今は、夢がなくても

 トップは男の子だとスポーツ選手、女の子は漫画家・イラストレーター。子どもが将来就きたい職業アンケートの結果を先日、化学メーカーのクラレが発表した。中学生の頃だったか、筆者も学校で同じことを尋ねられた覚えがある▲これという希望もなく、迷って「会社員」と書いたっけな…。きのうの「声」欄で、佐世保市の中学生、坂本華さんの投稿を読んで、往時の自分を思わず重ねた▲〈私にはまだ夢がない〉と投稿は始まる。将来の夢を持つ人はまぶしい限りだが、一方で夢を語れず焦る人もいる▲ある本に坂本さんは触れた。〈夢がないということは将来なににでもなれるということだから、あせらなくてもいいんじゃない?〉といったくだりがあり〈本当にそうだなと思った〉という▲思い出す曲がある。1960年代に活躍したフォークデュオ、サイモン&ガーファンクルの「アメリカ」で、夢を探して旅に出た「僕」が独り言のように言う。和訳すれば〈僕は迷っちゃったよ/…心に穴が空いて痛いんだ/どうしたらいいんだろう〉▲大志を抱くべきだ、進路にも関わるぞ、と期待される。夢を持たねば、と自分も迷う。時代を超えた惑いだろう。〈迷っちゃったよ〉というつぶやきは〈将来なににでもなれる〉という可能性の言葉と裏表でもある。(徹)

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