「ヤングケアラー」相談、兵庫県と神戸市に年間210件 潜在“SOS”や支援ニーズの把握が課題

神戸市のこども・若者ケアラー相談・支援窓口。6人の職員が対応に当たる=同市中央区橘通3

 家族の世話に日常的に追われる若年層「ヤングケアラー」について、専門の相談窓口を設置している兵庫県と神戸市に、この1年で計210件の相談があったことが、県市への取材で分かった。国の実態調査では小学生から大学生までの4~6%がケアラーとされることから、担当者らは「まだまだ潜在的なニーズを把握できていない」とさらなる掘り起こしを目指す。(井沢泰斗)

 障害のある兄弟の面倒を見るため、不登校気味になってしまった小学生。病気がちな母親に代わって家事を担う若者。相談窓口にはこういったケアラーに関する情報が日々寄せられる。

 「まずは誰かに話をすること。それだけでも気持ちが楽になるんだ、と伝えたい」と神戸市こども・若者ケアラー相談・支援窓口の上田智也課長は話す。

 相談が入れば福祉機関と連携し、ケア対象の家族に障害者や高齢者向けの福祉サービスを提供することで、ケアラーの負担軽減につなげる。不安を和らげるため、ケアラー本人には「ふぅのひろば」も紹介する。月1回、当事者たちが集まり、体験や思いを語り合ったり、先輩ケアラーらの話に耳を傾けたりしている。

 同市では2019年10月、幼稚園教諭の20代女性が、介護していた認知症の祖母=当時(90)=を殺害する事件が発生。これを受けて21年6月に全国で初めて専門窓口を開き、最初の1年で69件の相談を受けた。

 県も1年後の22年6月に窓口を設置。今年5月までの丸1年で、兵庫県には125件、同市には85件の相談が入ったという。

 また神戸市では開設1年目、本人や家族と面会できたケースが相談全体の36%にとどまり、直接支援の難しさが課題になった。しかし、2年目は46%と改善。県が昨年10月に開始した弁当の配食サービスをきっかけに、支援を拒んでいた複数の家庭が受け入れてくれるようになったという。

 ただ国の実態調査を考慮すれば、県内にはさらに多くのケアラーが埋もれているのは間違いない。県は新たに弁当配達で家庭と接する子ども食堂を通じ、家族の世話をする子どもを把握して各市町の福祉部署につないでもらう仕組みも整えていく。

 県地域福祉課の小田直樹課長は「相談窓口の存在を周知しつつ、支援を届けるための“チャンネル”は増やしていきたい」と力を込めた。

    ◇ 【ヤングケアラー研究に取り組む大阪公立大大学院現代システム科学研究科・濱島淑恵准教授の話】

 行政がヤングケアラー専門の窓口をつくるメリットは、当事者らにとって相談先が明確になるのに加え、担当職員と関係機関との間にネットワークが生まれ、より支援がしやすくなる点にある。既存の部署に業務を追加するだけでは、そこまで手が回りにくい。

 支援が必要なヤングケアラーの掘り起こしは今後の課題。介護サービスなどの現場でアセスメントシートにケアラーがいるかどうかの項目を入れ、ニーズをすくい取るのも一つの手だ。

 ただ前提として、ケアラーの存在は親や家族に支援が届いていない「社会の問題」だと認識しておくべきだ。病気の母親や要介護の祖父母が適切なサービスを受けられていれば、子どもはケアラーにならない。そういう理解が社会に広がれば、当事者も窓口や周囲に相談がしやすくなるはず。

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