自治医大病院で世界初 「孤発性ALS」対象の遺伝子治療

孤発性ALS治験イメージ

 全身の筋肉が徐々に動かなくなる難病「筋萎縮性側索硬化症(ALS)」患者に対し、病気の進行を抑制する遺伝子治療の治験が、自治医大付属病院で行われている。血縁者にALS患者のいない「孤発性ALS」を対象にした遺伝子治療は世界初という。患者6人に治験を行い、新たな遺伝子治療法として国の承認を目指す。

 治験は同病院リハビリテーションセンターの森田光哉(もりたみつや)教授(61)らが行っている。

 孤発性ALSの発症について、東京医科大神経学分野の郭伸(かくしん)兼任教授(72)は、運動神経細胞の中にある酵素(ADAR2)の減少などに伴い、細胞死が引き起こされることが一因との見解を示してきた。

 発症原因や治験の方法は、郭教授と自治医大神経遺伝子治療部門の村松慎一(むらまつしんいち)教授(64)が2008年以降、共同で研究、開発してきた。

 松村教授が開発した遺伝子を運ぶ能力が高く、安全性に優れた非病原性の「アデノ随伴ウイルス(AAV)」を使い、孤発性ALSを再現したマウスに、ADAR2を発現させる遺伝子を投与。その結果、病気の進行が止まることが分かった。同様の方法を人への治験で導入した。

 治験対象者は孤発性ALSを発症してから2年以内で、病気の進行が速い患者。治療法は、ADAR2を発現させる遺伝子をAAVに組み込み、腰から挿入したカテーテルを通じて脊髄周辺に1回投与する。遺伝子の導入によりADAR2を活性化させ、運動神経細胞死を抑制し、病状の進行を食い止める狙いだ。

 治験を行うごとに、外部の評価委員会が約4週間分の経過観察データを確認し、重篤な有害事象がなかった場合は次に移る。3月に初めて50代男性に投与し、6月には2例目となる60代男性に投与した。

 治験に臨んでいる森田教授は「ALSは難病中の難病だが、何とか治療したい。そのためにも、期待される効果を確かめる」。村松教授は「1日でも早く国の承認を受け、多くの患者に届けたい。また、AAVの有用性も確認できれば、他の難病でも使えるようにしたい」と話している。

 ■筋萎縮性側索硬化症(ALS) 進行性の病気で、筋力低下や嚥下(えんげ)障害、呼吸筋のまひが現れ、発症後数年以内に死に至る難病。飲み薬などが使用されているが、進行を止める有効な治療法は見つかっていない。日本ALS協会によると、2021年度の国内ALS患者は約1万人で、そのうち約9割が血縁者に発病者がいない孤発性ALS患者。

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