新型コロナウイルスの法的位置付けが「5類」となり、老人ホームなど一部の高齢者福祉施設では、入所者との面会方法や職員の働き方が「コロナ禍前」に戻りつつある。一方、入所者の重症化リスクは変わらず「世間は緩和ムードだが、施設の感染リスクは高まっている」と制限を続ける施設もあり、現場では葛藤が続いている。
入所する妻に毎日会いに来る夫や、売店でコーヒーを飲みながら談笑する親子-。新型コロナが5類に引き下げられた5月8日以降、京都市伏見区の社会福祉法人「同和園」が運営する特別養護老人ホームなどの光景は一変した。職員は「入所者も家族も面会できて安心しているよう」と話す。
同園の面会はこれまで事前予約制の週1回(20分)で、入所者50~60人あたりスペースは1カ所のみ。入所者が濃厚接触者となった場合は面会者に防護服着用を求めるなどルールを設けていた。現在は、回数や時間、予約などの制限はなく、マスク着用の上でいつでも面会できるようにした。竹田史門園長は「入所者と家族の面会は体も心も調子が安定する」と外部との交流の大切さを語る。
面会制限の見直しに加え、職員の飲み会参加の制約を無くし、府県をまたぐ移動の事前申請を不要とするなど行動制限もほぼ撤廃した。一方、一連の緩和に伴い、感染リスクの高まりは懸念される。
同園では、コロナ禍の3年間で複数のクラスターが発生。昨秋から冬にかけての流行「第8波」では入所者と職員の計100人以上が感染した。竹田園長は「濃厚接触者の特定が無くなり、感染している可能性がある人の出入りを把握できない。再びクラスターが起こることも考えざるを得ない」と心配する。
京都市内の128施設が加入する市老人福祉施設協議会(市老協)によると、高齢者は重症化の可能性が高く、面会者からの感染リスクを考えて一定、制限を続ける施設もあるという。
厚生労働省は「心身の健康に良い影響がある」として高齢者施設での面会再開を促すが、具体的にどう受け入れるかは施設の判断に委ねられている。市老協の堀池克彦事務局長は「小規模な施設は、複数の職員が感染すれば途端に運営できなくなる恐れがある。多くの施設が、手探り状態で面会制限の緩和を進めている状況だ」と説明する。