アース製薬で害虫飼育に没頭25年、苦手でも「きらいになれない」 名物研究員が「マイスター」に

四半世紀に及ぶ「害虫飼育」の日々を振り返る有吉立さん=赤穂市坂越、アース製薬

 製薬会社「アース製薬」の赤穂研究所(兵庫県赤穂市坂越)で、実験用のハエやゴキブリ、ダニなどの「害虫」約100種類を飼育してきた名物研究員の有吉立(りつ)さん。その特異な業務内容と飾らないキャラクターで社内外に知られる。「生物飼育のマイスター」として引き続き業務に携わる有吉さんは、1998年の入社から四半世紀に及ぶ害虫飼育人生を「何の後悔もない」と振り返る。「とはいえ、人生をやり直せるとしたら、またこの仕事を選ぶ…かどうかはわかりませんけど」と明るく笑う有吉さんに、インタビューを敢行した。(黒川裕生)

 有吉さんは地元赤穂市出身。東京の美術系専門学校を卒業後、家具店の店員や陶芸教室の講師など、職を転々としていた時に偶然見つけたのが、同社の「研究に使う虫の飼育」という求人広告だった。

 「虫はムチャクチャ嫌い」だった有吉さんだが、地元の優良企業で働けることに魅力を感じて応募。約40倍の倍率を見事くぐり抜け、想像だにしなかった日々が幕を開けた。

 「虫と一切関わらずに生きてきたので『この世にゴキブリの雌雄を分けるなんて作業が存在するとは』『蚊のサナギってこんなに動き回るのか』と驚きの連続でした」

 もちろん最初は嫌で仕方なかった、と苦笑する有吉さん。「だって夢に出てくるんですよ、うごめくゴキブリが!」。虫独特のにおいにも閉口したが、先輩に教わりながら虫と昼夜を共にするうち、なんとあっさり「慣れてしまった」という。

 「大事なのは好き嫌いではなく、器用かどうか。私は幸い器用な方だったので、この仕事に向いていたようです」

 入社当時、30種ほどだった害虫は、今や約100種にまで増えた。飼育マニュアルのない虫もいて、四六時中、とにかく虫のことばかり考える生活だ。

 「入社2年目に施設がリニューアルされ、『見学コース』ができたのも大きな転機でした。新人の私が案内役を務めることが多かったので、見学者からの質問に答えられるよう、虫のことをさらにたくさん勉強したんです。飼育だけでは得られない知識、スキルも身につきました」

 メディア出演もこなすようになった有吉さんは、次第に「アース製薬にこの人あり」という唯一無二の存在に。2018年にはとうとう「きらいになれない害虫図鑑」という単著まで出してしまった。

 「アース製薬の中でも特殊な部署ですし、ましてや一般社会では極めて珍しい仕事を25年間もやらせていただいた。虫が嫌いでも、手先が器用で根気さえあれば、どうにかなるものです。今は胸を張って『天職だった』と言えます」

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