「最高齢ジャズバンド」、90歳目前でも尽きぬ情熱 神戸で巡り合った元メンバー、誓い合う生涯現役

思い出の写真やCDを前に取材に応じた大塚善章さん(右)。宮本直介さんは演奏の仕草を交えながら語った=西宮市内

 関西ジャズ界を代表するピアニスト大塚善章(ぜんしょう)さん(89)=大阪市中央区=とベーシストの宮本直介さん(86)=兵庫県西宮市=は、若き日に神戸で出会い、腕を磨いた。世界最高齢のバンドとしてギネス世界記録に認定された「ゴールデン・シニア・トリオ」でも活躍。生涯現役を誓う2人に愛する音楽への思いを聞いた。(聞き手・小林伸哉)

■ピアニスト・大塚善章さん「神戸のファンは粋」

 戦後のジャズブームに沸く1950年代、神戸・三宮でライブ演奏を聞かせるジャズ喫茶「コペン」で巡り会った。

 宮本「僕は関西学院大学に通っていて、学生バンドとして前座に出ていた。そのころ、大塚はもうプロで、憧れの的だった」

 大塚「宮本たちとは4人組の『松下健一とジャイアンツ』を結成し、コペンを拠点に演奏した。僕が大阪に帰った後も、宮本は西宮に住んでて終電が遅いから、リーダーの松下さんにみっちり仕込まれてた」

 宮本「コペンで東京から来た売れっ子のバンドの音をたくさん聞いて、勉強するチャンスに恵まれたからこそ、ドラマーのジョージ川口さんに誘われて上京できた」

 ビブラフォン奏者鍋島直昶(なおてる)(1926~2021年、94歳で死去)との3人組「ゴールデン・シニア・トリオ」では、円熟した演奏を披露した。

 大塚「トリオ結成は、ある神戸の方から『3人で仕事してくれへんか』と声をかけられたのがきっかけ。神戸のファンはジャズに詳しくて、やっぱり粋やねん」

 宮本「ドラムがない、ピアノとビブラフォンとウッドベースという変則的な編成のバンドなのに。『よほど玄人のファンやな』と思うたよ」

 大塚「骨となるリズムは宮本、メロディーは皮膚で鍋島さん。スピード感があってドライブする。ハーモニーが肉で僕。どれが欠けてもだめ」

 宮本「鍋島さんが控室でしてくれる思い出話が面白かった。仙台の米軍キャンプでジャズを習った人だから。プレーはすごくて、スローなバラードが抜群やったね」

 1995年1月17日の阪神・淡路大震災では西宮市にあった鍋島の自宅が全壊。宮本は同年3月、母校の関西学院大学で鎮魂のチャリティーコンサートを開き、その後もメモリアルコンサートとして続いている。

 宮本「震災後に(長年親交があるサックス奏者の)渡辺貞夫から電話で『直介、手伝うことあるか』って。僕は『あるがな、おおありやがな。すぐ来てちょうだいな』と。関学の講堂には聴衆が2千人ぐらい集まり、めちゃくちゃ喜んでた」

 大塚「僕は神戸市長田区の小学校などを巡り、演奏した。音出していいのか、と迷いながら弾いて、涙が出ましたね。ふさぎ込んでいるとき、音楽を聞けば、内臓から活気も出て、すごく力がでてくる」

■ベーシスト・宮本直介さん 「ごんたなジャズメン」

 2人のジャズ談議は尽きず、今年、プロのジャズ演奏100周年を迎えた神戸や関西のジャズを盛り上げたい思いは強い。

 宮本「ミュージシャンは、自分から売り込んでいかなあかん。昔みたいに『ごんた』なジャズメンがおらへん。僕だけや」

 大塚「自分も商品やから、いつもおしゃれしないと。積極的にジャズをサポートするスポンサーもたくさん出てほしい。神戸の企業も協力してほしい」

 宮本「神戸は『ジャズの街や』って自負があるでしょ。トランペッターの広瀬未来(みき)を筆頭に、若い有望な演奏者が出てきている」

 大塚「関西では若手のいいベーシスト(佐々木善暁や光岡尚紀)が出てきた。学生には、自分の基礎を作るため、とことん思う通りにやる時間を大事にしてほしい」

 大塚「僕はブルージーなジャズを追い求めてきたけど、極めるなんてできない。死ぬときに『ここまでやったな』と思わんとしゃあない」

 宮本「やっぱり音楽は生きがい。僕はベース弾いとったら、それで幸せです」

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 2人は23日午後1~6時、西宮市甲子園高潮町のホテルヒューイット甲子園で開催される「サマータイム・ジャズ・パーティー」(関西ジャズ協会主催)で、アイルランド民謡「ダニー・ボーイ」を演奏する。なにわジャズ大賞の受賞記念ライブ、協会所属ミュージシャンの演奏も。前売り4千円、当日4500円(いずれもワンドリンクとおつまみ付き)。同協会TEL06.6442.0370=敬称略=

【ゴールデン・シニア・トリオ】鍋島直昶、大塚善章、宮本直介が2008年の敬老の日に演奏し結成。5年間20回以上の演奏歴などから、2015年7月、平均年齢83歳19日で世界最高齢バンドとしてギネス・ワールド・レコーズ社に認定された。19年10月の解散コンサート時の平均年齢87歳32日も追加認定された。

【おおつか・ぜんしょう】1934年、大阪市生まれ。関西大学在学中からジャズピアニストとなり、59年に「古谷充(たかし)とザ・フレッシュメン」を結成。作編曲でも活躍し、故郷大阪をテーマにしたコンチェルト「上町台地」シリーズをライフワークとする。2003年から関西ジャズ協会会長。

【みやもと・なおすけ】1936年、西宮市生まれ。関西学院大学を卒業後、ジョージ川口とビッグフォー・プラスワンに抜擢されて上京。関西に戻りベーシストをしながら、ミュージシャンの営業を担う会社も運営。西宮などでジャズイベントも数多くプロデュース。関西ジャズ協会元副会長。

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