「看過しがたい過誤・欠落」とは? すでに埋め立てが始まっている産廃処分場の「設置許可」が取り消しに⁈ 市民の「水」は誰が守るのか…

広島・三原市にある安定型と呼ばれる産業廃棄物最終処分場の本郷処分場…。

7月4日、広島地裁は、3年前の広島県の設置許可処分が違法であったとして、設置許可の取り消しを求める判決を言い渡しました。

これは、ずさんな調査に基づいた業者の言い分をうのみにしてきた県の判断をただすものです。

広島県 湯崎英彦 知事
「県としては、法令に則って適正に審査したものと現時点では考えている」

いったい問題はどこにあるのでしょうか?

遠い井戸は調査して 近い井戸は… 無視?

本郷処分場をめぐっては、設置許可が申請された5年前からさまざまな住民運動が展開されてきました。設置が許可された3年前には周辺住民が原告となり、提訴され、その違法性が指摘されてきました。原告の住民たちは、「これは本郷処分場だけに限った問題ではない」と県内の処分場のあり方に警鐘を鳴らしています。

三原市本郷町に住む、原告の1人、中林孝子 さんです。この家の井戸は処分場から一番近い距離にありますが、処分場の建設のための水質検査を受けていません。

原告の1人 中林孝子 さん
「4~5人来たから。全部、道具を持って来られて、バケツやら調査するものを持って来られたからね」
― 急に?
「はい。何も話もなくして、いきなり来られたから、『即答できない』と言いましたら、怒ったような状態で帰られたんですよ」

この家に上水道はひかれていないため、飲食用も含めて水は全て、井戸からくみ上げた地下水を利用しています。中林さんに限らず、豊かな水源のあるこの地域では、井戸水を利用する人が少なくありません。

原告の1人 中林孝子 さん
「ここは(集落まで)離れとるし、おじいちゃん・おばあちゃんが、ものすごくこのいなかの水はきれいな、いうて、それをずっと飲んできとったんです。こういう状態になるとわたしもわからなくてね」

安定型といわれる産業廃棄物最終処分場を設置する場合、その申請のためには、「生活環境影響調査」という膨大な量の調査を実施する必要があり、地下水の利用状況も、その必須項目です。

判決文によりますと、5年前、処分場の設置申請をしたジェイ・エー・ビー協同組合(JAB)は、処分場から比較的距離のある18か所の井戸の調査を実施する一方、中林さんなど、より処分場に近い4つの井戸の存在を無視してきました。

原告団 山内静代 共同代表
「不思議に思ったのが、どうして直下を調べないで、こんな外れたところを調べているのかなと。おかしいんじゃないですか?ということを、意見書に書きました」

これらの井戸の存在については、設置許可の下りる前に住民らが指摘しただけでなく、有識者会議において、地下水の専門家からも何度も質されています。

しかし、JABは「井戸の使用がない」や「井戸水の採取を拒否された」などと、事実と異なる報告をしました。県は、それをうのみにして、現地で確認することなく、設置を許可したのです。

原告団 山内静代 共同代表
「わたしたちの命の水がそんなにもずさんな調査で、ここに建設が許可されたということにたいへん憤りを持っております」

長年、県の職員として土木工事の設置許可に携わってきた坪山さんも、この審査の工程を疑問視します。

元県職員 坪山和聖 さん
「図面なんか見ても、こんな地形でここだけしか井戸がないわけないし、現地に行こうかというふうになるわね? しかも住民が意見書で出したんだったら、それは一番現場を知っている人が言うんだから、行って、その人に聞くなりできるわけですよ」

さらにJABは、水質の検査においても本来、水を採取すべき場所から700m下流にずらした地点で調査したり、農業用水として利用される場所で調査しなかったりと、環境省の指針に沿った調査を実施しませんでした。

本来 調査すべきポイントから700m下流で調査… なぜ?

元県職員 坪山和聖 さん
「ここから水が竹之内さんの田んぼに入る。ここが取水口。ここが水を取る場所。水というのは、希釈されたらほとんど影響値が出なくなっちゃう。ここで一番影響を受けやすいから、ここで調べないと。この6番じゃ意味がない。それはこの地図を見たら、これだけたくさんの川が流れ込んだら、希釈されるってわかるでしょう? それがそれで通っちゃったんですよ。これはミスとしか…、過誤としかいいようがない」

田んぼの水を処分場からの排水口の20m下流から引いている竹之内さんは、子どもや孫の暮らしまで変わってしまうと、悔しさをにじませます。

原告の1人 竹之内昇 さん
「うちの子どもも、ここで孫を育てたいっていう。米作ったり、野菜作ったり。だけどそれが、かなわなくなってきたんかな?っていうようなことを薄々感じて、ちょっと考えようかなというようなことで」

元県職員 坪山和聖 さん
「ふつう河川保全条例では、『取水者の同意を取れ』と。それをパッと(業者が)なしとやっとる。それを(県が)OKしとる。ちゃんとせえという気持ちになりますね」

元県職員 坪山和聖 さん
「結局、この水っていうのは、沼田川に流れ、そして、それが水道水の処理センターの水になる、何万人の水になる。その水が汚染される恐ろしさが、担当者はなんでわからんのか?という気持ち」

影響を受けるのは市民の8割…「水」をめぐる問題

三原市内の水道水の多くは、薬品に頼らず、自然の力で浄化する「緩速ろ過方式」で処理されています。これは、もともとの原水がきれいな地域でのみ可能な方法です。

住民らは、水源地となるこの場所の水質は、井戸水で暮らす人に留まらず、三原・竹原市民の8割に影響するとして、5年前から署名活動などで処分場の建設反対を訴えて活動してきました。

しかし、3年前に処分場の建設は許可され、去年9月からは廃棄物の搬入が始まり、先月、県が実施した処分場の浸透水の水質検査では、法定値を超える水質汚染が判明しています。

原告の1人 竹之内昇 さん
「5年・10年後にああいうものを埋めるんだから、(水質汚染は)出るであろう、それは覚悟しておりました。だけど1年も経たない、9か月くらいで大量に泡が出て、また水が臭い。ショックでね。この先、どうなるんだろうと。30年間、ゴミ入れて、その先の水はもう想像がつかないね」

原告団 山内静代 共同代表
「先祖や先輩方が努力して、努力してこの水を守って、そのおかげがあるわけじゃないですか。だからわたしたちは、それを次の世代に引き継ぐ責任があると思うんですよね。日本の廃棄物処理の方法が埋めて土をかぶせればそれでいいという前近代的なもの。見えなければ、それでいいというのは、もうやめなければいけない」

原告らは、一刻も早い設置許可処分の取り消しを求めていて、県が控訴を断念するかどうかに注目が集まっています。控訴期限は、今月18日です。

産業廃棄物最終処分場は、北海道、愛知に続いて広島県(76か所)が全国第3位の多さです。

原告らは現在、県に対して許可処分の取り消しと、処分場の買い取りなどを求めて署名活動しています。

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