今年の夏も「武生国際音楽祭」に注目!現代音楽が熱い!【榎政則の音楽のドアをノックしよう♪】

西洋クラシック音楽の系譜を今日まで受け継いだものが「現代音楽」です。世界中の現代音楽ファン・現代音楽を勉強する学生たちが毎年注目している福井県越前市の「武生国際音楽祭」について見ていきましょう。そして、現代音楽とはどのような世界なのかをご紹介したいと思います。

武生国際音楽祭とは

武生国際音楽祭のコンセプトは「まちづくり」「ひとづくり」「みらいづくり」の三つから成り立っています。 1990年に開催されたフィンランド音楽祭を前身とし、1992年に第1回武生国際音楽祭が開かれました。以降毎年開催され、2001年からは日本を代表する現代音楽の作曲家・細川俊夫さんが音楽監督を務めています。 武生国際音楽祭は演奏会・ワークショップ・アカデミーの三本が中心となっています。

武生国際音楽祭2023 9月3日(日)ー9月10日(日) 開催場所:越前市文化センター 他

・演奏会 バッハから現代の若手の作曲家まで、幅広い時代の音楽を扱っています。各コンサートにはそれぞれのコンセプトがあり、ソロでの演奏や、室内楽(2?8人程度で演奏する形式)、尺八や箏といった日本の伝統的な楽器を用いるものなど、多彩な演奏会が一週間ほどにわたって続けられます。

・ワークショップ 作曲を学ぶ人にとってはこれ以上ない贅沢なイベントとなっています。 今年の講師は以下のメンバーです。

細川俊夫(日本) ユステ・ヤヌリテ(リトアニア) フリスティナ・スザク(セルビア) マルト=マティス・リル(エストニア) 坂田直樹(日本)

坂田直樹さんは、日本とフランスで活躍中の日本を代表する作曲家です。 リトアニア・エストニアは、ラトビアとともにバルト三国としてまとめられることも多い地域ですが、それぞれの国が独自の音楽文化をもっており、言語も異なります。また、セルビアはバルカン半島に位置する国で、旧オスマン帝国の中東文化と、ヨーロッパ文化が融合した独自の文化を持っています。それぞれの国から世界に出て活躍する現役の作曲家に直接作曲を習うことができる貴重な機会となっています。

・夏季アカデミー また、武生国際音楽祭では、楽器演奏の受講もすることができます。今年は、フルート・サクソフォン・オーボエ・尺八の4つのコースが開催され、受講もしくは聴講をすることができます。アカデミーは楽器をトップミュージシャンに習うことができるだけでなく、同じ志を持つ若手との交流を深めることもできます。 夏季アカデミーをきっかけに、音楽の方向性を決めたり、留学先などの進路を決める人も少なくありません。音楽の道を志す人には強くおすすめしたい内容となっています。

現代音楽の作曲について知る

武生国際音楽祭の特徴は、なんといっても充実した現代音楽へのサポートです。現代には、クラシック・ジャズ・ポップス・ヒーリングミュージック・サウンドデザインなど、様々な音楽がありますが、現代音楽はその技術の根底を支えている分野になっています。

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大まかに1945年以降の西洋音楽のことを現代音楽と呼びます。現代音楽は古くからの西洋音楽の価値観を受け継ぎながら、「音楽とは何か」という根本的な問題に立ち向かっている芸術と考えることができます。

ヴァイオリンやピアノといったクラシックの楽器を使うこともあれば、尺八やシタール(インド音楽で使われる弦楽器)といった世界の伝統的な楽器を使ったり、電子音や環境音(街中の雑踏やさざ波の音など)を取り入れたり、と音であればなんでも音楽のテーマとなり得ます。

自由が増えればできることも増えそうですが、同時に一つの作品として全体を統制することが困難になります。「こんな響きは聞いたことがなくて面白い!」というのは、現代音楽の作曲の一つの動機となりますが、そのような音をいくら陳列したところで作品としての説得力は持ちません。

「作曲」は英語では「Composition(構成)」と言いますが、まさに現代音楽で必要とされることは、アイディアやインスピレーションを「構成する」ことにあります。この構成することへのアイディアの豊富さは歴史の長い西洋音楽の一つの特徴であり、使う音や、響きのアイディアがどのようなものであろうと、十分に応用が可能です。

実際に現代音楽をいろいろ聞いてみると、複雑な響きや、聞いたことのない響きにまず圧倒されることが多いと思いますが、やはり一流の作曲家の作品はそれが見事にまとまっています。

もちろん、アイディアやインスピレーションという大元の部分も大切です。普段から様々な分野に対してアンテナを張っておくことで、「このアイディアは音楽に転用できるかもしれない」ということを考えることができます。

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また、聴覚に敏感になることが大切です。ためしに今、聴覚だけに集中して聞こえる音を全て分析してみましょう。室内なら空調の音、外の車道の音、あるいは虫や風の音が聞こえます。電車のなかであれば様々な部品がこすれ合って鳴る音、人工的な電子音、人の声が聞こえるでしょう。本当に静かな空間であれば、自分の心臓の音、耳鳴りや、数km先のわずかな音まで聞こえるかもしれません。普段やり過ごしてしまうこれらの音を聞き、「作品として構成できる」ことを考えるのは、現代音楽の作曲への一つのアプローチとなります。

現代音楽の作曲へのアプローチの方法はもちろん膨大ですし、構成の仕方にははっきりと優劣がついてしまいます。独学で現代音楽へアプローチするのも野心家としては良いかもしれませんが、やはり長い西洋音楽の歴史を引き継いでそこに自分の個性を乗せていくという方法が王道だと言えるでしょう。そのためにも、現代音楽の作曲家に教えてもらったり、あるいは同じ志を持つ仲間を作り、語り合うことは重要です。

世界中から音楽家が集まって新しい時代を開拓していく武生国際音楽祭に、今年も注目していきましょう。(作曲家、即興演奏家・榎政則)

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 榎政則(えのき・まさのり) 作曲家、即興演奏家。麻布高校を卒業後、東京藝大作曲科を経てフランスに留学。パリ国立高等音楽院音楽書法科修士課程を卒業後、鍵盤即興科修士課程を首席で卒業。2016年よりパリの主要文化施設であるシネマテーク・フランセーズなどで無声映画の伴奏員を務める。現在は日本でフォニム・ミュージックのピアノ講座の講師を務めるほか、作曲家・即興演奏家として幅広く活動。

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