危険運転運用見直し求め全国ネットワーク結成 大分市の事故遺族ら、署名活動へ【大分県】 問う 時速194キロ交通死亡事故

危険運転致死傷罪の壁に苦しんできた交通事故遺族らがネットワークをつくった。法の問題点を指摘する長文恵さん(手前左)=21日午後、東京都
遺族ネットワークの参加者(21日時点)

 危険運転致死傷罪の在り方が問題となった大分市の時速194キロ交通死亡事故をきっかけに、同じ苦しみを抱える全国の被害者遺族がネットワークをつくり、国に法の運用の見直しを働きかけることになった。21日、大分市の遺族を含む9人が東京都内に初めて集まり、署名活動などを展開する方針を確認。「悪質な運転が危険運転として立件されにくく、刑罰の軽い過失運転致死傷罪で裁かれている実態はおかしい。正すべきだ」と強調した。      

 参加したのは猛スピードや赤信号無視、飲酒運転による5件の事故で家族を亡くした遺族7人と弁護士2人。大分市の事故で弟の小柳憲さん=当時(50)=を失った長(おさ)文恵さん(57)は、ネットワークの運動が広まることを願って実名を公表した。

 9人は危険運転致死傷罪の問題を取り上げた大分合同新聞の記事などで接点を持った。大分市の事故で大分地検が遺族の署名活動後に起訴内容を同罪に切り替えた経緯を批判。「当事者が何も言わなかったら、軽い罪名で審理される恐れがあった」との思いを共有している。

 ネットワークの名称は「暴走危険運転被害者の会」に決まった。代表には長さんと、時速160キロを超す乗用車の追突事故で夫=当時(63)=を亡くした宇都宮市の佐々木多恵子さん(58)が就いた。

 出席者からは「家族を失った悲しみでふさぎ込み、声を上げられない遺族もいる」「検察の手抜きではないか」「司法の場で遺族が置き去りにされているのは問題だ」などの意見が出た。

 今後、他の交通事故遺族にも参加を呼びかけ、法務省や国会に要望書を提出する。国に対して法の運用が適切なのか実態調査を求める。

 長さんは「故意に危険な運転をしたドライバーに厳罰を科さなければ抑止にならない。多くの人に遺族が感じてきた不条理を知ってもらいたい」と語った。

 

<メモ>

 大分市の事故は2021年2月9日深夜、同市大在の県道(法定速度60キロ)で発生。当時19歳だった男(22)が乗用車を194キロで走行させ、交差点を右折中だった乗用車に激突。乗っていた同市坂ノ市南、会社員小柳憲さんを出血性ショックで死亡させた―とされる。大分地検は22年7月、男を過失運転致死罪で在宅起訴。遺族は2万8千人分以上の署名を提出して訴因変更を要求。地検は12月、危険運転致死罪に切り替えた。

■過失での立証、納得できず

 <解説>危険運転致死傷罪の壁に胸を痛めてきた全国の遺族が結束した。行動を起こした背景には、厳罰化された法が十分に機能していない現実がある。

 同罪は2001年に新設され、法定刑が最長で懲役20年。不注意による死亡事故に適用される過失運転致死傷罪(懲役7年以下)と比べて刑罰が重く、立証のハードルは高いとされる。

 このため捜査に当たった検察が尻込みし、過失運転にとどめたとみられるケースが全国で相次ぐ。遺族たちは「飲酒運転や無謀な速度のハンドル操作は不注意なのか」と悲痛な声を上げる。

 ネットワークには危険運転致死傷罪の創設に尽力した東京都三鷹市の井上保孝(やすたか)さん(73)、郁美(いくみ)さん(54)夫婦も参加した。1999年に東名高速で飲酒運転のトラックに追突され、長女奏子(かなこ)ちゃん=当時(3)=と次女周子(ちかこ)ちゃん=同(1)=を亡くした。

 夫婦は世論の高まりで法改正が実現した22年前を振り返り、「悪質な事故を故意犯として処罰する画期的な法律だった。過失犯として裁いては意味がない」と指摘した。

 遺族の連帯は現行法の在り方を問う一歩となる。それぞれが支え合い、外部に情報を発信することを確認した。切実な叫びは共感を呼び、大きなうねりとなるはずだ。継続的な取り組みが求められる。

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