アンデルソン・ロペスがJ1得点王へ!Jリーグが育てた「“自己中”ストライカー」の成長譚。

昨季のJ1王者、横浜F・マリノスのブラジル人FWアンデルソン・ロペスの進化が著しい。

2023明治安田生命J1リーグは前半戦を折り返した直後だが、先週末の第19節・湘南ベルマーレ戦で2ゴールを挙げたA・ロペスは得点ランクトップの15ゴール目に到達。昨季の得点王であるチアゴ・サンタナ(清水エスパルス)の14ゴールをすでに上回っている。

しかも、昨年4月以降に彼が得点を挙げた試合で、チームは17戦無敗(15勝2分)の不敗神話を継続中だ。

今回は、ここ5試合で8ゴールと絶好調、A・ロペスの成長の足跡を辿る。

森保監督も我慢強く起用!溢れんばかりのポテンシャル

2016年の夏、当時22歳のA・ロペスはサンフレッチェ広島に加入。日本代表FW浅野拓磨(ボーフム)のアーセナル移籍に伴い、代役として獲得された格好だった。

当時の広島には、その年の得点王となる元ナイジェリア代表FWピーター・ウタカ(ヴァンフォーレ甲府)が在籍。A・ロペスはそのウタカを頂点とする[3-4-2-1]のシャドーとして出場機会を得ていく。

そして、この無名の若手FWは良くも悪くもデビュー時から大きなインパクトを放った。ボールを受けたら兎にも角にも自らドリブルで持ち上がって切り込み、シュートを放ちまくるのだ。未知の異国でポジション争いを制するためのアピールだったのかもしれないが、度は越えていた。パスは全く選択肢にない様子だったのだ。

シャドーの位置で自己中心的なプレーを続けた2016年のA・ロペスは、90分換算で平均4.88本のシュートを記録。スカウティングされて対策が進んだ翌年でも、彼は118本のシュート(平均4.10本)を放っている。

FWには決定力が問われるが、相手DFも味方も密集するゴール前では、スペースも時間もほとんどない。シュートを放つだけでも類まれなセンスが必要とされる。A・ロペスのシュート数の多さは、その溢れんばかりのポテンシャルの大きさを証明するものだ。

だからこそ、2012年から広島で指揮を執り、4年で3度のJ1優勝をもたらした森保一監督(日本代表)は、粗削りなA・ロペスを我慢強く起用し続けた。

組織的な広島と札幌で許容された個人技

ただし、「未完の大器」感が強かったのも事実で、2017年はチーム最多の10ゴールを挙げながらも、チームが残留争いを強いられた要因でもある守備面の脆さや決定力の低さ(シュート決定率8.5%)を露呈。2017年限りで退団するに至った。

決して守備意識の低い選手ではなかったが、彼のドリブル突破からのボールロストが多く、それが失点に繋がっているのは明白だった。特に彼の場合はシャドーの位置からドリブルを仕掛けるため、ボールを失う位置がサイドではなくリスクの高い中央付近になるため、相手のカウンターからピンチを招くことが頻発してしまったのだ。

A・ロペスは、「ボールを走らせろ、ボールは疲れない」とは真逆のプレーを続けていた。ドリブルで2人交わせば、3人目が来る頃には周囲が数的優位を確保できている。しかし、彼はパスを選択すればアシストが付く場面でも3人目を交わしに行くか、自らが無理な体勢から強引なシュートを狙って好機を逸する場面が多過ぎた。

また、これは競技経験者“あるある”かもしれないが、ダッシュを続けながらジグザグにボールを運び、スピードの緩急を必要とするドリブルは体力の消耗が激しい。ドリブルでボールを奪われた瞬間は体のバランスを崩しているため、守備への切り替えも遅くなる。

ただし、彼はパスサッカーと独自の組織的戦術「ミシャ式」が浸透した広島、そして2019年からの2年半はその本家“ミシャ”こと、ミハイロ・ペトロヴィッチ監督が指揮を執る、北海道コンサドーレ札幌でも、それを“矯正”されず、貫いて来たのだから恐れ入る。

彼は生粋のドリブラーでもウイングでもない。彼のドリブルは自らが得点を奪うための手段に過ぎない。だからこそ、迫力を伴って相手に危険を感じさせる。広島と札幌でも重用された理由はそれだろう。

ミシャ式のシャドーで培ったポジショニングの妙

A・ロペスは2018年、韓国の強豪FCソウルに加入。6ゴールを挙げたが、チームはKリーグ11位に低迷し、2019年からは札幌に移籍。いきなり、第3節の清水エスパルス戦で4ゴールを挙げる離れ業をやってのけるも、その後は尻すぼみに終わった。

リーグ優勝を争う広島やソウルとは違い、当時の札幌はJ1に定着しているとは言えないクラブ。ミシャ監督もパスサッカー志向の攻撃だけでなく、積極的な守備で前線からボールを奪う「オールコート・マンツーマン」からの速攻を採り入れた。これによりシャドーでボールを持ち過ぎるA・ロペスのプレータイムは、広島時代の2017年から比較すると約1000分間減った。それでも彼の90分換算のシュート数は4本を超えていた。

転機を迎えたのは2021年。札幌は前年の夏に日本代表に定着していたFW鈴木武蔵(ガンバ大阪)が海外移籍、元イングランド代表FWジェイ・ボスロイドの衰えも顕著となるなど、FWの編成に大きな変化があった。

その中でミシャ監督はA・ロペスを[3-4-2-1]の1トップに据え、開花していない彼の得点能力に賭けた。難解な“ミシャ式のシャドー”を担うことで、相手のセンターバックとサイドバック、ボランチの間のスペースでパスを受けるなど、戦術的なポジショニングの妙を培って来た彼は、それを活かして味方からの多彩なラストパスを引き出すことに成功。

2021年前半のA・ロペスが出場14試合で12ゴールを挙げたのは、彼の成長過程を見ていれば必然だったのかもしれない。

札幌で爆発的な得点力を披露するA・ロペスには札束攻勢で中国のクラブが迫り、2021年7月には武漢足球倶楽部へ移籍。中国でも17試合7ゴールとまずまずの結果を残したものの、半年後にはJ1制覇を狙う横浜FMに移籍。得点王に輝いた日本代表FW前田大然がセルティックに羽搏いた代役として白羽の矢が立った。

アシストランク上位独占のウイングが揃う“理想郷”で成熟

「A・ロペスのシュート数激減と決定率急上昇」 作成:筆者

だが、好不調の波が多く、まだまだ自己中心的なプレーが多いA・ロペスにはマリノスのサポーターも疑心暗鬼だった。また、日本ではミシャ式しか経験がない彼はシャドーではなく、両サイドにウイングを置く横浜FMのスタイルに馴染みがないのも不安要素だった。

加入1年目、[4-2-3-1]の1トップを争ったFWレオ・セアラ(セレッソ大阪)と共にチーム最多の11ゴールを挙げたものの、ムラッ気と気性の激しさが現れ、第14節のアビスパ福岡戦で相手選手に唾を吐いて退場。6試合の出場停止と罰金60万円のペナルティーが下された。

ただ、出場停止から復帰したA・ロペスはチームプレーヤーへと変身。ワンタッチで確実なポストプレイから、巧みに味方を使うパスでチームメイトの信頼を掴み、キャリアハイの4アシストを記録。献身的に体を投げ出す守備でもチームを牽引した。出場停止前は互角だったレオ・セアラとのポジション争いも制し、チームの3年ぶりのJ1優勝に貢献した。

迎えた今季はここまで19試合全てに先発出場して15ゴール。さらにその15ゴール中の7ゴールをヘディングで決めていることが興味深い。

「リーグナンバーワンのウイング」と称されるエウベルが7アシスト、先発に定着し始めたヤン・マテウスはリーグ最多タイの8アシスト、途中出場が多くなった水沼宏太も7アシスト。アシストランキングの上位を横浜FMのウインガーたちが独占しているのは、A・ロペスの得点力や柔軟なポストプレイあってこそで、彼にとっても優秀なウイングが揃う横浜FMは理想郷だ。

Jリーグが育てたストライカー

チームを率いるケヴィン・マスカット監督の信頼も深まっている。

コロナ禍以降、交代枠が「3」から「5」に増えたサッカー界では、アタッカーのフル出場は珍しくなった。昨季のA・ロペスのフル出場が僅か3試合に止まったのも不思議ではない。それが今季は19節終了時点で既に10試合のフル出場を記録しているのだから、監督の彼への信頼が揺らがない何よりの証明となっている。

無駄がそぎ落とされた今季のA・ロペスはプレータイムが増えているにも関わらず、シュート数は激減。日本でプレーする7年目にして90分換算のシュート数では「2.71」と初めて3本を割ったにも関わらず、得点はすでにキャリアハイを更新。

こうして、元“自己中”ストライカーは、そのエゴを決定力に昇華させて成熟。9月には30歳となるA・ロペスだが、今年30周年を迎えたJリーグ(J1)では過去に28歳以上の得点王が延べ28人も誕生している。

アラサーを機に効率の良いゴールの取り方を覚える傾向は他国リーグでも顕著だが、それも含めて今季のA・ロペスが得点王に輝く可能性はかなり高い!

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Jリーグが育てたブラジル人ストライカーが、J1得点王とチームのJ1連覇、アジア制覇に挑む!

「J1歴代得点王」 作成:筆者

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