「5点の衣類は捜査機関のねつ造ではない」袴田さん再審で有罪立証に“踏み切った”検察の思惑

袴田巌さんのやり直し裁判をめぐり、検察は7月10日、有罪立証する方針を静岡地方裁判所に伝えました。無罪判決がほぼ確実視される中で、検察がそれでも有罪立証に“踏み切った”理由が見えてきました。

<袴田事件弁護団 小川秀世弁護士>

「皆が袴田さんの無実ということを分かっていて、にもかかわらず、長期化をしようとしているのは、検察は人の人生をなんて思っているのか。腹立たしい限り」

<袴田巖さんの姉・ひで子さん(90)>

「検察庁だからとんでもないことをすると思っていた。検察庁の都合でこうなっていると思う。仕方がない。裁判で勝つしかない」

姉・ひで子さんや弁護団は検察が有罪立証の方針を示したことに怒りをあらわにしました。

袴田巖さん(87)は1966年、現在の静岡市清水区で一家4人が殺害された事件で死刑が言い渡されていましたが、2023年3月、東京高等裁判所が再審=裁判のやり直しを決定しました。決定の中で高裁は、犯人のものとされたいわゆる「5点の衣類」について「ねつ造された可能性が高い」と指摘していました。

関係者によりますと、検察側はこの3か月間、「5点の衣類」などについて複数の専門家の意見を聞くなどして有罪立証するのか、それとも諦めるのか、両パターンを吟味しました。そして10日、再審で有罪を立証する方針を静岡地裁に伝えました。「5点の衣類」を再び、袴田さんが犯人である証拠として示す方針です。

死刑事件で再審が始まるのは袴田さんで5例目。過去4件はいずれも無罪判決が下されていて、袴田さんの無罪判決もほぼ確実視される中で、検察はなぜ有罪立証に“踏み切った”のか?元東京地検特捜部で副部長まで務めた若狭勝弁護士は“古巣”の判断についてこう分析します。

<元東京地検特捜部 若狭勝弁護士>

「『5点の衣類』についてはねつ造ではなかった、あるいはねつ造とは認められないとする落としどころにもっていくために、戦略的な強い有罪立証をしていると」

若狭さんは検察が有罪立証に“踏み切った”理由について、裁判所が「捜査機関によるねつ造の可能性」を指摘したためと分析。JNNの取材に対してある関係者は…。

<関係者の証言>

「無罪になる可能性は高いとしても、ねつ造は承服できない」

袴田さんは87歳。姉のひで子さんは90歳。弁護側は早期の無罪判決を求めていますが、審理の長期化は避けられない見通しです。

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