦のテーブルにおいて、フロントMGUのアシスト作動速度がドライコンディション時限定で150km/hから135km/hに引き下げられた。
これらのハイパーカーは、モンツァ、富士、バーレーンでそれぞれ異なるBoP値を持つが、これらのバリエーションは、ほとんどのクルマにとってル・マンで使用されたものと同じか、非常に類似している同じ出発点からきている。そのため3つの表は同じBoPアップデートの一部とみなされている。
WECの共同主催者であるACOフランス西部自動車クラブとともにBoPを管理するFIA国際自動車連盟によると、今回の変更はシーズン開幕時に示された“当初の計画の一部”であるという。
■ル・マンで収集したデータをシミュレーションに反映
当初、ル・マン以前にいわゆる“プラットフォームBoP”の変更が行われる可能性があり、そこでLMHとLMDhという異なるふたつプラットフォーム間でパフォーマンス調整が行われことが予想されていた。また、プラットフォーム内での各車個別のBoPはル・マン後に調整される可能性があった。
しかし、各プラットフォーム内での調整は24時間レースの“100周年記念大会”以前に適用されたため、トヨタを含む各メーカーは驚きを隠せなかった。
FIAは声明で次のように述べている。「接戦が展開されたル・マンでは、5つ以上の異なるメーカーが異なるステージでレースをリードしていた。モンツァ6時間前のBoP調整は当初の計画の一部であり、シミュレーションとテレメトリーによるオントラックデータの相関関係を含む方法論に基づいている」
「ル・マン24時間レースで収集されたデータは分析され、それぞれのクルマの最適なパフォーマンスの可能性をよりよく理解することが可能になるように、シミュレーション・ツールと関連付けられている」
「今回の調整は、今シーズンのスケジュールに残っている3つのサーキット(モンツァ、富士スピードウェイ、バーレーン・インターナショナル・サーキット)にそれぞれ異なる値が割り当てられており、そこでは3つのレイアウトの特性が考慮されている」
■LMGTEアマクラスの変更は車両重量のみ
ハイパーカークラスと同様に、BoPによってメーカーごとにパフォーマンスレベルが調整されているLMGTEアマクラスでは、第3戦スパ・フランコルシャンから第5戦モンツァまでの間に車両重量ベースに変化が見られた。
フェラーリ488 GTEエボと、ル・マン24時間で優勝したシボレー・コルベットC8.Rは、ともに基本となる最低重量が10kg追加され、その上にサクセス・バラストが適用される。
ポルシェ911 RSR-19とアストンマーティン・バンテージAMRは、スパから最低重量が変更されていない。ル・マンでのBoPはフランスのトラック固有のものであるため、同クラスのBoP変更についてはスパが基準となっている。
サクセス・バラストは、直近2レースの結果とシリーズランキング上位3つのクルマに対して15kg、10kg、5kgが加算されるもの。ル・マンで優勝した63号車コルベットは、アップデートされたBoPによって1275kgとなった基本重量に前戦優勝分の15kg、スパ2位の10kg、ポイントリーダーの15kgを加えた1315kgの最低重量でモンツァに挑む。
この他、ORT・バイ・TFスポーツの25号車アストンマーティン・バンテージAMRは25kg(10+5+10)相当のバラストを積み、第2戦スパを制した83号車フェラーリ488 GTEエボ(リシャール・ミル・AFコルセ)は15kgの重量増に。またアイアン・デイムスの85号車と、ル・マンでクラス3位となったGRレーシング86号車の両ポルシェ911 GT3 Rは5kg分のバラストを搭載する。
■LMGTEアマ メーカー別最低重量
・ポルシェ911 RSR-19 1269kg
・フェラーリ488 GTEエボ 1273kg
・シボレー・コルベットC8.R 1275kg
・アストンマーティン・バンテージAMR 1245kg
■ハイパーカーBoP(7月3日付)
第5戦モンツァ
プラットフォーム
マシン
最低重量
最大出力
エネルギー量
FL.モーター作動速度
(ドライ/ウエット)
LMDh キャデラックVシリーズ.R 1032kg(-14) 498kW(-15) 890MJ(-15) ―
LMH フェラーリ499P 1069kg(+5) 497kW(-12) 893MJ(-8) 190kph/190kph
LMH グリッケンハウス007 1030kg(±0) 520kW(±0) 916MJ(+3) ―
LMH プジョー9X8 1046kg(+4) 520kW(+4) 914MJ(+6) 150kph/150kph
LMDh ポルシェ963 1049kg(+1) 506kW(-10) 899MJ(-11) ―
LMH トヨタGR010ハイブリッド 1080kg(±0) 507kW(-5) 908MJ(±0) 190kph/190kph
LMH
ヴァンウォール・
バンダーベル680
1030kg(±0)
520kW(+8)
913MJ(+12)
―
第6戦富士
LMDh キャデラックVシリーズ.R 1039kg(-7) 505kW(-8) 894MJ(-11) ―
LMH フェラーリ499P 1076kg(+12) 505kW(-4) 898MJ(-3) 190kph/190kph
LMH グリッケンハウス007 1030kg(±0) 520kW(±0) 905MJ(-8) ―
LMH プジョー9X8 1038kg(-4) 520kW(+4) 907MJ(-1) 135kph/150kph
LMDh ポルシェ963 1054kg(+6) 514kW(-2) 906MJ(-4) ―
LMH トヨタGR010ハイブリッド 1080kg(±0) 514kW(+2) 907MJ(-1) 190kph/190kph
LMH
ヴァンウォール・
バンダーベル680
1030kg(±0)
520kW(+8)
903MJ(+2)
―
第7戦バーレーン
LMDh キャデラックVシリーズ.R 1037kg(-9) 504kW(-9) 895MJ(-10) ―
LMH フェラーリ499P 1075kg(+11) 505kW(-4) 901MJ(±0) 190kph/190kph
LMH グリッケンハウス007 1030kg(±0) 520kW(±0) 909MJ(-4) ―
LMH プジョー9X8 1041kg(-14) 520kW(+4) 908MJ(±0) 135kph/150kph
LMDh ポルシェ963 1053kg(+5) 514kW(-2) 909MJ(-1) ―
LMH トヨタGR010ハイブリッド 1080kg(±0) 514kW(+2) 912MJ(+4) 190kph/190kph
LMH
ヴァンウォール・
バンダーベル680
1030kg(±0)
520kW(+8)
906MJ(+5)
―