東京23区 リーダーたる観光振興 その現状と将来像を考える! ②

前回は、観光振興が発地から着地への変化や観光協会の有無などに焦点を当て、継続的な取り組みとしての町歩きの重要性を述べてきた。今回は、東京23区の予算(特に観光予算)ついて考え、将来に向けた「あり方」を検討してみたい。

(前回記事は、こちらから)

5.隣り合わせの区、これだけ違う観光予算

観光の持つポテンシャルは、「地元の宝物の価値向上」「地域消費の拡大」「将来を見据えた地域蓄財」と前回も述べた。しかしながら、そのことは、地域に住む人々には、なかなか理解されない。

以下の表をご覧いただきたい。

数値は、双方の区ホームページより抜粋

東京23区の隣り合った区である文京区と荒川区について、観光目線で比較検討したい。両区は、東京中心部の北に位置し、面積や人口がほぼ等しい。また、総予算も等しいと言える。しかし、大きな違いは、観光に関わる予算と観光協会の有無である。

今回、両区の予算書を精査すると文京区(約3.1億円)荒川区(約0.8億円)と観光予算に大きな開きがある。文京区には、一部、観光協会への助成金(約1.4千万円)があるが、その差は大きい。

6.知名度のある観光コンテンツの有無は、重要なこと!?

柳沢吉保の旧邸である六義園

観光協会の有無は、その自治体が観光に力を入れていることの現れと言える。交流人口を拡大し、収入を得る。そのためには、自治体内にどれだけの観光コンテンツがあるかが、まず一つの要因となる。

例えば、文京区には、江戸時代から続く大名庭園(六義園や小石川後楽園)や名立たる神社(湯島天神や根津神社)がある。そして、東京ドームという野球場や遊園地といった複合的アミューズメント施設を保有している。

都電・三ノ輪橋停留所

一方、荒川区には、都電や隅田川、日暮里繊維街などが観光コンテンツであるが、万人に受け入れられるものとは、なかなか言い難い。

つまり、保有する観光コンテンツの知名度が、全国区と言えるかどうかが、一番重要なことではないだろうか。そして、全国区の観光コンテンツを保有することによって、観光に重きを置くか、置かないかにつながってくるのである。しかし、まだ磨き切れていない原石は、素晴らしいダイヤモンドに変換できる可能性を秘めている。

荒川区の観光コンテンツである都電や隅田川は、移動手段としての二次交通となる。同時に近隣自治体との広域連携の手段にも利用できる。また、日暮里繊維街は、日本人だけでなく、訪日外国人も買い物に訪れる場所でもある。すなわち、告知・宣伝の仕方によって、一気にお客様が増えるのである。

7.子育て・教育・福祉に予算を割くことは、重要だが・・・

さて、観光目線で自治体予算を見ていくと、かなり構成比率が低いことが分かる。多くの自治体は、子育て政策や子供の教育、福祉事業に多くの予算を割いている。23区の中でも江戸川区と荒川区は、子育て政策に過去から積極的で、医療費の中学生までの無料化は、東京都内でも一、二位を争う自治体である。それ故、若年層の転入人口も増加傾向にあるという。

次世代の子供たちを育てるという観点から考えると、子育て・教育に多くの予算を割くことは、重要な施策と言える。子供たちが成人し、育った自治体に住まうことを選択すれば、その自治体の未来も明るいものとなる。また、高齢化社会において、福祉事業をきちんと整備することは、自治体の大切な責務でもある。

しかし、観光がもたらす「地元の宝物地域の価値向上」「地域消費の拡大」「将来を見据えた地域蓄財」という観点から考えると、少子化する若年人口に重きを置くより、交流人口を増加させることによる経済効果に傾注した方が良いのではないだろうか。

8.旅行会社やJR・航空会社の本気が求められる!

次に、旅行会社やJR・航空会社が首都圏マーケットを対象とした商品をどのように投入しているか、検討してみたい。

分母数(入込観光客数)が大きい大都市圏は、着地型観光コンテンツをメインとしたキャンペーン等を仕掛けても芳しい伸長率を得ることが難しい。そのため、スケルトン型商品(宿泊と交通機関のみ)に特化し、旅行会社やJR・航空会社は重い腰を上げることがほとんどない。これは、地方都市のように分母数が小さい地域は、キャンペーン等によって、高い伸長率を得ることができるので、地方都市がキャンペーンの対象とされてきた過去が物語っている。

もし、JR各社が進めるディスティネーションキャンペーン(DC)を東京を対象としたならば、都内の市町村は、こぞって着地型観光コンテンツ探しを進めるだろう。積極的な自治体と消極的な自治体の差がもっと広がるものと考えられる。既にオーバーツーリズムである東京にもっと観光客が訪れたら、などと考えがちであるが、DCは、基本的に日本人を対象としたキャンペーンであるから、日本人観光客の底上げにつながる有用な施策となるだろう。

9.大いなる田舎の広域連携のすすめ

三差路が、台東・文京・荒川区に区界、そして谷田川の暗きょ

この写真をご覧いただきたい。何の変哲のない三差路に思われる方が多いでしょう。

ここは、台東・文京・荒川区の区界。また、横に走る道路は、石神井川が王子から分かれた谷田川の暗きょだ。閑静な住宅街、このような場所が観光コンテンツに化けていくのだ。

何故だろう?

区界」はボーダーツーリズム、「暗きょ」はインフラツーリズムやヒストリカルツーリズムにつながっていく。前回も述べた町歩きという観光コンテンツ化によって、その地域に交流人口が増加すると

<メリット>経済効果(域内消費)拡大 <デメリット>・・・観光公害(ゴミや騒音)拡大

という事象が発生する。

そのため、観光コンテンツ創造の一番重要なことは、地域住民との合意形成である。メリットがデメリットを上回れば、充分に合意が得られるだろう。そこに、地域住民の協力や参加意識も生まれる。例えば、町歩きのガイド養成につながる。大人だけでなく、児童生徒も参画することができれば、将来に向けた継続的な取り組みとなる。また、地域の食堂に予約が入れば、地元消費が伸びる。

台頭・荒川の区界、音無川の暗きょ

地域住民も、地元知識の深耕や域内消費の拡大、教育意識の芽生えなど、多岐に渡る「モノ」「コト」「ヒト」の豊かさにつながっていくのである。まさしく、地域の民度を高める効果があるのだ。

新宿や渋谷、池袋などの繁華街を除くと、東京23区は「大いなる田舎」であり、地方都市と変わらない。特に城東・城北地区は、その最たるものである。全国区の観光地は、無いに等しい。

しかし、磨けば光る原石は、豊富に存在するのである。その磨き上げには、単独行政では難しいこともあり、広域連携が必要となってくる。例えば、台東・文京・荒川区の結節点である「谷根千」は、都内でも屈指の町歩きのメッカとなっている。また、台東・墨田・江東区は、スカイツリーをフックに広域連携を進めている。

行政区分によって分断するのではなく、単独ではできないことを広域で進める。このことが、これからの観光の未来を造っていくと言っても過言ではないだろう。それを取りまとめるのが、東京都の役目である。

10.おわりに~愚直に観光振興、リーダーたる東京23区

東日本大震災、新型コロナウイルスのまん延によって、日本の訪日外国人施策も停滞傾向にあった。しかし、コロナの5類移行によって、すべてが復活傾向になりつつある。

観光の「地域」「時期」の平準化は、大きな課題である。これまでは、大都市一極集中を回避するために地方都市への誘客拡大を目指してきた。しかし、訪日外国人のそのほとんどが、大都市、特に東京を訪れたいというニーズを持っている。地方都市同様に東京の大いなる田舎を地域住民とともに、いかに、観光コンテンツを創造するか、喫緊の課題としてチャレンジしなければならない。まだまだ、東京23区は飽和の状態まで達していない。

まさしく、東京23区は、官民挙げて、リーダーたる地域に育て上げていくことができれば、日本が真の観光立国として、諸外国から認められることになるだろう。

華やかなイベントだけでなく、愚直に着地型観光コンテンツを充実させることが、未来まで継続する観光都市として生き残っていく唯一の「道しるべ」ではないだろうか。

北区と板橋区の区界、そして、東京都と埼玉県の境、浮間公園・・・桜とチューリップの競演が素晴らしい!

取材 中村 修 ㈱ツーリンクス 取締役事業本部長

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