上井邦浩・アラフォーの逆襲 「イップスは技術で解決できる」Lesson Interview vol.1

上井は今年、不惑を迎えている(撮影/有原裕晶)

プロ17年目の上井邦浩は40歳を迎えた。2015年にはドライバーのスランプに陥り極度の不振に。18年には左腕の骨折も経験。昨年秋には左手親指の腱鞘炎でツアー離脱を余儀なくされた。度重なるけがと落ちる体力、そして若手の台頭。その中でも成績を出していく難しさをまさにいまかみ締めている。同門の兄弟子・藤田寛之は40歳から勝利を重ね、43歳で初の賞金王に輝くなど40代でその存在感を示したが、上井はいま何を考え、この先どのようなプランを立てているのか。彼の新しいスタジオで話を聞いた。(全二回・前編)

信頼の置けるコーチとの出会いが大きかった

新しくできたスタジオで吉田コーチの練習器具を試す上井(撮影/有原裕晶)

ツアーの特別保障(公傷)制度適用により、出場可能な4試合での獲得賞金によってはシード権を取り戻せる可能性もあったが、惜しくもかなわなかった。それでも今は「また戦える」という気持ちが強いという上井。それには、プロコーチの吉田直樹氏の存在が大きかったという。

直樹さん(吉田コーチ)って、こっちが何かを聞いたときに必ず具体的な「答え」を用意してくれるんです。「別に悪くないんじゃない?」とか、「大丈夫、大丈夫!」みたいにはぐらかすことがないんですね。だから、迷うことがない。これが、「コーチがそばにいるっていう安心感か」って初めて思いました。

―吉田コーチと出会ったきっかけは?

2年前のフェニックス(ダンロップフェニックストーナメント)のときに、その頃ずっと調子が悪かったんで、谷原(秀人)さんに紹介してもらう形で教わるようになりました。

吉田コーチ(右)には定期的にスイングを見てもらっている(今年のミズノオープンで)(撮影/服部謙二郎)

―具体的に取り組んだことは?

テークバックの段階から、とにかくフェースを開かない(シャットフェース)ってことですね。直樹さんに出会う前から、シャットフェースは自分なりに意識してやっていたんですけど、結局その度合いが全然足りなかった。今、20代以下のゴルファーというのは、最初からシャットフェースでゴルフを覚えているからいいんですが、ボクらの時代は開いて上げて、閉じて下ろすというのが当たり前だったので、我流の見よう見まねでシャットにしようとしても、かえって調子を崩すだけだったんです。

―いわゆる「イップス」状態になったと聞きましたが。

「イップス」っていうと、メンタル的なものだと思う人が多いかもしれませんが、僕は技術的な問題だと思っています。必ず原因があって、対応策もある。プロゴルファーがイップスになるのは、大体同じような原因のことが多いんですね。良くも悪くも、スイング中の「違和感」に反応しちゃうというか、反応できちゃうことが良くないんです。

僕の場合だと、テークバックで開いて上げるからダウンスイングでも開いて下りてくることが多くて、それに反応して当たる前にピャッと閉じちゃったりする。逆に、閉じて下ろし過ぎた場合はとっさに開こうとしちゃう。でも、それってその場しのぎだから、結局曲がるわけですよ。で、曲がるというイメージだけが頭に蓄積されて、振れなくなる。

開いて入ってくると(写真左)、反応して急激に閉じやすい(写真右)(撮影/有原裕晶)

―安定的にシャットなスイングができれば、余計な「反応」をしないでシンプルに振れるようになると。

そういうことです。ですから「イップス」っていうのは、ある程度、技術で解決できるものだとボクは思っています。ただやっぱりあまり長い間曲がる時期が続くと、コースでそのイメージしか出なくなっちゃうから良くないんです。できるだけ早めに対処しないと。スライスしか出ないアマチュアの人だと、もう頭の中にスライスのイメージしかないと思うんですよね。プロでもティグラウンドで「うわ、右行きそうやな」とか思っちゃうと、それが体の動きにも出て本当に右に出ちゃう。そうなったときにちゃんと原因を分析して「こう振れば大丈夫」っていう自信を自分につけてあげないと、イップスは進行してしまうんです。

左ひじの下から腕が外旋できない…

肩の痛みが強くなっていた(撮影/有原裕晶)

―上井プロは、2018年に左腕を骨折していますが、その影響はもうないのでしょうか?

骨折の治療で腕に金属のプレートが埋まっているんですが、それがどうも神経と癒着を起こしているみたいで、左の肘から下が完全には(外側に)回らない状態なんです。だからフォローの動きがスムーズにできなくて、無意識に肩でそれを補っていたんですね。そうしたら今度は肩に痛みが出てしまって……。肩の痛みは以前からあったんですが、それが強くなったというか。で、痛いから肩を動かさないように振ると、腕の方に余計な負担がかかって、それが腕とか左手親指の痛みの原因になったみたいです。

昨年は腕の痛みのせいで段々握力が弱くなってきて、それで自分が思った通りの動きができない時期が長かったです。でも、それだと飛ばないから頑張って力を入れようとしちゃうじゃないですか。悪循環ですよね。痛いから練習でも球数多くは打てないし、無理してやったらやったで次の日はもっと痛いし、みたいな。

以前より左手の“フック度合い”を強めにした(撮影/有原裕晶)

―今も痛みがある?

今はもう痛くはないです。その点でも直樹さんと出会ったのは大きかったです。(昨年)12月にそろそろ大丈夫かと思って少し練習量を増やしたら、急にまた痛みが出ちゃって。それでしばらく休んで、またやると痛くなっての繰り返しだったんですが、今年1月の直樹さんの合宿に参加したときにグリップを変えてもらったら、毎日1000発くらい打っても痛みが出なかったんです。ただ、その代わりに足が肉離れになっちゃったんですけど(笑)。40歳にもなると、スイングも大事ですけど体のケアが本当に大事だって思いましたね。これまで、トレーニングとゴルフを並行してやるという習慣はなかったんですが、これからはそうしていかないとツアーでやっていくのは無理だと思います。

具体的なスイングの話は後編へ。(取材・構成/服部謙二郎)

協力/K2 GOLF SALON

上井邦浩の最新ドライバースイングをご覧ください

アドレス(撮影/有原裕晶)
ハーフウェイバック(撮影/有原裕晶)
トップオブスイング(撮影/有原裕晶)
切り返し(撮影/有原裕晶)
ハーフウェイダウン(撮影/有原裕晶)
早めにシャット(閉じた状態)の形を作りたい(撮影/有原裕晶)
フォロースルー(撮影/有原裕晶)
フォロースルー(撮影/有原裕晶)
フィニッシュ(撮影/有原裕晶)

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