よゐこ有野「いやらしいわぁって…」親への【終活】の切り出し方に四苦八苦

お笑い芸人・よゐこの有野晋哉さんが、毎月さまざまな専門家をゲストに迎えて、お金の知識を身に付けていく「お金の知りたいを解決!お金の学園〜学級委員・よゐこ有野晋哉〜」。2023年7月は社会保険労務士・ファイナンシャルプランナーの井戸美枝先生に、終活について伺いました。

今回は、「終活の切り出し方」について。スムーズに話を進めるには、どのように切り出すのがよいのでしょうか?


有野晋哉(以下、有野):やっぱり家族にも感謝の言葉を伝えなあかんよなぁ……。ゲームしたり趣味に没頭できるのも、理解ある奥さんや子どもがしっかりしてるからやし。言わんでも分かってくれてる、なんてのはこっちの勝手な考えってのも分かるんです、言葉で伝えるのが大事って言うのも。でも、なかなか面と向かって「ありがとう」って言われへんなぁ。

井戸美枝(以下、井戸):有野さん、また何かお悩みですか?

有野:あ、先生。実は先日、家族について聞かれる仕事があったんですけど、振り返ると奥さんとか子どもに感謝せなあかんなぁって改めて思ったんです。でも、なかなか言葉にできなくて困ってるんです。

井戸:夫婦や恋人あるあるですね。もちろん、家族に対して感謝の気持ちを持つのは素晴らしいですが、言葉にしないと相手に伝わらない。でも、どうしても恥ずかしさが先に立ってしまって、なかなか伝えづらいですよね。

有野:そうなんです、感謝の気持ちがあるのは本当なんですけど……「いつもゲームさせてくれてありがとう」って。

井戸:そこなんですか(笑)

有野:冗談ですよ(笑) 最近は娘も家事を手伝ってくれるし、恵まれてると思ってます。先生、本当にありがとうございます!

井戸:私に言ってどうするんですか(笑)

終活にデメリットなし!

井戸:さて、授業を始めましょう。ここまで、終活がなんで必要なのか、何をすべきかについてお話ししてきました。何か質問はありませんか?

有野:うちの母親に終活をしてもらうには、オカンとじっくり話し合わんとあかんと思ってるんです。オカンの資産の内容はもちろん、終活に必須な本人の意向とか、まったく知らんし。いまのオカンが住んでる家が、分譲ってことも知らんかったので(笑)

井戸:親のことを何も知らないという方は、割と多いんですよ。親との関係性は本当にご家庭ごとに違うと思うんですが、たとえば親が再婚していたりしていると、自分が知らない相続人がいたりして。

有野:親が亡くなって出てくる人ね。なんだかテレビドラマみたいやけど、実際にあるんや。先生とのやり取りでもちょいちょい出てきましたけど、オカンとはお金とか意向について、これまで話をしたことがなくて、本人にどう切り出せばいいのかわからないんですよ。まぁ、資産はそんなに持ってへんと思うんやけど。でも、知らん間に貯金しててマンション買う人やし、分からんなー。ほんまは株式投資も、僕より詳しくてやってるかもしれん。

井戸:有野さんのご両親くらいの世代だと、無駄遣いはせず、コツコツと貯金されている方が意外と多いんですよ。口では「資産? ないない」なんて言っていても、実際は結構な資産を持っていたりするんです(笑) それも、昔の人は銀行口座を1つにまとめず、あちこちに分散したり。それに、貯金だけではなくて、なくなってから借金が見つかるケースだって珍しくはありません。

有野:あ~、確かに! その可能性もありますね。先生の話を聞いて、オカンともちゃんと話をせんとあかんなとは思うようになったんですが、オカンにお金の話をしようとすると、どうしても「なんやこの子、いやらしいわぁ。まだ死なへんで! 今日もプール行くし、元気やで」みたいな感じになるんですよ(笑)

井戸:そうなんですよね。以前は、「子どもにお金の心配をさせてはいけない」という考えが根底にありました。そのため、自分の子どもとお金の話をするのを嫌がる方が多いと思います。私も、母に終活の話を持ち掛けると「財産を狙ってるん? いやらしい子やわ」なんて言われがちでした(笑) 関西ではよくあるやり取りかもしれません。

有野:関西あるあるですね(笑) だから、顔を見ながらそういう話をするのはなんとなくためらってしまうし、「メモしといて」ってお願いして、仮に書いてくれたとしても、そのメモを受け取ろうとすると「イヤや、やっぱり渡さへん!」ってなりそうで。

井戸:お金の話を含め、終活についての話題は、お互いにとって楽しいものでないことは事実です。ただ、きちんとやっておくほうが、その後の人生がラクになることは確かです。終活って、メリットはいろいろとあるんですが、デメリットはないんですよ。

有野:「終活にデメリットなし」か、名言いただきました!

「親への取材」で情報を拾い出す

井戸:コロナ禍だったこともあって、最近では自分の親と顔を合わせるケースが減っていると思います。そうなると、お盆や年末年始などの連休の際に、一気に物事を進めたくなりますよね。でも、久しぶりに会った息子から、いきなり終活や相続の話を切り出されても、身構えてしまうのは当然かもしれません。

有野:それで「ちょっと旅行行こうか、全部出すわ」って連れて行って、「この薬飲んでみ、身体にいいねんて」なんて小さい薬出したら、「絶対飲まへんで!」って言われるし、すぐお兄ちゃん呼ばれて「晋哉、何してんねん!」てボコられる。51歳でお兄ちゃんにボコられたくないです(笑)

井戸:なので、まずは「親に取材をしてみる」ところから始めるべきです。コロナ禍の間に何をしていたのか、何かしたいことはないのか。昔の思い出話などを持ち出して、少しずつ親の気持ちをほぐしてあげるのもいいかもしれません。さらに、身体の調子、持病、かかりつけの医者などを聞き出すことで、親との関係性を深めていくといいでしょう。

有野:なるほど、「親に取材する」か。先生、今回は名言が多いですね(笑)

井戸:親への取材の必要性は、私の著書でも書いていますし、名言でも何でもないです(笑) とにかく、いきなり核心に触れず、会話を続けることが大切ですね。世間話の中から、情報を拾っていくことです。たとえば、「誰々さんが倒れはって、いま入院してんねん」などという話があれば、「そういえばおかんが倒れた時は、お金とか問題ないん?」と切り出して見たり。いま親が困っていることを1つ1つ聞いていくのが有効ですね。

有野:そうですね。実家帰ったときに、「何の薬飲んでんの?」って聞いたらすごく細かく説明してくれましたわ。「いや、そんなに聞いてへんし」って言ってしまったけど、「大変やな。でも、よくなってるなら良かったわ。長生きしてもらわんと」とか、ちゃんと伝えるのが大事ですね。

井戸:そうやって外堀を埋めていって、本人の意向がなんとなくつかめてきたら、ようやく「終活」や「相続」を切り出してみるといいかもしれません。あとは、「自分も終活を始めている」ことをアピールするのも一手です。

有野:「いま終活がはやってんねん。俺もやろうと思ってるし、オカンも一緒にどう?」みたいな感じですかね。

井戸:親との関係性によって事情変わると思いますが、関西だと軽いノリで聞くと、軽いノリで返されるかもしれませんね(笑) 深刻になる必要はありませんが、真面目な姿勢を見せることも必要でしょう。

有野:真面目な姿勢か~、どうしてもふざけてしまいそうやなぁ(笑)

井戸:有野さんのケースでしたら「自分も50歳になって、老後のことを考え始めている。オトンの時は、オトンについてなんも知らなかったから、大変だったよね? 自分が倒れた時、奥さんや子どもに同じ苦労を味わって欲しくないし、終活を始めている。これは、親や夫としての責任だと思っている。オカンも一緒に考えてみない?」といったような感じが良さそうですね。

有野:おぉ~、今度は名言ならぬ名シナリオや! 親としての責任という言葉はいいですね、そう切り出されると嫌な気持ちにはならへんし、向き合わないとってなりますね。これが正解だったかぁ〜、いただきました(笑) 「僕なぁ、51歳になって、老後のことを考え始めているねんけどぉ。ほら、オトンの葬式の時、オカンも兄ちゃんもお姉ちゃんもオトンの好きだった曲もわからなくて……」アカン、にやけてしまう!

井戸:どのような切り出し方がベストなのかは、十人十色でしょう。ただ親や夫、あるいは妻としての責任を感じている姿勢をきちんと見せることで、親にも真剣に考えてもらえるはずです。

シングルの場合は「おひとりさま信託」の活用も一手

有野:少し気になったんですけど、もし夫や妻がおらず、自分1人だった場合、終活はどうなるんですか? 認知症になると、銀行口座とか契約関係の手続きができなくなるって話でしたし、終活どころじゃなくなる気もしますけど。

井戸:そうですね。配偶者や子どもがいない方も珍しくありませんし、その場合は自分1人でいろいろと準備しておく必要があります。

有野:奥さんや子どもがいれば「こうしてほしい」って伝えておいたり、メモを残したりしておけば安心やけど、そういう相手がいない場合、どうすればいいのか全然わからへん……僕がまだ独身やった場合か、松竹芸能の後輩か? クロちゃんか? 絶対散財されるやん、 アカン。なすなかにし! 「お墓にセンターマイク立てましょうよ」って、僕漫才師じゃないのにやられそう! 森脇健児さん! アカン、先輩や。う〜ん、メッチャ人を選ぶなぁ(笑) 結婚してて良かったな。

井戸:周囲に迷惑をかけるようなことは嫌、という方が多いと思います。自分1人の終活もやることは同じですが、死後の手続きがスムーズにいくように、「成年後見制度」を使って、誰かに「後見人」になってもらうといいでしょう。

有野:「後見人」って聞いたことある! でも、家族から頼まれるなら受け入れられるけど、自分の死んだ後の手続きを知り合いに任せるって、よっぽど仲良くないと気が引けてしまいそうです。任される方も、困りそうですね。

井戸:そういう場合は、行政書士などに依頼して「死後事務委任契約」を結ぶといいと思います。葬儀や埋葬をはじめ、死後の手続きを代行してくれる契約です。ただ、費用の相場などは事前によく調べておくべきですね。その上で、こちらの話を真摯に聞いてくれる人を選びたいところです。

有野:ビジネスとしてのほうが、確かに頼みやすいかもしれませんね。

井戸:もう1つ、おすすめしたいのが「おひとりさま信託」の活用です。

有野:おひとりさま神託……? なんですか、その神のお告げみたいなやつは。周りの人に「有野はそろそろHPが減って死にそうですよ」って友達に告げてくれるんですかね?

井戸:その「神託」ではなく、財産を信頼できる相手に託すほうの「信託」です(笑) 投資信託の信託ですね。

有野:そっちね(笑) そっちしかないですね。それで、その「おひとりさま信託」ってなんですか?

井戸:おひとりさま信託は、シングルの方の終活をサポートするサービスで、主に信託銀行がやっているサービスです。お葬式代やお墓の費用などを預けておくほか、死後の手続き、エンディングノートや遺言書の保管、家の片付け、公共料金の解約、残されたペットの世話など、死後に必要なさまざまな手続きや対応を代行してくれるんです。また、入院や介護、成年後見人の申請など、まだ存命している時のサービスも展開しているところもありますね。

有野:全部やってくれるじゃないですか、めっちゃ便利やん! そんなサービスがあるんですね。信託銀行が「おひとりさま信託」やってるという、夢で神託を蒙った、って言いたい! 違う。独身の方にも安心のサービスがあるって事ですね。でも無料でやってくれるんですか?

井戸:ただし、基本の申し込みに数百万円程度の資金が必要だったり、代行が必要なものが増えれば増えるほど費用が増えたりするなど、それなりに多くのお金が必要です。シングルで、どうしても終活を1人で完結させるのが難しい方は活用するのも一手でしょう。しかし、「終活」はお金やモノの整理だけではなく、「心の整理」も大事です。できれば、家族とコミュニケーションを取りながら、みんなで取り組んでほしいと思いますね。

有野:そんな素敵な話を聞くと、「自分が死んで、奥さんや娘たちにグラビア見られたくないから終活せなあかん!」なんていう考えが恥ずかしくなってきました……(笑)まずは帰って「ありがとう」を言葉で伝えて、終活の手伝いをしてもらおう。

次回(7月25日配信予定)は「相続と遺言」について聞いていきます。

有野晋哉
1972年2月25日生まれ。大阪府出身。テレビやラジオ、CM、雑誌の連載などマルチに活躍。コンビで公式YouTube「よゐこチャンネル」も開設しており、幅広い世代から支持を得ている。自身が50歳を迎えた2022年に、お金にまつわる知識の大切さに目覚め、日々勉強中。

井戸美枝
井戸美枝事務所代表。神戸生まれ、関西大学社会学部卒。1990年に社会保険労務士の資格を取得し、神戸市内に社会保険労務士事務所を設立。1993年にはAFPの資格を取得。1996年にはCFP認定者となり、社保労務士に加えてFP業務も展開する。生活に身近な経済問題や年金・社会保障問題を中心に、新聞や雑誌で連載を持つなど幅広く活躍。「難しいことでもわかりやすく」がモットー。著書に『親の終活 夫婦の老活 インフレに負けない「安心家計術」』(朝日新書)、『一般論はもういいので、私の老後のお金「答え」をください!増補改訂版』(日経BP)ほか多数

ライター:新井奈央

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