茨城・笠間中の小沼さん 45歳、元営業マン教師奮闘 社会人経験、指導に

民間企業から転身し、教員生活を送る小沼一彦さん=笠間市笠間の市立笠間中

44歳でサラリーマンから教師の道へ進んだ男性がいる。自動車ディーラーの営業マンとして活躍した小沼一彦さん(45)。子ども好きという小沼さんは今年2年目の新米教諭だが、20年以上の営業経験で培った「人を大切にする心」を伝えようと、中学生と向かい合う日々を送っている。

茨城県笠間市立笠間中の教室で6月、生徒たちの机の間を歩きながら、歴史の授業を進める小沼さんの姿があった。生徒たちと声に出して教科書を読み、電子黒板を駆使して生徒たちと問答を続ける姿に、かつて営業マンだった面影はない。

生徒たちの評判も上々。授業を受けた岡本梁太さん(13)は「分かりやすく教えてくれる。小沼先生になら気軽に悩みも相談できる」と笑顔を見せた。

大学時代、最初は「軽い気持ちで」社会科の教員免許を取得したという。教育実習と並行して就職活動を進める中で、子どもたちを育てる教員と、顧客と信頼関係を築いて車を販売する営業職のどちらを選ぶか悩んだが、最終的にディーラーへの就職を決めた。

就職後は水戸や潮来、下妻など各市の販売店に配属され、営業の第一線で活躍。「顧客のライフスタイルに合う車を提供するのにやりがいを感じた」と振り返る。

店長職など順調にキャリアを積んでいたが、転機が訪れたのは、教員免許の更新時期を迎えた2021年。傍らにはすくすくと成長する娘2人の姿。今後の人生を考える中で、子どもが好きだったことを思い出し、一念発起して教員採用試験への挑戦を決めた。普段の仕事をこなしながら採用試験の勉強を続け、同年10月に合格通知を受け取った。

勤務先の学校では、ビジネスマナーや社会で求められる礼儀・作法を、折に触れて伝える。最も重視するのは22年に及ぶ営業経験に裏打ちされた「人を大切にする心」だ。

子どもたちの健全育成にマニュアルはなく、指導は全て手探り。それでも「生徒を独りにしない」と心に決め、ディーラー時代に学んだ「信用第一」の言葉を胸に、きょうも教壇に立つ。

県教委の調査によると、本年度採用教諭855人のうち、民間企業などの経験があるのは99人。内訳は小学校43人、中学校22人、高等学校17人、特別支援学校15人、養護と栄養のそれぞれ1人。県教委改革教育課は「社会人の経験を生かした授業が子どもたちにとってプラスになれば」としている。

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