覚悟の左上手で正代を圧倒 朝乃山「自分の相撲を」

 手負いの元大関が意地を見せつけた。同じ時期に大関を張った正代との一番は、けがをしているはずの左上手が勝負を決めた。「星勘定は気にしていない。あと2番、来場所のためにも自分の相撲を取り切りたい」。再出場を決め、土俵に戻ってきた覚悟を感じさせる相撲で、負傷を心配していた多くのファンを安心させた。

  ●元白鵬・宮城野親方が絶賛

 元大関の二人が土俵に向き合うと、会場の雰囲気が変わった。「ばちんっ」。立ち合いで、正面から朝乃山と正代がぶつかり合うと「おおー」という歓声が沸き上がった。

 踏み込みから得意の右四つとなり、浅い左上手をがっちりと引いた朝乃山。右下手も取ると、回り込みながら巻き替えを狙う正代に何もさせず、一気に寄り切った。取組後は「右脇を締めて、体を密着させられたのが良かった」と冷静に振り返った。

 NHKのテレビ解説を務めた元横綱白鵬の宮城野親方は「もうこれですね」と一言。取組直前に「照ノ富士みたいに左上手を取ってから相撲を取れば、すぐ横綱、大関になれます。教えるのは難しい。本人が気付いてやらないといけない」と注文していただけに、左上手を引いた万全の相撲を絶賛した。

 14日目は大一番を迎える。ともにけがで休場し、再出場した新大関・霧島と元大関の対戦。負けた方が負け越しが決まる背水の陣で、土俵に上がる。朝乃山は霧島に対して過去3勝2敗だが、最後に対戦した2021年夏場所は上手投げで敗れている。2年間で力を付けた霧島は今や看板力士となり、立場は逆転した。

 「自分から攻めていけば、勝機がある」。挑戦者の立場を強調し、結びの一番に持てる力を全てぶつける。いつもよりも引き締まった表情で取材に応じた朝乃山。最後は「暑いですね」と小さく笑い、会場を後にした。

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