「裁縫教科書」見つかる 長崎・玉木学園創設者が執筆 学者・安岡正篤が功績たたえる序文も 

全3巻の裁縫教科書。一部にカラーのページもある

 長崎県長崎市の私立長崎玉成高校などを運営する玉木学園(鬼塚謹吉理事長)の創設者、玉木リツ(1855~1944年)著の「裁縫教科書」(全3巻)が見つかった。3巻とも「文部省認可」と記されており、鬼塚理事長は「学校が発行した教科書が認可されるのは、すごいことだったはず。大事にしていきたい」と話す。
 玉木学園は1892(明治25)年、長崎女子裁縫学校として同市に設立。100周年事業の記念誌には「玉樹流和洋裁を編述した裁縫教科書三巻もみずから執筆した」とあるが、現在、同学園に現物は残っていなかった。民家の家財整理などを依頼された業者が「玉木女学校長 玉木リツ著」と書かれていることに気付き、6月上旬、「重要な本ではないか」と同学園に届けた。
 1巻の巻末には「昭和七(1932)年二月十一日発行」とあり、リツの晩年に編さんされたことが分かる。サイズはA5判で3巻とも250ページ前後。教科書中には多くの型紙などが紹介されており、寸法は、寸や尺ではなくセンチやメートルが使われている。リツが記した諸言(前書き)には「一、本書は女子の高等裁縫を為(な)すに当たり時代の要求に鑑み和服、洋服の裁縫を自在に為さしめんため、編纂(さん)したるものなり」と目的が記されている。
 さらに「一、総て裁縫は和洋共に裁ち方を重しとす」とも書かれており、「縫い」よりも「裁ち」の指導に力を入れていたとされるリツの教えを垣間見ることができる。1巻は「基礎編」として用具の解説や糸の扱い方から始まり、3巻の最後の章は「三ツ揃(みつぞろい)背広」を解説している。

玉木リツ(玉木学園提供)

 鬼塚理事長は、陽明学者で戦後の歴代総理の指南役とされた安岡正篤(1898~1983年)が序文を書いていることにも注目。安岡は「女子を駆って男子の後塵(こうじん)を拝せしめんとする誤った時流に毅然(きぜん)として下らず、本来の大道を行く教育をすることは現代至難の業である」「玉木女史の道業を伝聞して心ひそかに女史の苦心努力に感嘆を禁じ得ない」などと、女子の実業教育に心血を注いだリツの功績を高く評価している。
 同学園の評議員で、リツを研究している砂﨑素子さんは「リツ先生を知る上で貴重な書物」と今回の発見に目を輝かせる。砂﨑さんはリツの父で画家の玉木鶴亭(かくてい)も研究。表紙の鶴の絵は鶴亭の作品という。
 鬼塚理事長は「リツ先生の偉大さを再認識できた。先生の実学教育への思いを教育現場で具体化していきたい」と語る。また「新たに3巻が見つかれば複製なども考えたい。教科書が残っている家庭があれば連絡してほしい」と呼びかけている。

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