13万人の地元ドイツ大観衆を前に、6冠の“帝王”ヨッヘン・ハーンが最終ヒートを制覇/ETRC第4戦

 ヨーロッパの物流業界関係者やそのファミリーらが集結するシリーズ最大の“祭典”。2023年ETRCヨーロピアン・トラック・レーシング・チャンピオンシップ第4戦『ADAC トラック・グランプリ』が、ドイツのニュルブルクリンクで7月14~16日に開催され、変則3日間のタイムテーブルとなった週末でも、王者ノルベルト・キス(レベス・レーシング/マン)が圧巻の走りを披露した。

 そのキスが予選セッションで獲得可能なすべてのポールを奪取するという連続記録を更新し3勝を挙げるなか、選手権6冠の“帝王”ことヨッヘン・ハーン(チーム・ハーン・レーシング/イベコ)が一矢報いる走りで最終ヒートを制覇。母国ドイツの“聖地”に集った13万人の大観衆を前に、開幕レース1以来の今季2勝目を飾っている。

 大陸間物流網を担うすべての事業関係者が集うとも称されるドイツでの聖典は、今季も前夜祭や花火の打ち上げなど盛大な雰囲気で幕を開けるなか、レースウイークのパドックでは1台のトラックが注目を浴びた。

 2022年6月にFIA世界モータースポーツ評議会(WMSC)で技術規定が承認されていた電動車両、およびハイブリッド搭載車両の参戦に向けた取り組みとして、イタリアのイベコがチーム・ハーン・レーシングとのジョイントで開発した最新“eTruck”のプロトタイプが披露されたのだ。

「2022年最終戦の後、我々はトラックの設計をイチから始めたんだ」と語るのは、その開発初期段階からプロジェクトに参画する“帝王”ハーン。「だからその見た目以上に、車体は再設計され、シャシーやその下にあるテクノロジーも、もちろん新たに構築されている」

 そのローンチに同席したETRAマネージングディレクターのゲオルグ・フックスは、ようやく姿を現した新世代トラックに対し期待を寄せるとともに「まず、この『eTruckプロジェクト』に携わるヨッヘン(・ハーン)と彼のチーム、そしてパートナー全員がこの課題に成功したことを心から祝福する」と語った。

「なによりイベコはメーカーであると同時に、長年にわたり我々の大切なパートナーのひとつであり、輸送業界だけでなくモータースポーツにおいても、こうして持続可能性の変革を推進するという強い取り組みを見ることができて大変うれしく思っている」

 そのフックスは、今後もETRAとしてFIA国際自動車連盟などと協力し、合成燃料やハイブリッドの内燃機関、そして小口配送などに活路のある電気自動車の技術など、あらゆるエネルギー形態が同じグリッドで競争できるよう、業界の技術発展に対応するべく「先進的なアプローチを追求し続ける」と意気込む。

「我々は商用車業界の評判を積極的に形成し、持続可能な輸送手段としてのトラックという考えを人々の心に植え付ける、またとない機会を手にしている。新たな技術開発がモータースポーツの極限の条件下でも確実に機能することを実証できれば、日常の使用における新しい技術の理解と受け入れにも役に立つはずだ」

イタリアのIVECOがTeam Hahn Racingとのジョイントで開発した最新”eTruck”のプロトタイプが披露された
プロジェクトに参画する帝王”ヨッヘン・ハーン(Team Hahn Racing/IVECO/左)とETRAのゲオルグ・フックス(右からふたり目)
土曜午前開催となったレース2は、グリッド進行中に雨が落ち始め、前日とは打って変わってフルウエット勝負と化す

■ハーン親子が地元でダブルウイン達成

 こうして始まった週末は、金曜から計時予選とスーパーポール、そして決勝レース1を実施する変則スケジュールが採用されると、まずはハンガリー出身のチャンピオンが今季7度目のポールポジションを獲得。続くレース1でもスタート直後こそハーンにサイド・バイ・サイドを挑まれたが、すぐに持ち直して教科書通りの“ライト・トゥ・フラッグ”を達成する。

 明けた土曜午前開催となったレース2は、グリッド進行中に雨が落ち始め、前日とは打って変わってフルウエット勝負と化す。ペーストラック先導走行を開始して2周目のスタート以降、ライバルが続々とターン1の川でコントロールを失うなか、王者キスはスタート直後のスピード超過で10秒のペナルティを言い渡された上に、レース距離の75%を走行した9周終了時点で赤旗中断となったレースでも充分なマージンを築き、破竹の連勝を飾る結果となった。

 そのまま午後に向けて雨も上がり、ドライに転じた2回目の予選でもキスのスピードは衰えず。サッシャ・レンツ(SLトラックスポーツ30/マン)に約1秒の大差をつけてポールを得ると、現地17時55分スタートのレース3でも夕闇のなか3連勝を飾ってみせる。

 スタンドに詰め掛けたファンの多くが「今週末もチャンピオンのパーフェクトか……」と思い始めた日曜。公式発表で13万300人が来場したニュルでは、前日リバースグリッドが地元大観衆を沸かせる展開を演出する。

 先頭発進のジェイミー・アンダーソン(アンダーソン・レーシング/マン)に続き、2番手で出たアンドレ・クルシム(ドントタッチ・レーシング/イベコ)がスタートで失速。その背後で団子状態となったトレーラーヘッドの集団内では、アントニオ・アルバセテ(Tスポーツ・ベルナウ/マン)とシュティフィ・ハルム(チーム・シュバーベン・トラック/イベコ)が肉弾戦の末に接触。スペイン出身アルバセテのトラックは、このダメージで息絶えることに。

 ここから奮闘を見せたハルムは、背後から猛然と順位を上げてきたハーンとキスの2台を抑え込み、数周にわたって素晴らしいディフェンスを披露していく。しかしオープニングの接触で負ったダメージは彼女の側にも蓄積しており、ホームレースでの栄誉を目前に、6周目でリタイヤを喫することに。

 これで前が開けた2台は、首位を行くアンダーソンをあっさりと捕まえると、チャンピオン同士の意地を感じさせる6周の死闘を演じ、地元の“帝王”が現役王者の4連勝を阻止する開幕以来のトップチェッカーを達成。プロモーターズ・カップ登録となる息子のルーカス・ハーン(チーム・ハーン・レーシング/イベコ)も、ギアボックスに問題を抱えながら、総合優勝をさらった前年度を彷彿とさせるクラス優勝を果たしたことで、ハーン親子がホームの観衆による大歓声に包まれるエンディングとなった。

 依然としてチャンピオンシップのスタンディングでは王者キスが独壇場を続ける2023年のETRCシーズン。続く第5戦は、こちらもシリーズおなじみの地であるチェコ共和国のアウトドローモ・モストで、8月26~27日に争われる。

変則3日間のタイムテーブルとなった週末でも、王者ノルベルト・キス(Révész Racing/MAN)が圧巻の走りを披露する
予選セッションで獲得可能なすべてのポールを奪取するという連続記録を更新したキスが、週末3勝を挙げてみせた
地元での表彰台獲得も見えたシュティフィ・ハルム(Team Schwabentruck/IVECO)だったが、接触のダメージにより万事休す

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