バーバリー・ロスで倒産危機…なぜ三陽商会は業績予想を上方修正するまでに復活できたのか

2月決算のアパレル各社の決算発表が、少しずつ行われています。コロナによる行動制限が完全撤廃され、外出機会が増えたことで、一気におしゃれしたいモードに切り替わった人も多く、各社の業績も大幅改善が期待できます。

ただし、コロナ前からアパレル業界は低迷気味だったため、大きく凹んだあとの回復はあるものの、コロナ前を超えて拡大していくかは、また別の話。今後は、勝ち組と負け組に明暗が別れると考えています。


バーバリー・ロスで、一時は倒産の危機に落ちた三陽商会

アパレル企業の決算といえば、ファーストリテイリング(9983)、しまむら(8227)、アダストリア(2685)、ユナイテッドアローズ(7606)あたりがいつも注目されますが、今回は珍しい銘柄に注目が集まりました。

2015年6月に、それまで蜜月関係にあったバーバリーとライセンス契約を解消し、完全訣別した三陽商会(8011)です。バーバリーという英国ブランドを、これほど日本でメジャーにしたのは三陽商会の功績という認識も高いなか、訣別のニュースは大きな衝撃でした。その影響で、同社の業績は悲惨なほどに悪化。2016年12月期以降、6期連続で営業利益は赤字となっています。

赤字転換した初年度である2016年12月は、①売上高67,611(百万円)、②前年比△30.6%と二桁減収、さらに③営業利益△8,430(百万円)と、④前年6,577(百万円)からの大幅赤字転換で、バーバリー・ロスの深さが鮮明です。決算短信の「経営成績に関する分析 」にも、バーバリーブランドを終了したことによる売上低下を嘆く文面が見られます。

画像:三陽商会「第74期決算短信」より引用

当時から消費マインドの衰退や、インバウンド需要の減退なども見られ、アパレル業界全体が落ち込み気味でしたので、その後も回復のきっかけをつかめないまま、もがいていたところにコロナ禍が致命傷を与えた形になります。

事実、2022年2月期には4期連続で営業キャッシュフローがマイナスになったことにより、“継続企業の前提に重要な疑義を生じさせる状況が存在”であると公表されています。まさに存続の危機!

奇跡の復活で堂々の上方修正

深い谷のどん底まで突き落とされた三陽商会ですが、落ちるところまで落ちたなら、浮上するしかありません。リオープン、インバウンドの再開も追い風に業績は思いのほかスピーディに回復しています。

その兆しは、前年2023年2月期の本決算発表で、当初の予想値より上振れて着地したときから現れていました。営業利益においては当初1,900(百万円)の予想から17.6%も上振れした2,235(百万円)で着地しています。想定以上にコロナ禍からの回復が進んでいる様子が伺えます。

画像:三陽商会「業績予想と実績値との差異及び特別損失及び繰延税金資産の計上に関するお知らせ」より引用

注目されたのは、直近6月30日(金)に発表された2024年2月期第1四半期決算です。①売上高15,969(百万円)、②前年比+11.2%、③営業利益1,035(百万円)、④前年比+106.0%と好調のため、早くも上期と通期の予想を上方修正しました。

画像:三陽商会「第81期第1四半期決算短信」より引用

上期の営業利益は当初予想△100(百万円)から200(百万円)へ黒字転換、通期予想は2,400(百万円)から2,700(百万円)へ12.5%増額しました。

画像:三陽商会「2024年2月期第2四半期累計期間及び通期の連結業績予想の修正に関するお知らせ」より引用

好調の理由は、(1)人流やインバウンド需要の回復により主力の百貨店を始めとす る実店舗への集客が回復したこと、(2)設立80周年の記念アイテムを含む春夏プロパー商材が好調に稼働したことで、とくに同社のメイン販路である百貨店での売上の回復が業績を牽引しているようです。

予想を軽く超えていくほど好調な百貨店

どれほど百貨店の集客が回復しているかは、直近6月29日(木)に2024年2月期の第1四半期決算を発表した高島屋(8233)を見ればわかります。

画像:高島屋「2024年2月期 第1四半期決算短信〔日本基準〕(連結)」より引用

①営業収益105,557(百万円)、②前年比+4.2%、③営業利益11,038(百万円)、④前年比+66.4%。好調のため、こちらも上期、通期ともに上方修正を同時発表しています。決算短信には「コロナの収束傾向による社会経済活動の活性化もあり、入店客数が増加したことに加え、インバ ウンドを除く国内顧客売上高は、婦人服、紳士服、化粧品など、ファッション関連商品を中心に堅 調に推移いたしました」と、アパレルの好調を示す文面が掲載されています。

三陽商会の株価は、直近の業績が好調なこともあり右肩上がりで上昇トレンド形成中ですが、バーバリーとライセンス契約を結んでいた2015年以前には届いていません。

画像:TradingViewより

バーバリーなしでも株価を押し上げるような魅力あるブランドが育つかどうか、今後に期待したいところです。

※三陽商会は、2020年度から12月→2月決算に変更
※本記事は投資助言や個別の銘柄の売買を推奨するものではありません。投資にあたっての最終決定はご自身の判断でお願いします。

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