冤罪被害女性のTシャツ、裁判所「着ないで」要請 「団体名が書かれているだけなのに」

6月の弁論後に会見を開いた西山さん。IPJのTシャツを身につけていた(6月22日、大津市梅林1丁目・滋賀弁護士会館)

 滋賀県東近江市の湖東記念病院での患者死亡を巡り、再審無罪が確定した元看護助手西山美香さん(43)=同県彦根市=が国と滋賀県に損害賠償を求めた訴訟で、6月に開かれた口頭弁論の際に西山さんが着ていたTシャツに対し、大津地裁が「メッセージ性がある」として着用しないよう求めていたことが24日、分かった。西山さんの弁護団は25日にも地裁に抗議する文書を提出する方針。

 西山さんが着ていたのは、DNA鑑定など科学的手法によって冤罪(えんざい)の救済・検証に取り組む民間組織「イノセンス・プロジェクト・ジャパン(IPJ)」(京都市北区)の名前が書かれたTシャツ。「イノセンス―」の英字表記以外に文字は書かれていない。

 弁護団によると、6月22日の弁論の後、訴訟の窓口を担当する弁護士事務所に、地裁の書記官から、Tシャツを着用しないことを求める連絡があった。地裁によると、最高裁が定める庁舎管理規定を根拠とし、「着用していた衣類が、着用の上で庁舎へ立ち入ることが禁止されているものに該当する」と地裁所長が判断し、裁判長が有する法廷警察権に基づき、「今後、裁判所構内ではメッセージが見えないような措置を取ってもらいたい」と伝えたという。同規定は、「はちまき、ゼッケン、腕章これらに類する物を着用する者」に対し、庁舎への立ち入りを禁止している。

 元裁判官の井戸謙一弁護団長は「本来は何を着ようが本人の自由で、公権力が口を挟む筋合いはない。団体の名前が書かれているだけだが、仮にメッセージ性があるとしても、第三者ではなく、冤罪被害者の原告が冤罪をなくそうと訴えるもの。誰からも異論があるはずもないメッセージを制限できるのか」と批判する。

■判断は客観的根拠が乏しい

 京都大の毛利透教授(憲法)の話 服装にメッセージ性があったとして、裁判所外であれば表現の自由として保障されるが、法廷は表現の場でないため、裁判所が秩序維持のために制限することはあり得る。

 ただ、原告には裁判を受ける権利が、傍聴人にも裁判を傍聴する権利が保障されており、慎重に判断されなければならない。法廷の秩序が脅かされる恐れが客観的にあるかどうかがポイントになるが、今回の訴訟では相手方が滋賀県や国の代理人で、公正な審理に影響を及ぼすと考え難く、地裁の判断は客観的な根拠が乏しいと思われる。

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