盲学校前の信号、音無しなのはなぜ? 「交通事故が起きてからでは遅い」教職員が人力で交通整理

神戸市立盲学校(左奧)の前に新設された音響装置のない信号機と横断歩道=神戸市中央区東川崎町1

 JR神戸駅から徒歩5分。神戸市立盲学校(神戸市中央区)前に今年できたばかりの信号機が「カッコー」「ピヨピヨ」でおなじみの音響式でなく「無音」なのはなぜか-と、神戸新聞社の双方向型報道「スクープラボ」に読者から疑問が寄せられた。ユニバーサルデザインが重視される時代にあって「交通事故が起きてからでは遅い」という訴えはごもっとも。ただ調べると、昨今の難しい事情もあるようで…。(井上太郎)

■通学路なのに

 学校前の道路は片側1車線で、横断歩道の長さはおよそ7メートル。商業施設「umie(ウミエ)」に面した大通りからは少し南に外れた静かな道で交通量は少なく、押した時にだけ歩行者用が青色になる押しボタン式の信号になっている。

 6月下旬に足を運び、記者がボタンを押して渡ってみた。確かに信号は無音で青になり、点滅し、赤に変わってしまった。その間およそ15秒。目をつむると、渡っていいタイミングがさっぱり分からなかった。

 兵庫県警交通規制課によると、この横断歩道は今年1月に新設された。もともと50メートルほど北の校庭前に信号機のない横断歩道があったが、カーブの出入り口で見通しが悪いために移設が決まり、それに併せて信号機を付けた、という経緯らしい。

 新しい横断歩道は校門の目と鼻の先に完成し、信号機の一部に「盲学校前交差点」と書いてある。

 視覚障害者が利用する通学路にもかかわらず、なぜ音響式にしなかったのか。

 県警交通規制課は神戸新聞の取材に「地元との調整」を理由に挙げた。音響装置は後付けできることから「まずは信号機の設置を優先した」とする。

■今は人力で

 音響式の信号機をめぐっては過去、設置後に近隣住民から騒音苦情が寄せられるケースがあった。そのため、今回は設置してから1カ月後の今年2月ごろ、管轄する県警生田署が音響装置の設置に関して意見を募るアンケート用紙を近隣のマンションなどに配っている。

 交通規制課は「地元の反対がないか、理解を得られるかを確認した上で、予算も踏まえて総合的に判断したい」と、今後の検討課題であることを強調した。

 音響装置は1台約110万円。主に不特定多数が利用する駅前や公共施設付近に設けることが多く、既に一定程度普及しているため、近年の新設は少ない。直近5年は年間で1台増えるかどうかだった。地域によっては学校の統廃合などで減るところもあるという。

 市立盲学校の全校生徒は27人で、幼稚部から高等部の児童生徒の大半がスクールバスで登下校している。ただ、マッサージやはり・きゅうを学ぶ大人が通う「理療科」の生徒約10人のほか、目が不自由な教員数人も公共交通機関を使って学校に来る。このため、始業前後には毎日、教職員が校門の前に立ってボタンを押し、信号の切り替わりを人力で知らせているという。

 「本当は音で誘導できる方がいいに決まっている」と、田村哲哉教頭。既に県警に対して音響装置の設置を要望しているといい、「登下校の時間帯に限る方法も選択肢に、粘り強く交渉していきたい」としている。

 この記事は神戸新聞の双方向型報道「スクープラボ」に寄せられた情報を基に取材しました。

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