スペイン代表兄弟分ダブル優勝はなかった…/原ゆみこのマドリッド

[写真:©︎RFEF]

「やっぱりウソだったわ」そんな風に私が頷いていたのは月曜日、お昼にTVでレアル・マドリーとバルサのプレシーズン練習開始の映像が流れ、アナウンサーが「リーガのチーム全てが活動を始めました」とさらりとコメント。何か違和感を覚えて調べてみたところ、当然ですよねえ。6月17日のプレーオフ決勝2ndレグでレバンテを後半ロスタイムのPKで0-1と破り、劇的な1部復帰を遂げたアラベスは7月16日までバケーション。2部に復帰したマドリッドの弟分、アルコルコンもカルタヘナとのプレーオフ決勝2ndレグが終わったのが6月24日だったため、プレシーズン開始は7月16日と、すでに今月5日からシュダッド・デポルティボ・ブタルケで猛暑の中、汗を流しているもう1つの2部の弟分レガネスより、かなり遅れてスタートすることに。

とはいえ、今週から大部分のクラブが23-24シーズン開幕に向けて、練習を始めているのは本当なんですが、その前にようやく昨季を終了させたチームの話をしておかないと。それはU21ユーロに参加していたスペイン代表で、先週土曜にはとうとう決勝を迎えたんですけどね。この大会、初めて踏むジョージアの地でイングランドに挑んだところ、準決勝ウクライナ戦で挙げた5点のうち、いくつかゴールを取っておけば良かったのにと悔やむ結果になっちゃったんですよ。

そう、前半のうちはどちらも何発か撃って、GKがしっかりセーブといった感じだったんですが、44分にコルウィル(ブライトン)のシュートがゴールポストに当たり、ドッキリさせられた後のロスタイム、まさかパルマー(マンチェスター・シティ)の蹴ったFKがカーティス・ジョーンズ(リバプール)の背中に当たり、ゴールにすっぽり入ってしまうとは!うーん、ジョーンズはスペインの選手たちの壁の前にいたため、キッカーとの距離が規定通り取られていなかったという抗議はもちろん、あったんですけどね。VAR(ビデオ審判)からも異議は出なかったため、このゴールはスコアに挙がることになり、そこでまた、パルマーの挑発的なゴール祝いを機に始まった、ベンチから両チーム総出のtangana(タンガナ/小競り合い)が一段と熱気を帯びることに。

ちなみにこのパルマー、セルヒオ・ゴメスのクラブの同僚なんですが、当人も後で「そのことについて、彼と話すかはわからないけど、実際、いい態度だったとは言えない。Cada uno lo celebra como quiere y ya sabemos cómo son los ingleses/カーダ・ウノ・ロ・セレブラ・コモ・キエレ・イ・ジャー・サベモス・コモ・ソン・ロス・イングレセス(それぞれ、やりたいように祝えばいい。イングランド人がどんなだか、ボクらは知っているからね)」とコメント。もしや18才でバルサBを出て、ボルシア・ドルトムントやアンデルレヒトといった、スペイン国外のチームでプレーしてきた彼もここしばらくU21の仲間と一緒にいて、里心がついてしまったのかと思わせるような言葉でしたが、これは2人がマンチェスターに戻った時、尾を引かないことを祈るばかりかと。

一方、後半開始直後から反撃に出たスペインは早くも5分、こちらもFKからアベル・ルイス(ブラガ)がヘッドでゴールを決めたものの、オフサイドで得点にならず。いやあ、彼はこの大会で3得点挙げているチームの絶対的CFなんですが、この日は本当にシュートの精度が悪くてねえ。その後撃った3本も枠を外れるか、GKトラフォード(昨季はマンチェスター・シティからボルトン・ワンダラーズにレンタル移籍)に弾かれるといった有り様だったんですが、同様に他の選手もシュートが決まらず。総じて言えば、これはどこぞのチームが得意な撃っても撃ってもゴールが入らない状態だったかと。

とはいえ、サンティ・デニア監督も手をこまねいて見ていた訳ではなく、14分にはバエナ(ビジャレアル)、ロドリ(セビージャ)、サンセット(アスレティック)をアイマール・オロス(オサスナ)、ガブリ・ベイガ(セルタ)、リケルメ(昨季はアトレティコからジローナにレンタル移籍)に交代。28分にはビクトル・ゴメス(ブラガ)の代わりにバルネチェア(アスレティック)を左SBとして入れるという荒業まで使ったんですが、状況は好転しません。ええ、シメオネ監督にアピールする絶好のチャンスをもらったリケルメはサイドネットに撃ってしまうし、最後に入ったカメージョ(昨季はアトレティコからラージョにレンタル移籍)もゴール前でのchilena(チレナ/オーバーヘッドシュート)に失敗。

そのまま45分を迎え、それでもロスタイムが6分もあったため、最後の望みをかけて見ていたところ、奇跡が起こったんですよ。そう、49分頃、イングランドのエリア内でオロスのパスを受けに行ったアベル・ルイスがコルウィルに蹴られて転倒。その時はプレーが止まらず、ボールがスペイン陣内を一周して、帰ってくるまで、ずっと彼は倒れたままだったんですが、そこでVAR注進が入ることに。モニターを見に行った主審がペナルティを宣告し、ロスタイム9分、アベル・ルイスが延長戦に持ち込むべく、PKを蹴ったんですが…。

まさに「Cuando hemos visto el penalti parecía que estaba escrito para nosotros/クアンドー・エモス・ビストー・エル・ペナルティ・パレシア・ケ・エスタバ・エスクリトー・パラ・ノソトロス(ペナルティになったのを見た時、勝利はボクらのために約束されているように見えた)」というセルヒオ・ゴメスと私も同じ気持ちでいたところ、アベル・ルイスがトラフォードに弾かれてしまうとは!それどころか、イングランドのGKは跳ね返りをシュートしたオロスも弾き、最後にトライしたカメージョは天高く撃ち上げてしまうって、厄日もここに極まれり?結局、シュートを20本撃ちながら、枠内は4本だけ。逆に7本撃って、うち6本が枠内だった相手に効率で劣ったのが祟ったか、何やかやで、トータル22分ぐらいあったロスタイムにも得点できなかったスペインはそのまま1-0で敗戦し、大会6試合無失点のイングランドがトロフィーを持ち帰ることになりましたっけ。

え、これでスペインU21はほぼ全員が代替わりするんだろうって?そうですね、次のU21ユーロ2025は2002年以降に生まれた選手しか出られないため、この大会に招集された中ではベイガとアルナウ・マルティネス(ジローナ)しか残れないんですが、準決勝進出で参加権を勝ち取った来年のパリ・オリンピックには2001年組の7人が出場可能。よって、14人の2000年組が3人のオーバーエージ枠を争うことになるんですが、実はスペインって、飛び級してA代表に行ってしまった選手が結構、いるんですよ。

そう、バルサ勢のペドリ、アンス・ファティ(2002年)、バルデ(2003年)、ガビ(2004年)らやジェレミー・ピノ(ビジャレアル、2002年)、ニコ・ウィリアムス(アスレティック、2002年)らが該当するんですが、2024年には6月14日から7月1日まで大人のユーロが開催。その後、7月24日から8月9日まで続くオリンピックにも行ってもらうとなると、あれ?もしやペドリなど、2021年にコロナ禍で1年遅れになったユーロ2020と東京オリンピックが重なった夏に梯子参加して、その後、かなり長い間、負傷で休んでいたような。そういう前例があるだけに、デ・ラ・フエンテA代表監督もサンティ・デニア監督もいくら若いからって、選手を使い倒すのは考えるかと思いますが、それはまだまだ先の話。その前にスペインはA代表がネーションズリーグ・ファイナルフォー優勝の勢いを保って、ユーロ出場権を手に入れないといけませんよね。

そしてまた、マドリッド勢のプレシーズン練習に話を戻すと、U21ユーロ閉幕でようやく2週間のバケーションに入れることになったリケルメとカメージョ(マヌ・サンチェスはセルタ移籍が決定)とは入れ違いで、アトレティコは先週金曜からマハダオンダ(マドリッド近郊)の練習場で新加入のハビ・ガラン(セルタから移籍)、ソユンチュ(レスターとの契約終了)、アスピリクエタ(チェルシーとの契約を解除)、モウリーニョ(ラシンクラブ・デ・モンテビデオから移籍)も加わって、セッションを開始。土曜には昨季終盤、首椎間板ヘルニアでずっと欠場していたGKオブラクもグラウンドに姿を現わしたそうで、いえ、まだゲルビッチら控えGKたちと一緒には練習していないんですけどね。個別メニューで慣らしていって、そのうち合流するとなれば、今季は昇格したRFEF1部(実質3部)でアトレティコBのゴールを守ることになるゴミスやイトゥルベがゴールキーピングの更なる高みに到達する助けになる?

同様に昨季をヒザの手術で終えたヒメネス、最終節までに回復が間に合わなかったメンフィス・デパイらもおいおい本隊に加わっていくはずですが、土曜のダブルセションを終えた後、日曜夕方にチームは恒例のロス・アンヘレス・デ・サン・ラファエル(マドリッドから1時間の高原リゾート)地獄のサマーキャンプにバスで出発。月曜に現地に出頭すればいいグリーズマンも一緒だったのには驚かされましたが、まあ、翌朝のセッションは午前9時開始ですからね。残りの6月各国代表戦参加組、モラタ(スペイン)、ジョアン・フェリックス(ポルトガル)、カラスコ(ベルギー)、サビッチ(モンテネグロ)、モリーナ、デ・パウル(アルゼンチン)らが早朝にマイクロバスでマドリッドを発ち、午前7時45分にホテル・シエラ・セゴビアに着いているのを見ると、前日移動が一番、賢かったかと。

え、昨季後半はチェルシーにレンタル移籍しながら、ポチェッティーノ新監督に構想外にされて早々に完全移籍の可能性が消滅。バケーション中にも移籍ができず、挙句の果てに背番号7もグリーズマンに返すことになり、嫌々アトレティコのプレシーズン練習に戻って来たジョアンはどうしているのかって?うーん、キャンプ最初のセッションではシメオネ監督と目も合わさなかったとか、10対10のpartidillo(パルティージョ/ミニゲーム)は見学だったとか、今のところ、ネガティブな情報ばかりが伝わってくるんですけどね。だからって、今季はアトレティコでプレーしない前提で加わっているのはロディ(昨季はノッティンガム・フォレストにレンタル移籍)やサムエル・リノ(同バレンシア)、ジュリアーノ・シメオネ(同サラゴサ)らも同じですし、あまりさらし者にはしないで、当人がじっくり行く末を決めるのを待つしかないかと。

そんなアトレティコは今週いっぱいロス・アンヘレスで合宿なんですが、兄貴分から遅れること1日、土曜にコリセウム・アルフォンソ・ペレスのすぐ近くにある練習場でセッションをスタートしたヘタフェも月曜にはボルダラス監督に率いられ、オリバ(地中海沿岸のゴルフリゾート)に移動。新顔は先週、入団プレゼンのあったチョコ・ロサーノ(カディスと契約終了)、アルティミラ(サダベルと契約終了)、GKフサタ(イビサからレンタル移籍)だけで、まだ6月各国代表戦組のジェネ(トーゴ)とマクシモビッチ(セルビア)は加わっていないんですが、先日、RMカスティージャからのレンタルが1年延長されたラタサはU21ユーロの本リストに残れなかったため、参加しています。

あちらでは金曜にブラッドフォード・シティ(イングランド4部)とプレシーズン最初の親善試合が組まれていて、その翌日にはもうマドリッドに帰還。来週水曜にはレガネスとの練習試合をやるんですが、非公開だそうで、一応、クラブのTwitterやYouTubeのチャンネルで中継してくれるようなので、この気温40度近い猛暑の中、私も観戦に行かずに済むのは逆に嬉しいかも。そうそう、予定がわからず、気になっていた弟分仲間、ラージョの方もこの月曜にはフランシスコ新監督の下で無事にプレシーズン練習がスタートし、今週はマドリッド南部にある灼熱の練習場でダブルセッション3日を挟んで土曜までノンストップでトレーニング。

新加入選手はまだアリダネ(オサスナと契約終了)だけですが、昨季後半レンタルに出ていたエヌテカ(エルチェ)やベベ(サラゴサ)も戻って来たようですしね。今のところ、ファルカオも健在なため、私も機会があったら、覗きに行きたいんですが、最寄り駅のあるメトロの1号線が夏の改修工事で止まっている上、午前9時からとなるとどうしていいやら。ラージョはまだ親善試合が8月6日のブライトン戦しか決まっておらず、どこかにキャンプに行くかどうかも不明なんですが、またわかり次第、お伝えしていくことにしますね。

そして同じ月曜、とうとうレアル・マドリーもバルデベバス(バラハス空港の近く)の練習場でプレシーズンが始まったんですが、こちらでは本場ロサンジェルスキャンプ出発直前の19日まで休んでいて良かったのに気合を入れて、初日から出勤した選手が2人。それは新加入のフラン・ガルシア(ラージョから移籍)とギュレル(同フェネルバフチェ)で、まあ前者はスペイン代表のネーションズリーグ・ファイナルフォー優勝には立ち会ったものの、プレーする機会がありませんでしたからね。トルコのユーロ予選に出て、ウェールズ戦で代表初ゴールも挙げた後者は18才と若いせいか、それともユニ着用の入団プレゼン映像の舞台が他の補強選手と違い、エスタディオ・アルフレド・ディ・ステファノ(RMカスティージャのホーム)ではなく、普段練習をするグラウンドだったのに危機感を覚えた?

早いうちから、アンチェロッティ監督にアピールすることを選んだようですが、それにしても驚かされたのはトップチームと合わせるように同日、ラウール監督率いるRMカスティージャもプレシーズン練習に突入したこと。だってえ、2部昇格はできなかったとはいえ、彼らはアルコルコン同様、6月25日までRFEF1部のプレーオフ決勝を戦っていたんですよ。おまけにアルバロ・ロドリゲス、ビニシウス・トビアス、カリージョの3人は初日からアンチェロッティ監督に駆り出されるって、もしかして可哀そう?いやまあ、カスティージャを破って2部チームとなったエルデンセもこの火曜から、練習を始めるそうなので、バケーションが短いのは彼らだけじゃないんですけどね。とにかく今のマドリッドは暑さが半端ありませんし、熱中症だけには気をつけて皆、トレーニングに励んでもらいたいものです。


【マドリッド通信員】 原ゆみこ

南米旅行に行きたくてスペイン語を始めたが、語学留学以来スペインにはまって渡西を繰り返す。遊学4回目ながらサッカーに目覚めたのは2002年のW杯からという新米ファン。ワイン、生ハム、チーズが大好きで近所のタパス・バルの常連。今はスペイン人親父とバルでレアル・マドリーを応援している。

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