「連れ戻されて袋叩きに…」暴力団の呪縛 逃げるために選んだ「逮捕」 塀の中で学び直しにかける元構成員

「勉強は嫌いなんですけど、やっぱり理解して資格を取りたいなと思います」―。広島市の広島刑務所で机に向かっているのは、暴力団の元構成員、A受刑者です。構成員だった期間は、6年間だといいます。

広島刑務所では3月、受刑者が服役しながら国家資格を含む6つの資格取得を目指すコースが立ち上げられました。背景にあるのは出所後の再犯防止です。

A受刑者(暴力団の元構成員)
「暴力団を抜けるにあたっては金を納めたり、袋叩きにされたり。いろんな資格があるので、ヤクザの方から一切追って来ないようなところへ、離れて仕事をしようかなと思います」

資格をとって暴力団から離れた世界へ…。「学び直し」にかける受刑者たちに聞きました。

広島市にある広島刑務所。7月10日現在で約560人の受刑者が収容されています。執行猶予期間中の覚せい剤取締法違反の罪で2年8か月の懲役刑に服しているA受刑者。暴力団の元構成員です。

A受刑者(30代) 暴力団の元構成員
― どのくらいの期間、暴力団に入っていた?
「6年ぐらいです。やっていたのは、外国人に金を貸したり、詐欺とか薬物とか。そういったものの上には暴力団がいます。大麻と覚醒剤とMDMAとかそういった薬物ですね」

関東地方の暴力団で構成員を続けながらも、縁を切りたい思いもあったといいます。

覚醒剤・詐欺に強制性交等… それぞれの罪と資格取得の勉強に向き合う受刑者たち

関東地方で暴力団の構成員をしていたA受刑者。縁を切りたいと思って離れた場所に行ったといいますが…。

A受刑者(30代) 暴力団の元構成員
「親も年なので、自分も真面目にならなくちゃなと思っていました。自分は6年間いたけど、その間の3年くらいは、暴力団をやめるとは一切言わずに、ばっくれていて、全然違うところに行っていた。だけど、たまたま6年目に見つかって連れ戻されました。戻されたときに、暴力を振るわれたり、いろいろ言われたので、これはもう、やっていられないなと思いました」

A受刑者は2023年7月、「職業訓練コース」に籍を置いています。全国の刑務所などには受刑者の出所後の就労を支援するために、技術を学ぶコースがあります。国の調査によりますと、出所後に再び刑事施設に戻った受刑者のうち、再犯をしたときに無職だった割合は約7割。受刑者が出所後に仕事を持てることが、大きな課題になっています。

そこで23年3月、広島刑務所で始まったのが、1年間、服役しながら複数の資格取得を目指せる職業訓練です。従来のショベルカーやフォークリフトの免許取得に加えて、消防設備士や電気工事士など4つの国家資格の取得も目指すことができます。県外の施設からも受講を希望する受刑者を募り、30代から50代までの9人が「学び直し」に取り組んでいます。

B受刑者(50) 詐欺罪で懲役2年8か月
「今回、4回目の刑務所生活で、これは言い訳ですけどチャンスがなかったってわけではなくて、やればできたはずなのにしていなかった。ここで努力をして、本当に資格を取れることを目標にして、やらせていただければと思っています」

C受刑者(46) 強制性交等罪で懲役3年6か月
「他人を傷つけるという解決方法には絶対に至ってはいけないと思います。『認知』と教わったが、考え方を変えていきたいと思っています。自分の勉強のために時間を使わせていただいて、しかも、それを公費を使ってさせていただけるという環境には本当にありがたい」

国家資格の授業では、週に1度、専門学校などの外部の講師が指導にあたります。

職業訓練コースの外部講師
「犯罪したことについては、人間の弱い所が出るのだと思います。犯罪をしたのであれば、それなりの罰は受けないといけないのだろうと思います。受刑者たちは、割と積極的なので過去にも犯罪あったのかもしれませんけど、『何をしたのか?』と思うぐらいに、真面目です」

それでも暴力団を抜けるのは簡単ではありません。

「暴力団は簡単には抜けられない」抜けても仕事先で車で追跡… 選んだ ”逮捕”

A受刑者は、数年前に暴力団の構成員をやめました。ただ、厳しい現実に直面することになります。

A受刑者 暴力団の元構成員
「暴力団は仲間という結束力が強くて、簡単には抜けられない。抜けるにあたっては金を納めたり、袋(叩き)にされたりします。大勢で、集団で…」

― それを経ても抜けられない人もいる?
「中にはいます」

暴力団を抜けた後も呪縛は消えませんでした。地元とは離れたところで仕事をしていたときも、2台ほどの車に長距離を追跡されたといいます。逃げきれないと思ったA受刑者は「覚せい剤をやった」と警察署に自首し、逮捕されました。

地元に戻ると、また暴力団に接触される恐れがあるため、出所後はまったく違った環境で仕事をする決意です。

A受刑者 暴力団の元構成員
― 戻ると危険?
「危険ですね。何があるか分からないので…」

― 罪を犯したことへの後悔は?
「後悔は、心の中で思っているのは二度と来たくない刑務所に来て、本当に嫌だなと思いました。仕事もきついですし、確かにお金も少しはもらえますけど、金額も全然少ないです。生活にも自由はないですし、親にも迷惑をかけたなと思います。職業訓練コースにはいろんな資格があるので、(資格を取って)ヤクザの方から一切追って来ないようなところへ、離れて仕事をしようかなと思います」

再犯防止推進白書によると、1年のうちに刑務所などに入所する受刑者の数は、2017年には1万9336人でしたが、2021年には1万6152人となり、減少傾向です。ただ、再入所、つまり刑務所に戻って来た人の割合は約6割です。この割合も2017年の59.4%から2021年の57%にやや低下しているものの、依然、高い水準が続いているとして、国は再犯防止のための取り組みを進めています。

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