人気TikTokerは農家のおばあちゃん 栃木のマサ婆ちゃん 自然体のやりとり、流行と奇跡のコラボ

 宇都宮の農家のおばあちゃんが動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」で人気を集めている。

 はやりの食べ物やコンビニスイーツをふっくらした手で持ち「なんだんべこれ?」と首をかしげる。「サクッ」と一口食べるとゆっくりとうなずきながら「けんちゃん、おいしいわ」。親しみを感じる栃木弁とおいしそうに食べるその姿に心が温まる。

 「栃木のマサ婆ちゃん」こと若色マサ江(わかいろまさえ)さん(80)を孫の賢太(けんた)さん(31)が撮影している。動画の投稿を始めたきっかけは、賢太さんが自身のYouTubeアカウントへ、田植え作業中に隠れてパンをつまみ食いするマサ婆ちゃんの動画を載せたこと。想像以上の反響を呼び、現在は主に賢太さんが買ってきた食べ物をマサ婆ちゃんが初めて食べる様子を撮影し、投稿している。

 最初はカメラを向けられることを嫌がったマサ婆ちゃん。今では自ら企画を考えたり、賢太さんが投稿を怠ると催促したりするほど積極的になった。若者に負けじと自前でiPhone(アイフォーン)を持ち、インスタグラムやTikTokを見ることも楽しむ。自分の動画を見て「こんなこと言ってたんけ」と笑ったり、音声アシスト機能「Siri」とはけんかしたり。すっかりデジタルツールとも“仲良し”だ。

 動画の2人のやりとりは裏表のない自然体そのもの。それもそのはず。賢太さんは小学生のころから、実家から100メートルほど離れたマサ婆ちゃんの家で寝泊まりするようになった「ばあちゃんっこ」だった。

 時には「こりゃだめだわ」「変な色してるわ」なんて容赦ない食レポもするマサ婆ちゃん。その毒舌に、賢太さんはヒヤヒヤすることもあるという。「でも」賢太さんは続けた。「それが刺さる人には刺さるのかも」

 TikTokのフォロワーは11.1万人(7月14日現在)で、18~24歳が43%と若い世代が多い。一方、55歳以上も8%を占め、視聴者層は幅広い。野菜の収穫動画やダンス動画も投稿しており、たくあんを漬ける動画は540万回以上再生されバズった。

 賢太さんはマサ婆ちゃんと作り上げるTikTokアカウントについて「“奇跡のアカウント”なのかもしれない」と感じている。マサ婆ちゃんは食べることが好きで80歳になっても歯が丈夫。撮影は、そんな「田舎の農家のおばあちゃん」と、普段は交わらなさそうな「流行の食べ物」や「SNS」とをつなげた。そこから生まれた意外性の高いコンテンツは、まさにさまざまな要因が重なった“奇跡”でバズった。

 投稿のコメント欄は「かわいい」「長生きしてください」など全国からの温かい言葉であふれる。寄せられたコメントを見るのがマサ婆ちゃんの生きがいの一つにもなっている。「こんな田舎のばあちゃんの動画を見てくれて…。心を打たれます」と目尻を下げた。

 2人のこれからの目標は栃木県の良さを広め、生まれ育った地に恩返しすること。知れば知るほど魅力が増す80歳のインフルエンサー。今後も目が離せない。

「栃木のマサ婆ちゃん」こと若色マサ江さん(右)と孫の賢太さん

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