話題のエッセーを発表、ふかわりょうさんインタビュー「こんなやばいやつがいたと感じてもらえたら」

東京都内(撮影・堀内達成)

 エッセー集のタイトルや内容にひかれ、いつか話を聞きたいと思っていた。お笑い芸人のふかわりょうさん(48)。「ひとりで生きると決めたんだ」(新潮社)、「世の中と足並みがそろわない」(同)では、日常で感じる見過ごせないことや世間との隔たりをつづっている。春には、岐阜への旅行記「スマホを置いて旅したら」(大和書房)を出版した。読み込んだ3冊を手に、いざ取材を始めると「あれ、どうしよう、会話がなかなかかみ合わない」…。私の質問が悪いのか。それでも知りたい、著書に込めた思いを-。(末永陽子)

 -近年エッセーの話題作を次々と発表しています。書くきっかけは?

 「出版社の方から書きませんか、と言われて…」

 -「世の中と足並みがそろわない」のテーマは、ご自身で決められたんですか。

 「何を書こうかなと思った時に、胸の奥底に沈殿するよどみのようなものの存在を自覚したんですね。これをちょっと出してみようかなって。スプーンですくってお湯で溶いたような感じ。すくってみて(自分の中に)こういうのがあったんだな、と改めて分かった。時間がたってしまっているので、細かいことは覚えていないんですけど」

 -新作「スマホを置いて旅したら」のテーマは、スマホ無しでの岐阜旅行ですね。

 「以前のアナログ時代が良かったということが言いたいのではなくって。これからの豊かさが旅の中に潜んでいるのではないか、そんな淡い期待を抱いて出発しました。旅を終えて、確信に近いものが得られたと思っています。それぞれが感じる豊かさは千差万別で、スマホを悪者にするつもりもありません。あくまで私の場合は、こういうものに出合えましたとつづりました」

 「スマホはあくまでツールなので、使う側のさじ加減が大事じゃないですか。スマホを持たないことでいろいろと思いを巡らせたり、ぼーっとする時間があったり。出会った人や飛び込んでくる情報、遭遇するものの吸収率というのか、それが上がる感じでした。この本は、読んだ人によって、内容の染み方がさまざまだと思います」

 -旅先を岐阜にしたのは?

 「複合的な要素が同時に結集していったところはあるんですけど、一つが『水琴窟』。興味があったので、大きい要素でした」

 -お笑い芸人にテレビのコメンテーター、DJなど活動は多岐にわたります。エッセーを書く理由は何ですか。

 「皆さんが洋服やバッグを選ぶような感覚です。このジャケットを羽織りたい、この髪形にしたいというのと同じように、この言葉を使いたい、この言葉に囲まれたい、と。実際、髪形や洋服には無頓着なんですけど。例えば、口にした言葉がすべて可視化されるとするじゃないですか。その人にまとわりついているとする。汚い言葉ばかり使っていると嫌だな、と。それと同じですよね。言葉がファッションなんですって言ってしまえば楽なんですけど、それって分かっているようで分かっていない人が多いので。あえてそうは言いたくないんです」

 「僕はエッセイストだとは思っていないし、いろんな肩書があるとも思っていません。最初に話した、心の奥底に沈殿するものを作って、お湯で溶かして出す作業が文章になる場合も、楽曲になる場合もある。20代からメールマガジンとかで短いコラムのようなものを書いてきて、自分の中で筋トレを続けてきたイメージがあるんですね。われわれは言葉で勝負するわけです。テレビは瞬発力だったり、ラジオは組み立てる力だったり、それぞれに掛け合わせは必要なんですけど。言葉と感性を僕はずっと大切にしてきました」

 -文章を書く魅力は?

 「誰もが動画を編集したり色を加えたりできる時代です。その中で、文章は文字だけで世界を描写したり構築したり、鉛筆一本で戦う。年を得るごとに強く魅力を感じるようにはなりました」

 -小説とか新しいジャンルへの挑戦は考えていますか。

 「そういう意識はないですね。お話を頂けたら、そのときの状況で判断するかもしれません。普段どういうことを考えているとか、どういう言葉を用いているかが5年後、10年後の自分をつくると思っていて。そこに、こう何ていうんだろう、重きを置いて生活しているんです。それが僕の一番核にあるところ。テレビやラジオ、エッセーの依頼とか、それぞれ求められたところで働きますが、核にあるのは生き方です。今考えていること、口にしていること、そういったものが未来をつくるという意識で歩んでいるだけで」

 -エッセーを読むと日々、細かいところが気になるようですね。

 「自分では偏屈だとも細かいとも思っていない。昔から他の人が、よくここで足を止めずにいられるな、と思うことが多いんです。みんなが気にならないことが気になってしまう。エッセーにも書きましたけど、人付き合いでも一定の距離を取っています。いろんなことが気になって、話が合う人が少ない(笑)」

 -ふかわさんのそういう繊細な部分に共感し、救われる人もいる気がします。著書で自分をさらけ出すのは怖くないですか。

 「自分の本を多くの人に読んでもらえるのは単純にうれしいです。でも救いを求めているような、そういう人たちの心に寄り添おうとか一切なくて。好かれるとか、嫌われるとかも意識していません。ただ、読んだ人が『こんなやばいやつがいた』と感じて安心してもらえたら、と。不特定多数の人に、こういう考えもあるよ、と配布しているだけです」

 「今は『共感』に価値が置かれていることに違和感を覚えます。『共感できる=正義』みたいな。僕は共感を求めて書いているわけではない。いろんな考え方がある世界がいいと思っているので。いいとか悪いとか、単純な二元論で割り切れない。テレビやラジオと違い、書籍のフィールドではもっと曖昧な部分や、少し不道徳な部分があってもいいと考えています」

 -今日は楽しかったです。ありがとうございました。

 「後半にようやく取材っぽい話ができた気がします。この数十分の間にお互いの距離がどんどん変わって…。だから人間関係って面白い。リモートだと、こうはいかなかったですよね。僕がやや不機嫌なまま終わっていたかもしれない(笑)。また5年後ぐらいに会いに来てください」

■ひとこと

 本を読んで「へんこ(関西弁で偏屈者)な人」と思った。会ってみると、やっぱり「へんこ」。でも、うそのない言葉、ぶれない性格、垣間見えた気遣い。やっぱり好きだな。ふかわさん、また5年後に!

【ふかわ・りょう】1974年神奈川県生まれ。慶応義塾大卒。94年、お笑い芸人としてデビュー。現在は情報番組でMCを務めるほか、「ROCKETMAN」としてミュージシャン、DJなどでも活躍する。

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