忘れてはならない色

 球児といわず、屋外のスポーツ選手には青い空や白い雲がやはりよく似合う。全国高校野球選手権の長崎大会の決勝は、梅雨の末期であるのを忘れさせるほど、上空の「青」や「白」がよく映えた▲梅雨に吹く南風を「黒南風(くろはええ)」と呼ぶように、雨の季節は何かしら黒い色を思わせる。41年たった長崎大水害で、見る見るうちに空が黒くなったのをご記憶の人も多いだろう▲きょうで66年たつ諫早大水害も「黒」の記憶とつながっている。真っ暗闇の町を濁流が丸のみにした夜の証言を記事で読むたび、悲痛さと、水の怖さが胸に迫る▲家族が目の前で流された人がいる。屋根に逃れた瞬間、真下をごうごうと水が流れたと語る人もいる。「ほんの何分、何十秒のうちに水がどんどん増してきて…」といった証言がいくつもある▲この梅雨も列島各地を豪雨が襲った。「あっという間」の水の怖さは不変だとしても、昔と今とで、前もって得られる情報はまるで違う。いかに生かして備えるか、試される時代でもある▲諫早大水害、長崎大水害、それに普賢岳噴火…と、本県の大災害に限ってもすでに長い歳月が流れている。それを知るご本人が語るだけでなく、次の世代がどう語り継ぐべきか。暗雲や暗闇の「黒」、不気味な濁流の「茶褐色」と、忘れてはならない色がある。(徹)

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