社説:個別避難計画 防災と福祉、連携深めて

 防災と福祉分野の連携の実効性を高めていくことが求められる。

 災害時に自力避難が難しい高齢者や障害者ら一人一人の避難手順をまとめて備える「個別避難計画」の作成が、全国の自治体で進んでいない。

 総務省消防庁と内閣府の調査によると、今年1月時点で全員分の作成が完了したのは159自治体と、全市区町村の9.1%にとどまる。京都府は2市町、滋賀県はゼロだ。

 策定中の自治体は全国の65.7%。国は2025年度ごろまでの完了を目標とするが、1人分も作っていないのが25.2%で、京都は5市町、滋賀は3市町ある。

 今年も豪雨災害が相次いでいる。人命を守るため、被災リスクや生活状況などの緊急度を踏まえながら作成を急ぐ必要がある。

 個別避難計画は、台風や豪雨で多くの高齢者が犠牲となったことから、21年5月に施行された改正災害対策基本法で、自治体の努力義務となった。

 自治体は要支援者の同意を得て自治会や福祉関係者らと調整し、避難所や自宅からの経路、避難支援者を記載する。

 進まない原因の一つは、支援者の確保が困難という点だ。地域の民生委員や町内会の防災担当が担うケースが多く、避難誘導などの負担が重いと感じるのは無理あるまい。義務や責任を押し付けるのでなく、安否確認など可能な範囲の協力といった柔軟な対応やバックアップ態勢が必要だろう。

 規模が大きい自治体は対象者も多い。名簿を毎年更新する必要もあり、調整の人材確保が重要となっている。

 先進事例では、ケアマネジャーや相談支援専門員ら福祉の専門職が参加すると要支援者の安心感が高まり、円滑に進みやすいとの報告がある。

 計画作りに福祉の専門職が参加する自治体は3割を下回る。縦割りになりがちな防災と福祉の連携をより進めていくべきだ。

 地域防災の人づくりも大切だ。担い手となる「防災士」登録者数が京都府は約2200人と人口当たり比率で全国最少だ。約3100人の滋賀県よりも大幅に少ない。積極的に養成に取り組みたい。

 計画を踏まえた避難訓練こそ、実効性を高める上で重要だ。繰り返し問題点を洗い出し、見直すことで実際に役立つものになる。

 平常時のつながりは災害時でも生かされる。住民の顔が見える関係づくりも忘れてはなるまい。

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