んとす

 おわびが遅くなりました。ちょうど1週間前のこの欄で紹介した正岡子規の短歌〈立ちおほふ雲のひまより青空のわつかに見えて梅雨明けんとす〉-作中の「わつか」を記事で「輪っか」と紹介したら「古い仮名遣いの『わずか』なのでは」と読者のお一人から指摘をいただいた▲梅雨明けと夏の到来の近さを子規に感じさせたのは“雲間に見えたリング状の青空”ではなく「少しだけのぞいた真っ青な空」。こちらの方がぐんと自然だ。ネットで手軽に見つけた解説に安易に飛びついてしまいました。申し訳ありませんでした▲実はこの件、県内が梅雨明けしたタイミングで“告白”を…などと考えていたら、各地で次々に梅雨明け宣言が▲九州が後回しにされた理由は、梅雨前線が南に居座っている天気図のせいだが、当方はおわびを先延ばしにしてきた不心得を天気に見透かされたような気分▲さて、正岡子規といえば野球、野球の短歌と言えば正岡子規だ。〈九つの人九つの場を占めてベースボールの始まらんとす〉…わくわくとプレーボールを待つ高揚感が伝わってくる▲先日の短歌とこの歌に共通して用いられた結びの〈んとす〉は「まさに…しようとする」。国語辞典のおしまいに登場する見出し語として長く“君臨”していた言葉としても知られる。(智)

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