社説:性被害対策 男性への支援も広げよ

 根深い広がりが露見した性被害の根絶に向け、社会全体で取り組まなければならない。

 政府は、子どもや若者の性被害防止に向けた緊急対策を決定した。男性・男児に特化した相談窓口「被害者ホットライン」を9月にも新設し、保育所などでのわいせつ行為を含む虐待に通報を義務づける児童福祉法改正も検討する。

 性被害は、長期間にわたって心身に大きなダメージをもたらす。特に子どもは、その時に被害に遭ったことが認識できず、後になって気付く場合もある。被害者に寄り添った実効性のある支援が求められる。

 緊急対策は、大手芸能プロダクション「ジャニーズ事務所」の故ジャニー喜多川前社長による性加害証言を受け、関係省庁の合同会議がまとめた。

 親族や雇用関係といった立場を利用した性犯罪の取り締まりを強化するとともに、文化芸術分野のハラスメントなどに関する相談窓口を設置し、弁護士らが助言や関係機関の紹介をするとしている。

 ただ、わずか1カ月半の急ごしらえだったこともあり、既存施策の焼き直しも目立つ。

 男性や男児への性被害は、社会的な理解が進んでおらず、対策が遅れている。

 全国の性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センターでは、昨年度の電話相談の件数が約6万3千件に上ったが、男性は1割にとどまる。

 相談が少ない背景には、「弱音を吐くのは男らしくない」「男は強くて当たり前」といった、社会が男性に押しつけるイメージや固定観念に阻まれ、被害を訴えづらい傾向があるとされる。

 専用の相談窓口だけでなく、トラウマ(心的外傷)のケアができる公認心理師などの配置や、男性被害者専門のカウンセラーの育成、医療と支援機関との連携強化など幅広く対策を強化する必要がある。

 専門家は、子どもや若者の性被害を防ぐには、年齢に応じた正しい性教育が不可欠だと指摘する。

 日本では、小学4年から性教育が始まるが、国連教育科学文化機関(ユネスコ)は5歳からの教育を推奨する。幼児期の方が好奇心が強く受け入れやすいとされる。

 子どもの頃から自分と他人の体を尊重する姿勢を身に付けることは、性被害に気付きやすくなるだけでなく、男女平等の意識や性の多様性についての理解を深めることにもつながるだろう。

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