「AI導入され私は能無しに」…勉強する意味を失った芸術大学生の苦悩 崖で見つけた2人の女性の告白【東尋坊の現場から】

福井県坂井市にある東尋坊

 福井県坂井市にある観光名所・東尋坊の岩場を毎日のように自殺企図者がいないかパトロールしていますが、人工知能と言われているAIに人生が狂わされてしまったという、これまでにはない恐ろしい事案が二件ありました。

 今年6月19日の午後6時ごろのことです。東海地方にある某芸術学科の大学1年生で外国籍である10代後半の女性が東尋坊の岩場最先端に座り込み考え事をしていたのです。そこは場所が場所だけに不審に思い声を掛けたところ、急に泣き出したため抱きかかえて相談所まで来てもらいました。

 そして話を聴いたところ、こう打ち明けてくれました。「高校時代にイラストの絵を描いて全国表彰を受けたことがあり、高校時代の先生に推奨されて芸術大学に入学しました。しかし大学生活を送って3カ月、授業にAIが導入されており、そのすごさと恐ろしさを体験しました」。

 それは、描こうと思ったテーマを入力するだけで簡単に素晴らしい絵が描かれてしまうのと、授業の研究テーマについても、本来なら数時間、数日の研究が必要なのにAIを使えば僅か10分程度で出来上がってしまったとのことです。また授業内容は針金を使った造形物を創るものばかりで、面白味を感じないと感じていたそうです。

 家が貧困であるため800万円の奨学金を借金することになり、母親に「勉強がついて行けないから退学したい…。」と言っていたのですが、大学だけは出なさいと強く言われていたのです。現在大学生の女性ですが、「AIがあるために好きな絵も描けず、大きな借金が出来てしまったことから将来が見えなくなり自殺しに来ました…。」と言うのです。父親が身体に障害があり、身動き出来ないため家まで送ってやって欲しいと言うため自家用車で家まで送り届けました。

 また、今年6月24日午後4時頃の事です。関東地方に住むという20代中ごろの女性から「今三国駅にいます。今日はパトロールしていますか…? 〇〇さんはいますか…? 死にに来てしまいました…。」と暗く低い声で相談所に電話が架かってきたのです。私たちは説得して約10分のところにある駅までスタッフが迎えに行き、相談所で話を聴きました。女性が言うには「私は現在うつ病や不安障害、パニック症、ADHD等の精神障害者であり、1日12錠ほどの精神薬を飲んでいます。自殺を考えるようになったのは、関西にある某芸大を卒業しましたが、その大学の授業にAIが導入されており、私が専攻していたマンガ、アニメ、ゲームなど全てがAIで制作してしまい本人の能力など発揮する場所がなかったのです」。

 また、卒論までが簡単にAIで書き上げてしまう世界であり、何のための大学か分からなくなってしまい、東尋坊まで訪れたのでした。ところで私は不良の学生であることから競馬や競艇に嵌ってしまいました。ある日、競馬で30万円もの大儲けをしたことからビギナーズ・ラックに陥り、2年前に消費者金融から200万円を借金してしまったため父親が尻拭いをしてくれました。しかし、父親から「今度、借金をしたら親子の縁を切る…。」とまで言われたのです。しかしギャンブルから逃げ出すことができず、現在また300万円の借金に膨れ上がってしまったのです。もう死ぬしかないと考え自殺をしに来てしまいました…。」と言うのです。

 この女性の父親は小金持ちとのことで、この女性の借金を伝えたところ簡単に「何とかします。」と言ってくれたことからシエルターに一泊させJR福井駅から帰ってもらいました。この女性が特に悔しがっていたのは大学時代の生活について語っていた言葉で、「AIが導入されていたことから能無しになり、私の夢までが壊されてしまった…。」この一言が今でも私の心に残っています。

⇒家出して遠い福井へ…断崖に座り込んだ中学2年の女の子 泣きながら携帯電話、所持金200円

 この二人の女生は、別々の芸術大学における芸術の世界を夢見て勉強していた若い娘さん達でしたが、AIの導入によって将来の夢と希望が滅多打ちにされてしまった事例だと思います。今後、AIによる被害者が増えるのではないかと危惧された出来事でもありました。

⇒東尋坊で活動する「心に響く文集・編集局」ってどんなグループ

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 福井県の東尋坊で自殺を図ろうとする人たちを少しでも救おうと活動するNPO法人「心に響く文集・編集局」(茂幸雄代表)によるコラムです。

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