長崎大水害41年

 たぶん午後6時前だった。不気味な真っ黒い雲に覆われた空から驚くほど大きな雨粒が落ちてきて、見たことがない大粒の黒いしみをアスファルトに付けていった。中学生だった41年前の7月23日の記憶▲夜にはすさまじい豪雨になった。6階建てアパートの3階に住んでいたが、普段チョロチョロ流れている近くの川が氾濫し、1階は水浸しに。アパート中が大騒ぎになった▲自宅から200メートルほど離れた国道沿いでは、崖崩れが家屋をのみ込み2人が亡くなった。崩れる少し前に父が現場を歩いて帰ってきていた。数多くの人が生死のふちに立っていた▲長崎市を中心に至る所で河川が氾濫し、土砂災害が相次いで299人が犠牲になった1982年7月23日の長崎大水害。40年以上がたち、悪夢のような惨状を知らない世代も多くなった▲想像を絶する雨が降り、まさに「想定外」の事態が起きたのが、あの大水害だった。今は当時よりも温暖化が進み、豪雨災害が頻発している。早めに避難する心構えが何よりも大切だ▲避難して何事もなければ「空振り」と思いがちだ。京都大防災研究所の矢守克也教授は、空振りではなく「素振り」と考えよう、と提唱している。素振りは避難の効果的なトレーニング。いざというときに大切な命を助けてくれるだろう。(潤)

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