肉体的、精神的、そして社会的に良好な状態を指す「ウェルビーイング(well-being)」。心理面でのウェルビーイングのための手段として、浸透しているのが「マインドフルネス」です。
判断することなく今この瞬間に注意を向け続ける実践技法である「マインドフルネス」。聞いたことはあるけれど実際にはよく分からないという方は多いはず。
筆者もその一人です。そこで、マインドフルネスに関してセミナーなどを開催している森夕花さんにインタビュー。
マインドフルネスアートの魅力や、マインドフルネスを通じて得られる体験などお話を伺いました!
「マインドフルネス」の意味
――まずお伺いしたいのですが、森さんが考える「マインドフルネス」とはどんなものですか?
森:「Sense of wonder(センスオブワンダー)」という言葉がとても好きで。
これは『沈黙の春』を書いたレイチェル・カーソンの遺作として、レイチェル・カーソンの友人によって出版された『Sense of wonder』という本の言葉です。
私たちが生きている世界は神秘や不思議でいっぱいなのに、大人になると忘れてしまいます。「神秘さ不思議さに目を見はる感性」をいつまでも失わないで欲しいという願いがその本に込められているのですが、まさにマインドフルネスとはそういうことだと思うんですね。
「こうでなくてはいけない」と社会の常識にとらわれてしまって、世界の美しさをちゃんと見れていないんですね。
「こんな所に綺麗な花が咲いている」「この人、こんな所が素敵だな」と、自分達が生きている世界で再発見をしていく。
これこそがマインドフルネスだと思っています。「今、ここ」ということですね。
過去と未来をずっと行ったり来たりで「今」を生きていない人が多い。
今を生きることで、今ここにあるものの素晴らしさ美しさに気付くことが出来る。そうするとたくさんの感謝があふれるはずなんです。
――「“今”を生きているか」と聞かれると、確かにドキっとしますね。過去のことや将来のことばかり考えてしまうことが多い気がします。
森:頭の中で色々考えてしまうと、「孤独だな」とか「惨めだ」と感じてしまうことがあるかもしれないけれど、周りを見れば全てがつながっていて孤独じゃないんだよということに気付くと思います。
そうすると、世界は変わってないのに見え方が変わってくる。私は「まなざしが変わる」という言い方をするのですが、固定観念や思い込みの“サングラス”をかけている状態から、そのサングラスに気付き、外すことが大切だと考えています。
ウェルビーイングとマインドフルネスの関係
――「ウェルビーイング」と「マインドフルネス」はどの様に関わってくると考えますか?
森:大切なのは物質的な幸せではなく、自分の心の中にある本当の豊かさだと思うんですね。
ウェルビーイングには色々な定義があると思うのですが、どんな状況であっても自分が幸せで、充実していて、感謝の気持ちを持てるということが“ウェルビーイングな状態”なんじゃないかなと思っています。
その為には、自分の思い込みや固定観念をとること。サングラスをとることが必要になってくるんだなと。
マインドフルネスセミナーのメリット
企業セミナーには経営者も多い
――森さんが開催しているセミナーにはどの様な方がいらっしゃいますか?参加した方の反応などもお聞きしたいです。
森:企業でセミナーをすることもあって、経営者の方も多いです。
経営者の方って大変なんですよね。社員の方には自分の本音や悩み事を言えなかったり、正解の無い時代なので、どうしたら良いか分からないと悩んでいる方が多いです。
答えは“外側”には無くて、マインドフルネスな状態になると自分の“内側”にあるということが分かるんです。
そういう考え方を知ることで、「本当の自分に戻れた」、「目指す道が分かった」と言ってくれる方が多いですね。あとはご自身でお仕事を進めないといけないフリーランスの方も多くいらっしゃいます。
――セミナーではどんなことを教えているのですか?
森:座学はほとんどなくて、一緒にワークをしながら、マインドフルネスを体感してもらいます。
例えば、「誘導瞑想」では、目を閉じて私の言葉を聞きながら、皆さんを深い意識の世界へ誘導していきます。
リラクゼーションだったら、広い野原に寝転んでいるイメージの瞑想をしたり、小さい頃にやりたかったことを思い出すという瞑想も行います。
小さい頃に、親や先生に反対されたり、無理だと諦めてしまったことを思い出す誘導瞑想も行います。
「夢を忘れてしまって、自分が今何をして良いのか分からない」という方がとても多いんです。
そんな時に、小さい頃に戻って、小さい自分に聞いてみようという瞑想です。
あとは「問い」を通して自分の深い部分と向き合うこと。
そこでアート表現を使って、自分の心の奥にあるものを表現していく。
感じたことを判断しないで、感じたままを受け止め、表現すると、深い無意識の扉が開かれてありのままの自分と出会うことができます。
セミナーに来た時と帰る時の顔が全然違う
――マインドフルネスと聞くと遠いもののように感じていましたが、とても楽しそうなセミナーですね。
森:皆さん、来た時と帰る時の顔が全然違うんですよ!「楽しくて、楽しくて仕方ない」とおっしゃいます。
3時間くらい行うのですが、「時間があっという間だった!」と。
――自分自身のためにゆっくり時間を使うって、なかなか毎日の生活の中では無いですもね。
森:普段は人の為に働いていたり、忙しなく時間に追われているので、自分自身と向き合うことって本当に少ないですよね。
“頑張っている方”が私の所に多くいらっしゃいます。頑張りすぎてしまって疲弊して体を壊してしまったり。
それで「自分を大切にしなきゃ」と気付いて、マインドフルネスについて知ろうと。
親子でマインドフルネス!
――アートというものは正解がありませんから、自由に、無心になれて楽しそうですね。
森:お母さん方と出会うことも多くて、「子どもたちとやりたい」と企画してくださる方もいます。
「美しいものはこうである」では無くて、「自分が美しいものを公園で見つけてこようよ」と。
その子によって美しいと感じるものは違うから、それを写真に撮ってきてもらうんです。
「どんなところが美しいと思ったの?」と聞くと、「葉っぱに乗っているてんとう虫が好き」という子もいるし、「虫が食べた葉っぱの穴が美しい」という子もいます。
そうするとお母さんは「この子にこんな感性があったなんて」と驚いたりします。
「すごいね!」と褒めてあげると、子どもたちは照れながらも満面の笑みになります。
それが子どもたちの自信にもなります。そのまなざしがSense of wonderなんです。
そういう経験は大人になってもどこかに残っていて、感性の豊かさにつながっていきます。
子どもたちの感性は、私たちの先生
――大人になって何か悩んでしまった時に、その楽しかった・嬉しかった経験に立ち戻れそうですよね。
森:そうなんです。子どもたちの感性って本当に柔らかいので、私たちの先生ですね。
大人はつい先を急いでしまって、立ち止まった子どもに「早く行くよ」と言ってしまうけれど、子どもはそこに目を輝かせながら子どもならではの世界を見ています。
子どもの頃の純粋な気持ちを子どもたちの目線になって思い出していくことはとても大事なのではないかと思います。
だから私は絵本が大好きなんですね。大人こそ、ビジネス書ではなくて絵本を読むべきなのかもなんて思います。
――森さんの特にお気に入りの絵本はありますか?
森:ハマっているのはヨシタケシンスケさんの本です。
絵柄がとても可愛いですし、大人のこりかたまった思考をゆるゆるにしてくれます。
ヨシタケシンスケさんの『りんごかもしれない』は、セミナーの教材に使っています。
もう大人たちも大爆笑です。想像力を働かせてアイディアを絵や言葉にしてもらいます。すごく面白いので大人の皆さんにオススメしたいです。
※インタビュー後編では、今すぐ出来る!マインドフルネス実践法などをお伺いします。
森夕花:カングロ株式会社 取締役執行役員/ライフコーチ/マインドフルネスアート研究家
神奈川県横浜生まれ。尚美高等音楽学院卒業。京都芸術大学芸術学部卒業。1993年、ドイツの環境先進都市フライブルクに留学。自然と調和したライフスタイルを学ぶ。2002年より心と身体を癒すヒーリング・カウンセラーとして活動。2015年から企業のライフコーチとして、個人セッション、研修等を行っている。現在、ライフコーチの他、「大人のためのアート思考講座」「Philoarts研究会」「マインドフルネスアートワークショップ」「サステナ塾」「目覚めの瞑想会」など講座、ワークショップを中心に活動を行っている。
参照リンク:マインドフルネスとウェルビーイング
厚生労働省『「統合医療」に係る 情報発信等推進事業』
(ウェルなわたし/ 中村 梢)