【シンガポール】5年後に年産200万台体制へ[車両] 電動二輪車のチャージド・アジア

チャージド・アジアが販売している電動二輪車の3モデル(同社提供)

シンガポールを拠点とする電動二輪車のスタートアップ、チャージド・アジア(Charged Asia)が、東南アジアで事業規模を拡大している。域内の巨大なバイク市場を軸に、環境政策などを追い風にしながら手ごろな価格帯のモデルの投入で販売を増やしていく考え。5年後の2028年には年産200万台体制とする計画だ。【Celine Chen】

チャージド・アジアは2022年3月設立。シンガポールの新興電動バイクメーカー2社で最高執行責任者(COO)を務めた経験のあるジョエル・チャン最高経営責任者(CEO)と弁護士のソー・チュンビン氏が立ち上げた。

まず東南アジア最大の二輪車市場で、関連するサプライチェーン(供給網)が整い、政府の支援策もあるインドネシアに目をつけて現地に工場を設置した。バイクタクシーや配達の運転手向けに設計したシンプルで機能的な電動バイク3モデルを開発。これまでに首都ジャカルタを中心に1,000台以上を納入したほか、マレーシアやベトナムでも販売している。

インドネシアで販売している最も安いモデルは約2,400万ルピア(約22万円)で、バイクタクシー向けだ。容量2.7キロワット時のバッテリーを搭載し、航続距離は約125キロメートルとなっている。

別のモデルは都市通勤用で3,350万ルピア。3つ目のモデルは、物流・配送用で3,200万ルピアだ。両バイクともにオプションのセカンドバッテリーを搭載すれば、航続距離を通常の2倍となる約200キロメートルに伸ばすことができる。

一括払いで購入できない消費者には月額課金のサブスクリプションプランを用意。電動バイクは通常、持ち主の自宅で充電されるが、チャージド・アジアは店舗で有料のバッテリー交換サービスや急速充電設備も提供している。

チャンCEOは「当社の強みは、『タクシー』バイカーとして活動するギグライダー(単発で仕事を請け負う運転手)や、食品、その他商品の配達運転手に手頃な価格の電動バイクを提供できることだ」と語った。

■来年は3カ国の市場に参入

取り扱いモデルを増やしてより大きなシェアを獲得するため、機能的でパワーのある3つの新モデルを年内に発売する予定だ。1つ目はより重い貨物を運ぶために設計した三輪車。2つ目は東南アジアの都市部以外の地域でラストマイルデリバリー(最終拠点からエンドユーザーへの物流サービス)を実現するために悪路を走行できる電動ダートバイクだ。

3つ目は、二輪車のカテゴリーで最も人気のある排気量125ccのストリートバイクに対抗できるモデルで、大衆市場に参入することになる。各国の脱炭素化計画で求められている環境に配慮した「グリーンモデル」バイクへの乗り換え需要に応える。

国別では、まずインドネシア市場での販売をさらに伸ばすほか、ベトナムとマレーシアでの事業拡大に注力する。24年にはシンガポール、タイ、フィリピン市場への参入も計画している。

東南アジアでの事業拡大に伴い研究開発(R&D)の規模も拡大する。従業員数は年内に約100人まで増やす予定だ。

■10年で1000万台生産目標

今後の事業拡大に向けた資金調達は順調だ。22年5月には、シンガポールのベンチャーキャピタル、デクラウト・ベンチャーズから450万米ドル(約6億3,000万円)のシード資金を調達した。デクラウトは日本のエクシオ・グループの海外統括子会社エクシオグローバル(本社・シンガポール)の完全子会社だ。

昨年12月には、オーストラリアのスクーター製造・販売大手Vモート(Vmoto)グループ傘下のVモート・ソコ(Vmoto Soco)から技術・投資契約で300万米ドルの資金を得た。最近では非公開の投資家から別の資金調達を終え、企業価値は昨年12月の3,800万米ドルから5,000万米ドルに高まったという。

チャージド・アジアのジョエル・チャンCEO(同社提供)

世界的な環境規制を背景に、東南アジアでも電動バイクメーカー間の競争が激化している。チャージド・アジアはスタートアップらしい機動力で域内での事業展開を加速し、商機をつかむ考えだ。

域内以外では、オーストラリア、香港、台湾などのアジア太平洋市場でも需要を取り込めるとみている。目標とする年間200万台の生産は5年以内に達成できると見込む。向こう10年では累計1,000万台の生産を目指す。

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