ついに王者が“再起動”RXRのクリストファーソン&コチュリンスキー組が完全制覇/エクストリームE第5-6戦

 開幕から約2カ月おきの開催で、イタリアはサルディニア島での第5-6戦『アイランドX-Prix』を迎えたワンメイク電動オフロード選手権エクストリームEは、元F1王者ニコ・ロズベルグ率いるシリーズ初代王者ロズベルグXレーシング(RXR)が覚醒。前年度のここイタリアでは、首位フィニッシュながらペナルティに泣いたヨハン・クリストファーソンとミカエラ-アーリン・コチュリンスキーのペアが、同じくその相手でもあったNo.99 GMCハマーEV・チップ・ガナッシ・レーシング(CGR)のタイム加算宣告で土曜の勝利を譲られると、続く日曜も抜け出して週末完全制覇を達成。ようやく手にした“シーズン3”の初勝利を、完璧な展開で祝う結末となった。

 今季より完全ダブルヘッダーの年間スケジュールが組まれるエクストリームEは、この7月8~9日の週末を前に“ディフェンディング・チャンピオン”こと、セバスチャン・ローブのサプライズ復帰(ナッサー・アル-アティヤの代役としてアプト・クプラXEに加入)や、言わずと知れた故ケン・ブロックの愛娘、リア・ブロックのシリーズデビューなど華々しいビッグニュースが相次いだ。

 迎えた初日フリープラクティス(FP)は全長約2.9kmのトリッキーなコース設定で、ルイス・ハミルトン率いるX44ヴィダ・カーボン・レーシングのジャマイカ出身フレイザー・マッコーネルと“王者”クリスティーナ・グティエレスが速さを見せ、今回クララ・アンダーソンと組んだ元僚友のローブらを抑えて首位に立つ。

 そのアプト陣営はクプラ・タバスカンXEのスロットルペダル固着に続き、車両が最低重量を下回っていることが判明してセッション失格の処分に。同じくネオム・マクラーレンXE(タナー・ファウスト/エマ・ギルモア組)も、泥にまみれた前戦終了後にマシンを分解清掃した結果、車両重量が「数kgほど」減量されたことにより、午前午後の両FPとも計量規定に違反する結果となった。

 一方、このセッションで才能の片鱗を見せつけたのが前戦イギリスで初表彰台を獲得して波に乗る新興カール・コックス・モータースポーツから参戦し、父との交流から「旧知の間柄」だというティモ・シャイダーと組んだリア・ブロックで、セクター3では最後の最後でマティアス・エクストローム(アクシオナ・サインツXEチーム)に更新されるまで、最速タイムを維持する速さを披露した。

「とても楽しかった! 私にとっては新しいシリーズ、新しいコンペティター、まったく新しいクルマだし、ここへ来てから自分自身に大きな期待はしていなかった」と続けた16歳のリア。

「でもこのクルマはとてもクールで、これまでにドライブしたことのないものだった。確かに今日は大変だったし、私にとってこのフリー走行がクルマに乗った唯一の時間だった。可能な限りベストを尽くすことだけを考えていたけれど、今はこのエクストリームEをとても楽しんでいる」

 明けた土曜から、都合4回の予選ヒートを経てアクシオナ・サインツXEチームが首位通過を決め、RXRやCGR、ABTに並んでアンドレッティ・アルタウィキラット・エクストリームEがファイナルへと進出。すると前年度はカイル・ルデュックとサラ・プライスのペアで勝利を得たCGRがふたたびレースを支配し、今季はRJアンダーソンとアマンダ・ソーレンセンに一新されたペアが圧巻のパフォーマンスを見せ、首位でドライバースイッチゾーンに飛び込んでくる。

“ディフェンディング・チャンピオン”こと、セバスチャン・ローブ(右上)のサプライズ復帰や、リア・ブロック(左下)のシリーズデビューなど、華々しいビッグニュースが相次いだ
ABT陣営『CUPRA Tavascan XE』で参戦のローブは、トラブル頻発の初日から土曜のファイナルではパンクを喫するなど、ほろ苦い復帰戦に
ほぼ「シートベルトを外しかけていた」ヨハン・クリストファーソンは、文字どおり”再起動”から脅威のスパートを披露

■一度はストップのクリストファーソンがスーパードライブで挽回

 一方で、スタート直後にアンドレッティ、ガナッシの北米陣営に弾き飛ばされたRXRのクリストファーソンは、ターン1の右サイドに大きく膨らんで失速。「少しワイドすぎてバンプに当たり、ターン1の出口でさらにワイドになった」と語った彼は、「クルマの下に非常に強い衝撃を受けたから、もしかしたら壊れるかもしれないと思って、しばらくしてから完全にクルマを止め」てしまう。

 しかし、その直後に「失うものは何もない」と思い直した、今季ここまで未勝利に終わっている初代チャンピオンは、再度クルマをスタートさせると前半スティントのわずか2ラップで猛然とスパートを開始。パンクを喫したアプトのローブを追い抜くと、スイッチ直前にはエクストロームも仕留めて、2番手を行くアンドレッティのわずか2.477秒差まで挽回するスーパードライブで、続くコチュリンスキーに繋いで見せる。

 そのままバトンを受け取った彼女もまた「スイッチゾーンで彼から良い情報を得ることができた」と、WorldRX世界ラリークロス選手権”5冠”のエースから独自のライントレース方法を聞いて完全コピー。アンドレッティのケイティ・マニングスに迫ると、両車はバトルの末に接触しマニングスがロールオフの結末に。

「ケイティ(・マニングス)が衝撃の後、元気にしていると聞いてうれしく思った。それがもっとも重要なことだから(コチュリンスキー)」と、懸命に前を狙った姿勢が功を奏したか、首位を快走していたCGRのソーレンセンは、義務付けられた45秒のほんの数秒前にドライバースイッチエリアを離れたことで15.7秒のタイムペナルティを受け、さらに得られたとみなされるアドバンテージに対し15秒が追加され、敢えなく勝利の権利を剥奪されることに。

 ドライバー陣容は異なれど、前年度の立場をそっくり入れ替えるかたちで「今日は勝てて最高に気持ちいい(クリストファーソン)」「表彰台の最上段に戻ってこられて本当にうれしい(コチュリンスキー)」と語ったふたりが、劇的な逆転で今季初優勝を手にした。

 続く日曜の第6戦も順当にファイナル進出を決めたRXR陣営は、勝利を挙げたことで運気も好転したか、スタート直後こそ4番手に留まったものの、ターン1でポジション争いを繰り広げるライバル勢が道を開けたことで一気にトップへ浮上する。そのままRXRが、追い縋るエクストロームとライア・サンズのアクシオナ・サインツXEチームと、前日のロールオーバーから懸命の復旧作業でカムバックしたティミー・ハンセンとマニングスのアンドレッティ陣営を退け、週末を連勝で終える結果となった。

「昨日の決勝ではスタート後の最下位から見事な逆転劇を演じることができた。そして今日は最後から2番目だったが、後続からもつれながらもなんとか突破することができた。シリーズの競争レベルはワールドクラスであり、ふたりの素晴らしいドライブは僕らがチャンピオン争いに戻ってきたことを意味するね」と、ようやくの勝利に安堵の表情を見せたニコ・ロズベルグ代表。

 続くエクストリームEの第7-8戦は、まだ開催地未定の“TBC”ながら北米大陸ならアメリカ、南米大陸ならブラジルを想定して9月16~17日のスロットが予定されている。

「彼(RJアンダーソン)は私にきれいなままのクルマをすぐに貸してくれた。着実に『その瞬間』は近づいている」と、惜しくも勝機を逃したアマンダ・ソーレンセン(左)
明けた日曜の第6戦も制したRXR陣営。「僕らがチャンピオン争いに戻ってきたことを意味するね」とニコ・ロズベルグ代表
前日のロールオーバーから懸命の復旧作業でカムバックしたティミー・ハンセンとマニングスのAndretti Altawkilat Extreme E

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