長崎の死産児遺棄事件 有力な手掛かりなく3カ月 悩む女性、支えるには…出産支援や相談窓口も

長崎県の相談窓口「にんしんSOS」のチラシを持つ相談員=長崎市大黒町

 長崎県長崎市田中町の東部下水処理場で4月、死産児が見つかった事件から3カ月余り。県警は死体遺棄容疑で捜査中だが、身元などの特定につながる有力な手掛かりは得られていない。全国でも生まれて間もない乳児の遺棄、殺害が相次ぐ中、死産や出産を隠さざるを得ず、孤立する女性に社会はどう向き合うのか。県内の現状を追った。
 「赤ちゃんが流れてきた。息をしていない」。長崎署によると、4月1日昼ごろ、場外から下水が流れ込む流入口の網に引っかかっていた遺体を同処理場の職員が発見。司法解剖の結果、女の死産児で月齢5、6カ月程度だった。同署などは、周辺住民や県内全域の産婦人科に聞き込みなどを続けているが、遺体が流れ着いた経緯など不明だ。
 月齢5、6カ月の死産児だった点について、県内の産婦人科医の一人は首をひねる。安永産婦人科医院(諫早市)の宮下昌子理事長は、妊娠10カ月程度で陣痛があり出産するのが通常とし「どうしてこのような時期に生まれたのか非常に不思議」と話すとともに、産婦人科を受診していなかった可能性が高いケースと推測する。未受診や受診遅れは予期せぬ妊娠が多く、特に若い女性や経済的に困窮している人、未婚者の場合、周囲に相談できないまま受診できなかったり、経済的に受診できなかったりすることがあるという。
 母体保護法は身体的、経済的理由で妊娠の継続が母体の健康を著しく害する恐れがある際や暴行、脅迫を受けて妊娠した場合、妊娠22週未満の妊婦に対し、人工妊娠中絶を認めている。国内で妊娠初期の人工中絶は手術に限られていたが、厚生労働省は4月、経口中絶薬(飲む中絶薬)の製造販売を承認。妊娠9週までが対象で、人工中絶を希望する女性にとって選択肢が増えることで、心身共に負担が減る場合もあるとされている。
 一方、女性の身体と小さな命を守ろうと活動する「長崎いのちを大切にする会」(古賀義代表)は、妊娠や出産の不安を抱える妊婦の相談、出産支援の募金を続け、これまで73人の誕生に結び付けた。諫早、大村、佐世保各会と合わせると県内で計302人、全国では989人を救った。
 増本小夜子副代表は「一人の命を奪う中絶ではなく、妊娠に悩む女性を支え、産み育てやすい社会をつくる必要がある」と指摘。生みの親が育てられない子どもを家族に迎え育てる特別養子縁組を例に「(縁組が)もっと当たり前の世の中になってほしい」と言葉に力を込める。
 このほか、県は2020年6月末から「にんしんSOS」相談窓口を開設。予期せぬ妊娠や子どもの将来に関する相談を電話やメール、公式LINE(ライン)などで受け付けている。22年度の相談件数は延べ1620件(前年度比578件増)で、悩みを抱える女性たちを陰ながら支える。
 県こども家庭課の満江淳子参事は「(出産にあたり)どういう選択をするにしても、女性を孤立させない取り組み。一人で悩まず相談してほしい」としている。にんしんSOS相談窓口(電095.801.2443)。長崎いのちを大切にする会(電0120.46.0348)。


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