クラモフスキー体制で劇的変化!FC東京、“勝負の夏”を戦い抜くために「必要なファクター」とは。

好調なチーム同士による戦いは、手堅い試合となった。

明治安田生命J1リーグ・第20節の浦和レッズ vs FC東京の一戦は、堅守が自慢の浦和と監督交代後は2試合連続完封勝利中のFC東京がお互いのストロングポイントをぶつけ合う好ゲームに。両軍ともポスト直撃のシュートがある中、均衡が破れないまま試合終了の笛が鳴った。

この引き分けにより、ピーター・クラモフスキー監督就任後のリーグ戦で3試合無敗(2勝1分)としたFC東京は、監督交代後に息を吹き返しつつある。

果たして、クラモフスキー体制で何が変わったのか。そして、新体制で躍動するキーマンは誰か。

強敵との戦いが続く7月および8月をいかに乗り切るかという論題も含め考察した。

監督交代後の基本システム

まずは、監督交代後のリーグ戦3試合での基本システムおよびメンバーを見ていこう。

守護神はリーグ屈指のセービング技術を誇るヤクブ・スウォビィクで、4バックは右からサイドバックでも豊富な運動量を発揮する小泉慶、キャプテン&守備の要である森重真人、鋭い出足を見せるエンリケ・トレヴィザン、ベテランらしい流石のプレーでチームに貢献する長友佑都の4人。森重が欠場した第20節の浦和レッズ戦では、木本恭生が右のセンターバックに入った。

クラモフスキー体制になり、それまでのアンカーを置く形からダブルボランチ+トップ下へと構成が変わった中盤は、強烈な左足&推進力が武器の松木玖生と持ち前のハードワークが光る安部柊斗が攻守を支える。

トップ下は渡邊凌磨、塚川孝輝、東慶悟が起用されており、チーム事情もあり固定されていない状況。アルベル体制ではアンカーを主戦場としていた東慶(※今季、東廉太がU-18から昇格したため)が“本職”のトップ下を務めているのは大きな変化だ。

3トップは右からマルチロールの渡邊、絶対的エースのディエゴ・オリヴェイラ、大ブレイクの予感を漂わせる俵積田晃太という組み合わせ。左右のウィングは野澤零温(両翼)と東慶(左)、センターフォワードはペロッチも起用されている。突破力に優れる仲川輝人とアダイウトンはケガのため離脱中であり、一日も早い復帰が待たれるところだ。

監督交代後の劇的な変化とは?

2022シーズンより指揮を執ったアルベル氏が第17節・ガンバ大阪戦を最後に退任し、第18節・名古屋グランパス戦からピーター・クラモフスキー監督がチームを率いるFC東京。監督交代後はリーグ戦3試合無敗(2勝1分)を記録するなど、安定感のある戦いぶりが光る。

新体制でいったいどのような変化が生じたのだろうか。

クラモフスキー体制での変化について触れる前に、まずはアルベル体制の振り返りをしていきたい。アルビレックス新潟で魅力的なポゼッションサッカーを展開したアルベル氏は、大きな期待を背負って首都クラブの監督に就任した。

アルベル氏は就任後、アンカーを置いた中盤逆三角形型の4-3-3を基本システムに設定。最終ラインからのビルドアップを基本的な約束事としつつ、相手守備陣に生じたスペースへロングフィードを送り込み、一気に加速して崩す速攻を取り入れたハイブリッドなスタイルを構築した。

結果、チームは昨季リーグ戦を6位でフィニッシュ。理想と現実のバランスを思案しながら、上々の結果を残した1年目だった。

迎えた2年目は、ハイブリッドなスタイルをベースに更なるレベルアップが求められた。小泉慶、仲川輝人、徳元悠平など戦術に合致する実力者をピンポイントで補強しており、戦力的にも申し分のない陣容が揃った。

だが、アルベル氏の退任が決まった第17節・G大阪戦後の順位は18チーム中12位。ハイプレスを仕掛けるチームがスタンダードである今季のJ1において、ビルドアップの質を高めることができなかった点が響いたこともあり、白星は17試合で5勝にとどまった。

巻き返しを狙うクラブが後釜に据えたのは、今季途中までモンテディオ山形を率いたクラモフスキー監督である。バトンを受け取ったオーストラリア人指揮官は、初陣となった第18節・名古屋戦で、課題を修正した姿をさっそく披露する。

大きな修正ポイントは、最終ラインからのビルドアップにこだわらず、ボールロストのリスクを減らした点だ。

敵将の長谷川健太監督が「もう少しGKからつないでくるかなと思っていたけど、けっこうシンプルに蹴ってくることが多かったので、そこは割り切っていたと思う」と試合後に振り返ったように、ゴールキックを含めリスクを負わない姿勢が見て取れた。

特に印象的だったのが、51分30秒頃に守護神のヤクブ・スウォビィクが披露したプレーだ。名古屋が自陣でボールをつなぎ、FC東京の左サイド深くへと展開。このボールにスウォビィクが飛び出して対応したのだが、守護神はタッチラインへ蹴り出す形でクリアした。

相手アタッカーのプレッシャーが猛烈に厳しかった訳ではなく、味方につなごうと思えばつなげるシーンだっただけに、迷いのない判断が際立った。

対応したスウォビィクはシュートストップがストロングポイントである反面、足元の技術に優れるタイプではない。無理につないで相手ボールになるリスク(スウォビィクは大きく飛び出してゴールを空けており、相手ボールになれば失点の可能性が高い状況だった)を踏まえれば、スローインにしてプレーを切った方が理に適う。

この判断にセンターバックのエンリケ・トレヴィザンが拍手を送るなど、チームとしてリスクを負わない意識が統一されていたことがうかがえた。

また、名古屋戦を筆頭にチーム全体のハードワーク、強度の高い守備で相手に自由を与えない形が徹底されており、監督交代後はリーグ戦3試合連続で無失点という結果に結びついている。

0-0で引き分けた第20節・浦和レッズ戦の試合後に、この日も好セーブが光ったスウォビィクは以下のように要因を明かした。

「自分は最後の砦ですけど、守備は前線のディエゴ(オリヴェイラ)選手から始まる。みんなの構築が良い守備を生んでいると思うので、これを続けられるようにしていきたいと思います」

監督交代後は守備の強度および集中力がアップし、第17節・G大阪戦で失点につながったスローイン対応(集中力が一瞬途切れ、相手選手にフリーでクロスを上げさせてしまった)も改善されている。

守備の安定は指揮官の指導が大きいと思われるが、ピッチ上の選手たちの意識改革も相当にあったはずだ。

新体制のキーマン紹介

クラモフスキー体制で変化が見られたのは、守備面だけではない。本セクションでは、新体制で躍動するキーマンたちを紹介していきたい。

まずは、ダブルボランチの一角で起用されている松木玖生だ。青森山田高時代から“超高校級”として注目を集めてきた松木はルーキーイヤーの昨季、リーグ戦31試合に出場し2得点を記録。高卒1年目から主力に定着した。

プロ2年目の今季も、持ち味とするフィジカルの強さ、縦への推進力に加え、プレースキッカーとしてチャンスメイク。特に監督交代後は攻守にハッキリとしたプレーがチームの決まり事になったこともあり、自身の強みを発揮しやすくなっている。第19節・柏レイソル戦では、森重真人の負傷を受けて“急造センターバック”を難なくこなし、戦術理解度の高さを見せた。

主将として臨んだ5月のU-20ワールドカップでは、セネガルとの初戦でゴールを決めるも、チームはグループステージで敗退。この悔しさをバネにして、クラブでの更なる成長に期待したい。

年齢的には、2003年生まれの松木のひとつ下である19歳の俵積田晃太は、今季よりトップチームに昇格し、第2節・柏戦でJリーグデビュー。ここまでリーグ戦15試合に出場し、特にクラモフスキー体制では3試合連続でスタメン出場を果たすなど、プロ1年目から存在感を放っている。

俵積田の売りは、何と言っても独特のリズムを刻むドリブル突破だ。対面のディフェンダーを相手に物怖じせず積極的に仕掛ける姿勢も光り、大ブレイクの予感を漂わせる。

第19節・柏戦では、フェイントからの丁寧なクロスでディエゴ・オリヴェイラのヘディング弾をアシストし、チームの勝利に貢献した。(動画1分45秒から)

俵積田はアカデミー育ち(U-15むさし、U-18)だが、クラモフスキー体制ではアカデミー育ちの有望株が出場機会を増加させている。左右のウィングでプレーする野澤零温(U-15深川、U-18)と大型ボランチの寺山翼(U-15むさし、U-18から順天堂大に進学)がチャンスを得ており、点取り屋の熊田直紀(U-15むさし、U-18)も虎視眈々と出番をうかがう。

また、大会初となるアジア連覇を達成した「AFC U17アジアカップ タイ2023」では、U-18から後藤亘、永野修都、佐藤龍之介の3名が優勝メンバーに名を連ねた。彼らは近い将来のトップチームでの活躍が期待されるが、アカデミーの充実ぶりは今後も明るいニュースを運びそうだ。

そして、若手に負けじと存在感を示すのが、渡邊凌磨と塚川孝輝だ。

ともに複数ポジションに対応するユーティリティプレーヤーで、ウィングが主戦場の渡邊はトップ下、インサイドハーフ、サイドバックでもプレー可能。塚川はボランチ/インサイドハーフをメインポジションとしつつ、トップ下やウィング、センターフォワードでも起用されてきた。

前線は仲川輝人とアダイウトンがケガのため離脱中で、台所事情は苦しい。その中で複数ポジションをハイレベルでこなす渡邊と塚川の存在は非常に大きいと言える。

特に第20節・浦和レッズ戦を累積警告による出場停止により欠場した塚川は、184cmとサイズがあり、タフに戦えるハードワーカー。前線に強さをもたらすことができる背番号35が次節以降、トップ下の定位置をつかめるか注目したい。

強敵との戦いが続く夏場を駆け抜けろ!

監督交代後の極めて重要な3試合を2勝1分で乗り切ったFC東京にとって追い風なのが、クラモフスキー監督のチームは「勢いに乗ると怖い」という点だ。

今季途中まで指揮を執ったモンテディオ山形時代を振り返ると、途中就任だった2021シーズンは、就任後の29試合で17勝3分9敗を記録。就任前に17位だった順位を最終的に7位まで上昇させた。

また、昨季は序盤戦に勝ち点を伸ばせず、第10節終了時点で19位と低迷。第11節からの3連勝で一気に4位まで浮上した後、第26節終了時点で13位まで順位を落とすなど文字通り乱高下だったが、最終節の勝利によりJ1参入プレーオフ圏内の6位でリーグ戦を終える。

プレーオフでも1回戦で快勝し、2回戦でロアッソ熊本を相手に一時はリードを奪うなど勢いを見せた。

クラモフスキー体制で攻守にアグレッシブなスタイルはすでに確立できており、勢いに乗ればリーグ戦でのトップ5フィニッシュ(第20節終了時点で5位・セレッソ大阪との勝ち点差は6)はもちろん、ルヴァンカップ&天皇杯での優勝も十分狙えるはずだ。それだけのタレントは元々揃っている。

ただ、真価が問われるのはここからだ。暑さも敵になる7月および8月は強敵との戦いが続き、心身ともに疲弊することが予想される。今後のスケジュール(リーグ戦)をまとめると以下の通りになる。

・7/16 (日) 第21節 vs 鹿島アントラーズ (ホーム)
・8/6 (日) 第22節 vs セレッソ大阪 (アウェイ)
・8/12 (土) 第23節 vs 京都サンガ (ホーム)
・8/19 (土) 第24節 vs 横浜F・マリノス (アウェイ)
・8/26 (土) 第25節 vs ヴィッセル神戸 (ホーム) ※国立競技場で開催

鹿島戦とC大阪戦は勝ち点的にも勝利できれば差を一気に縮められるチャンスで、横浜FM戦と神戸戦は今季のJ1をけん引するクラブ相手にどこまで通用するかという試金石になる。

現在のFC東京は、以前よりも更に強度の高いスタイルを標榜するだけに、「夏場の暑さをいかにダメージ少なく乗り切るか?」という点が成績に直結するはずだ。これ以上ケガ人が出ないようにするためにも、5人の交代枠をフル活用(クラモフスキー監督は就任後の3試合すべてで4枠しか使っていない)して選手の疲労をできるだけ軽減したいところだ。

勝ち点を積み重ねるには、強度を落とさないことが何よりも重要となるだけに、クラモフスキー監督のマネジメント力が試されるに違いない。

そして、選手層に厚みをもたらす意味で、京都から獲得が発表された白井康介の存在は大きい。

本人が上記の動画で語る通り、白井はスプリント力と対人戦の強さが武器の右サイドバック。京都では在籍2シーズン半で82試合に出場するなど主力として活躍した。曺貴裁監督のもとでプレーしていただけあって、強度の高いスタイルは打ってつけである。

【関連記事】下平監督率いる大分トリニータが今、アツい!怪我人続出も「ゼロトップ&偽サイドハーフ」の新布陣でJ1昇格圏を維持。

白井の加入により、現在右SBを務める小泉慶を本職のボランチでも起用することが可能となる。また、小泉のポジションはそのままに、白井を一列前の右ウィングに配するプランもあるのではないかと見る。いずれにしても、白井の加入で選手起用の幅は広がりそうだ。

フレッシュな若手たちの台頭もプラス材料にして、“勝負の夏”を勢いよく駆け抜けたい。

© 株式会社ファッションニュース通信社