社説:住まいへの支援 地域再生、少子化対策の鍵だ

 暮らしの基盤となる住宅の確保に向けた支援こそ、地域再生や少子化対策への切り札になるのではないか。

 京都市は、人口減少や高齢化が進む洛西ニュータウン(西京区、NT)で戸建て住宅を買い取り、改修して子育て世代に販売する事業を始める。

 近年、市内は富裕層向けホテルや高額なマンションの建設が続き、全国の中でも地価高騰が著しい。

 まちなかの空洞化に加え、子育て世代が住居を求めて京都を離れている。国の人口動態調査で昨年は1万人超の日本人が減った。3年連続、全市区町村で最多という。

 市の将来が危ぶまれる事態である。子育て世代が暮らしやすい環境を整えることは急務だ。

 1976年に入居が始まった洛西NTは、90年の3万6千人をピークに今や2万人余りに減少。高齢化率は43%に上る。市住宅供給公社が空き家を買い、リフォームして手頃な価格で再販するという。年度内には5戸を予定する。

 試みは市の危機感の表れと受け止めたい。課題を検証しつつ、全区に広げるなど対策を加速する契機にしてほしい。

 京都府や滋賀県も中古住宅の活用で、若年層の居住促進に取り組む。全国では新潟県聖籠町のように、10年以上の居住を条件に子育て世帯に100万円超の住宅取得補助を出し、出生率を大きく回復させた例もある。

 一方で国は、高齢者や低所得者の居住支援を軸とする。それさえも踏み込み不足が目立つ。

 17年の住宅セーフティーネット法改正を受け、高齢者や障害者、低所得者らの入居を拒まない物件情報をサイト上に登録し、紹介している。だが、改修や家賃の補助対象となる物件は限られ、登録自体も伸び悩む。家主と入居者をつなぎ、生活再建を支える新設の「居住支援法人」の活動も地域差が大きく、成果は十分でないという。

 若年層の居住支援では先月、岸田文雄政権が看板とする少子化対策の方針に、「子育てにやさしい住まいの拡充」を盛り込んだが、具体策は乏しい。

 公営住宅などの事業主体に「子育て世帯が優先的に入居できる仕組みの導入を働きかける」とした。10年間で20万戸を確保する数値目標を掲げるものの、何の財源手当てもない。

 住まいの確保は、福祉、雇用、教育、地域社会など広義の社会保障、セーフティーネット(安全網)の礎となる。だが、国土交通省が所管する住宅施策と、厚生労働省が担う社会保障制度の隙間に陥り、連携が不十分と指摘されて久しい。

 人口減で全国の空き家が急増する実態も踏まえ、政府は財政支援にまで踏み込んだ住宅戦略を練ってはどうか。

 行き詰まった「地方創生」の打開や、「異次元」の名に値する少子化対策にもつながろう。

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