軍拡懸念、表明求める意見も 平和宣言起草委員が最終会合 長崎市が「憲法の平和理念堅持」追加

平和宣言文に、日本政府の防衛費増額などへの懸念を盛り込むよう求める意見が相次いだ起草委最終会合=長崎市平野町、長崎原爆資料館

 長崎市は8日、鈴木史朗市長が8月9日の平和祈念式典で読む「平和宣言文」の起草委員会最終会合で、「憲法の平和理念の堅持」を求める文言を新たに加えた修正案を示した。一方で複数の委員が、日本政府の軍備拡大方針にまで踏み込んで懸念を表明するよう意見を出したが、鈴木市長は宣言に盛り込むかどうか明言を避けた。宣言骨子は7月末に発表する。
 5月の初回会合では複数の委員が憲法9条の堅持に言及するよう求めたが、市が前回会合で示した原案には含まれておらず、今回盛り込まれた。
 政府が安全保障環境の悪化を理由に防衛費増額や反撃能力(敵基地攻撃能力)保有を進める中、被爆者の田中重光委員は「憲法を守るべき人が憲法を踏みにじっている」と岸田文雄首相を批判。朝長万左男委員も「見方によっては将来的に戦争に向かう方向性」と危惧し、「軍事力増強は批判し、平和外交とのバランスが重要だと述べたほうがいい」と提案した。
 前回会合では、5月の先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)で出された核軍縮文書「広島ビジョン」が核抑止力を正当化した問題点も、宣言に加えるよう求める声も相次いだ。
 市は修正案で、核抑止力に依存しても核なき世界は実現できないとの内容を加えた。核なき世界の実現へ「方向性が示された」と肯定的評価も盛り込んだが、複数の委員が「方向性は示されず先送りされた」などと否定。ナガサキ・ユース代表団の村上文音委員は「被爆地開催のサミットへの期待は落胆に変わった。怒りを感じたという被爆地の市民の率直な感情を、訴えたほうがいい」と語った。
 鈴木市長は会合後、報道陣の取材に応じ、防衛費増額への懸念を宣言に加えるかどうかについて「出た意見を参考にしつつ、市民全体がどう思うかを勘案し、総合的に考えたい」と述べるにとどめた。広島ビジョンの評価については「全て否定すべき内容では決してない。核兵器のない世界の実現に向けた具体的な道筋が見えないのは指摘の通りで、評価できないこと、評価できることを区別して言及したい」としている。

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