のっぺらぼう、ろくろ首、ぬらりひょん…。アコースティックギターの弾き語りで、妖怪の魅力を伝える活動をしている。妖怪シンガーソングライターの河合賢矢さん(51)=京都府宇治市=は「妖怪は怖いだけでなく、さまざまな楽しみ方がある。それを歌に乗せて多くの人に伝えたい」と語る。
6月上旬、宇治市役所のロビーコンサート。<そこの水辺には化け物が出るという。いつもショキショキと小豆を研ぐ音がする>。「小豆洗い」をはじめ妖怪をモチーフにした歌5曲を披露していくと、耳を傾けた市民から手拍子が沸き起こった。
妖怪の歌と言えば、おどろおどろしい曲調と思いきや、いずれも軽快なリズムを重視したポップソングに仕上がっている。「江戸時代の人々にとって妖怪は娯楽だった。現代人も同じように楽しめるはず」
岐阜県郡上市出身で、妖怪に出会ったのは小学生の頃。漫画家の故水木しげるさんが著した図鑑「妖怪なんでも入門」を手に取った。「妖怪には理解を超えた怖さがある」と感じつつ、夢中になってページをめくるうちに多種多様な妖怪の知識が身に付いた。
大谷大(京都市北区)を卒業後、中学・高校の国語講師やデザインの仕事をしながら、バンド活動に励んだ。当時のジャンルはロックで、ストレートなラブソングなどを歌っていた。ところが、新型コロナウイルス禍の影響でバンドは休止状態になった。
ソロ活動を模索していた際、「妖怪の知識なら誰にも負けない」と思い付き、妖怪ソングを作った。実家の屋号にちなんだ歌手名「TAROZA(タロザ)」で、府内の音楽イベントやライブハウスで披露しているほか、妖怪のイラスト制作にも取り組む。
30代の時、宇治市に移り住んだ。「(縁切りの神様として知られる)橋姫伝説など、怪談や奇談の宝庫。楽しんでもらえる曲にしていきたい」と、静かな口調で創作意欲を語る。