「がんばれるタイミングは必ず来る」再び社会とつながり自立へ “ひきこもり” を支援

およそ3万3600人―。社会とつながらずに自宅にこもる広島県内のひきこもりの推計値です。ひきこもりの状態が長引き、若い世代だけでなく、中高年や女性のひきこもりも増えているといわれます。こうした人たちが、再び自立して生活できるよう支援する男性を取材しました。

杉野治彦 さん。ひきこもりの人たちを支援する「青少年ワークサポートセンター広島」の代表です。

広島市内や廿日市市に施設を持つ通称「わくサポ」。ひきこもりを経験した10代から60代までのおよそ130人が利用しています。

青少年ワークサポートセンター広島 杉野治彦 代表理事
「(ひきこもるのは)人と接していくことに対する不安や、恐怖に近い思いがあって、自分ひとりの力では踏み出せずに、結果的に家の中にとどまってしまっている」

広島大学 教育学部で障害児教育を学んだ杉野さん。「わくサポ」を立ち上げたのは11年前です。

スタッフは、社会福祉士や臨床心理士などおよそ50人。再び、社会とつながり、自立できるよう、料理や運動などの「生活訓練」から始め、最終的には就職を目指して、作業や職場実習などの「就労支援」を行います。

今はわくサポが経営するパンの専門店で働く30代の男性。高校に進学してまもなく不登校になり、そのまま15年間、ひきこもりました。

15年ひきこもり経験(30代)
「自分の場合、何かきっかけがあったということではなくて、まあ学校、雰囲気ですかね、そういうのがちょっとなじめなくて」

― いじめは?
「そういうのはないです。自分で動き出すタイプ、自発的に何か行動するというのがなくて、受け身でいたら、なんかずるずる15年。そういう感じですかね」

家族以外と会話をせず、買い物や散髪にも行かず。自宅でネットやテレビを見て過ごしました。母親が「わくサポ」に相談したことで杉野さんとつながりました。

15年ひきこもり経験(30代)
「自分なんかは、外部との関わりが全くなかったので、15年という長い期間、ひきこもることになったと思う。(今、ひきこもっている人は)何かしら外とのつながり、自分からというのは難しいと思うけど、何かしら見つけてほしいなとは思いますね」

10年ひきこもり、家族の支えで踏み出せた 結婚も あきらめないで

社会とつながらず、長期にわたって家庭にこもる「ひきこもり」。国は、全国に146万人いると推計しています。人間関係や就職・受験などきっかけはさまざま。最近は、80代の親が50代のひきこもりの子どもの生活を支える「8050問題」も深刻です。

青少年ワークサポートセンター広島 杉野治彦 代表理事
「(ひきこもりが)長期化していくと、ご本人の体調や状態もどんどん悪くなり、悪循環に陥ってしまって、気づいたら20年・30年たったという人もいる」

自宅から出られない人には、訪問支援もしています。

青少年ワークサポートセンター広島 杉野治彦 代表理事
「今からですね、訪問にいく彼のところに差し入れです。ふだん、テレビばっかり見てらっしゃるので」

訪ねたのは30年間、ひきこもりを続ける50代の息子と、80代の父親。テレビ取材はできませんでしたが、杉野さんはこうした「8050世帯」は孤立する場合が多く、親が支えられなくなって初めて明らかになるケースが増えているといいます。

青少年ワークサポートセンター広島 杉野治彦 代表理事
「ご両親が高齢に伴って介護が必要になってきて、介護スタッフが自宅でいろんなサービスするにあたって、いや実は息子さんがいらっしゃったんです、ひきこもっていらっしゃったというケースが最近、増えています」

30代から10年近くひきこもったこの女性は、家族の支えで踏み出せたといいます。

10年ひきこもり経験(50代)
「(母の勧めで)スポーツクラブに通うようになって、生活費稼いで自立しないといけないなと思い始めたんですよね。ちょっとおしゃれもしてみたいなと。ものすごく家族には迷惑かけたなと思って。特に母には。家族の支えがあったからこそだなと今も思う」

母親とともに「わくサポ」を訪れ、今は再就職に向けた訓練を続けています。ここで出会った、同じく10年間ひきこもっていたという男性と結婚もしました。

杉野さんは、ひきこもりの人たちを理解してもらおうと月に1度、トークイベントを開いています。これまで1000人あまりの相談を受けてきた経験から、あきらめなければ、その人なりの解決策は必ず見つかると訴えます。

青少年ワークサポートセンター広島 杉野治彦 代表理事
「(ひきこもりの人は)本当はもっと違う形で、世の中でがんばりたいはずなのに、そのやり方が分からないだけなんだなって。そういうふうにちょっと思えるだけでも、その子に対する声のかけ方だったり、かける言葉の中身は絶対に変わってくるはずなんですよ。もしかしたら、ぼくもわたしもがんばれるかもしれんというタイミングが、それを続けていたら必ず来るんですよ」

社会から気づかれず、家の中だけで生活するひきこもりの人たち。本人とその家族は外部からの支援を必要としています。

※「わくサポ広島トークイベント」は7月17日(月・祝)午後1時半から、広島市南区の広島市総合福祉センターで開かれます。無料で個別相談も行うということです。

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